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2 Caseエビータ②

「ほかに方法は無いのかな」

 珍しくゼロが苦々しい顔で呟いた。

「依頼人の希望だ。叶えてやるのも仕事だろ?」

「そりゃそうだけど」

 作戦会議室の雰囲気は重かった。
 普段ならかなりエグイ仕事でも笑顔で遂行するメンバーたちが黙り込んでいる。
 メンバー全員が囲んでいる作戦会議円卓を見まわしてベルガが口を開いた。

「彼女の希望は叶えます。おそらく彼女は気づいているのよ。今回のターゲットは唯の始まりだということを」

 全員がベルガを見た。

「彼女が死を迎えるまで一か月と言ったわ。言い換えると私たちの準備期間は半月ということ。迷っている時間は無いのよ。手分けして裏どりをするわ。もしかしたら物凄い大物を釣り上げるかもしれない。今回のオペレーションリーダーはゼロ。サブはヌフにするわ。ヌフは全ての情報を把握して、あなたと力を発揮して欲しいの」

 メンバー最年少のヌフの顔が紅潮した。
 隣に座るアンがそっとヌフの頭を撫でた。

「大丈夫? できそう?」

「うん。僕頑張るね」

 その様子を見たベルガが大きく頷いて、声を張った。

「ゼロはここに残って情報収集と作戦の立案。現場の指揮はオーエンよ。ゲッツセッツ!」

 全員が立ち上がり、自分の役割を果たすために散った。
 ゼロがサシュを呼び止める。

「サシュの知り合いじゃない? コンタクト取れる?」

「ああ、目星はついているよ。金で動く奴だから情報は引き出せる」

 そう言うとサシュはスッと消えた。
 ゼロは作戦テーブルに戻り、ヌフの横に座った。

「何か感じたらすぐに教えてくれ」

「わかった」

 ヌフは静かに瞑想を始めた。
 翌日からポツポツと情報が集まり始める。
 最初に情報をもたらしたのは五男のセプトだった。
 彼の能力は動物会話。
 セプトはE国ロレンソ子爵邸の近くに生息する野生動物たちから情報を聞き出していた。

「あの子たちが言うには、実際に子供を攫うのはロレンソ家の家令だそうだよ。家令が攫ってマイケル子爵補佐に渡すんだ。受け取ったマイケルは秘密の小屋で子供を殺して必要な臓器を瓶詰にしているんだって言ってた」

「吐きそうな話だ」

「うん、僕も聞きながら何度も吐いちゃったよ。それでね、不要な臓器は纏めて山の湖に捨てるんだってさ。魚の餌にするらしい。それでね、これは狸の夫婦に聞いたんだけど、その湖の魚はおいしいって評判で、市場に出せば高値で取引されるんだってさ」

「マジかよ……」

「すぐ売れちゃうからこのZ国まで流通することは無いみたいだけど、僕はもう魚は食べられないかもしれない」

「気持ちはわかるが、好き嫌いはダメだよ?海の魚だけでも食べるようにしようね」

「うん、頑張るけど……ゼロはこの話を聞いてもお魚食べられる?」

「いや……淡水魚は無理かも」

「あっ、それとね。えっと……これはカラス君が教えてくれたんだけど、納品先はZ国だって」

「そうか。よく頑張ったなセプト。少し休んだらもう一回頼めるか?」

「うん、今度は何を調べるの?」

「なぜ遺体を返すのかがわからない。不要な臓器を始末するなら体も同じようにすれば完全犯罪だ。なのになぜ危険を冒してまで遺体を運んで道路に放置するのか……」

「わかった。そう言うことなら雀さんたちに聞いてみると何かわかるかもしれない。大麦を貰っていくけど良い?」

「ああ、彼らへの礼だろ? 好きなだけ持っていきなさい。必要なら買えばいい」

「ありがとう。じゃあお肉も準備するね」

 セプトは手を振って部屋を出た。
 ゼロはセプトの背中を見送りながら、顎に手を当てて考え込んだ。
 遺体を戻すのもそうだが、薬の原材料にするには発生頻度が低すぎないか?
 マイケルは納品者の一人というだけで、他にもいるのではないか?
 しかし、これほど猟奇的な事件にも拘らず、それほど話題になっていないのはなぜだ?

「ただいま」

「ああ、トワ。どうだった?」

「うん、F国とG国を回ってきた。今回のとは違うけど、数年に一度程度で神隠しと呼ばれる事件は発生しているよ。でも遺体は発見されていないんだ」

「なるほど。ひとつの疑問は解決できそうだ。後はサシュ待ちだな」

 ゼロはそう言うと、トワの大好きなオレンジティーを淹れるために立ち上がった。
 それからもメンバーが続々と情報を持ち込んでくる。
 それらを纏めながら、ゼロはある仮説を立てたのだった。

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