358章 ホノカの冷たい過去
夕食の時間がやってきた。
「ミサキちゃん、体の調子はだいじょうぶ?」
「うん。いけるよ」
おなかを調節するために、部屋でスナック菓子を食べていた。すぐに食べられて、大量のカロリーを消費できる。
ミサキは気になっていた質問をぶつける。
「ホノカちゃん、どうして別れたの?」
ホノカは瞼を小さく閉じた。
「同居するようになってから、双方の意見の食い違いは多くなった。どうしても妥協できなくて、大声で怒鳴りあったりもした」
ホノカはのんびりとしていて、大声で怒鳴るタイプには見えない。話は幻であるように感じられた。
「流産をすることによって、関係を終焉させることにしたの。赤ちゃんを降ろしたあと、本当に申し訳ないことをしたと思ったよ」
人をポカポカにする女性が、流産という道を選ぶ。人は見た目とは裏腹に、残酷な一面を持っている。
ミサキは両親の喧嘩を思い出す。家の中において、「死ね」、「お前を絶対に殺す」といった、暴言の応酬だった。顔を見るのは嫌になったとしても、それは言い過ぎかなと思っている。
拳と拳によるバトルもあった。どちらもボロボロになるまで、足などを殴りあっていた。顔を避けていたのは、暴行であることを疑われないようにするためだと思われる。
ホノカはふぅっと息を吐いた。
「ここにやってきたのは、うっぷんを晴らすためなの。外泊することで、心身をリセットしたかった」
「ホノカちゃん、心身はリセットできそう?」
ホノカは首を縦に振った。
「ミサキちゃんと出会えたことで、心はとってもポカポカになった。明日からは頑張っていけると思う」
「よかった・・・・・・」
「パン屋に復帰する予定だから、ちょくちょく寄ってくれると嬉しい」
「すぐに働くの?」
「そうだよ。退職金などをほとんど使い果たしたから、労働をしないといけない状況になった。さもなくば、アオイちゃん、ツカサちゃんと同じ生活を送らなければならない」
腹ペコ女性は何もしなくても、一カ月に100万ペソを振り込まれる。湯水のようにお金を使ったとしても、底をつくことは早々ない。
「ミサキちゃんは、妖精さんからお金を支給されているみたいだね」
「そうだね。何もしなかったとしても、大金を支給される」
お金をもらえる代償として、究極腹ペコのステータスを付与された。14時間については、とに
かく食べることを要求される。
行動の制限も非常に大きい。自宅を出られるのは、仕事、買い物のときくらいである。
「お金をもらえるだけでなく、天才的な才能をいくつも持ち合わせている。私からすればとってもうらやましいよ。一つでもいいから、こちらに分けてほしい」
交際をする前は、弱音を吐くような女性ではなかった。流産したことによって、人間は大きく壊れた。
ミサキは優しい手つきで、ホノカの背中を撫でた。
「少しずつでいいから、自分を取り戻していこう」
「そうだね。前向きにならないといけないね」
人間を一瞬で後ろ向きにさせる恋愛。慎重に取り扱わなければ、大家事になりかねない威力を秘めているようだ。