バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

346章 意外な人物の治療

 体を休めるために、横になった。

「ミサキちゃん、ゆっくりと休んでね」

 3時間くらいの睡眠を取れればいいけど、腹ペコ成人には無理である。数時間おきに食事をとらなければ、空腹地獄を強いられる。空腹地獄は、足の痛みの何倍、何十倍の辛さを伴う。

 アヤメはこちらにやってきた。

「次の仕事があるから、ここまでしか付き合えない。ミサキちゃん、早く回復するといいね」

 フリーになってから、さらに忙しくなっている。体を大切にしないと、エマエマみたいになりかねない。

「アヤメちゃん、仕事を頑張ってね。体も大切にするのも忘れないで」

「ミサキちゃん、ありがとう」

 エマエマは呼吸を整えてから、アヤメに声をかける。

「アヤメさん、これからの活躍を期待しています。テレビで見ているだけで、たくさんのエネルギーをもらえます」

 柳俳優団を三流軍団と切り捨てた女性に、ここまでいわせるとは。アヤメに対して、最高級の評価を下している。

 アヤメ、エマエマはがっちりと握手をする。ほんの一瞬だったけど、とっても強い絆を感じられた。

 アヤメと入れ替わりに、新しい客人がやってきた。

「ミサキちゃん、体はどうなのだ?」

 独特の口調だけで、誰なのかはすぐに分かった。

「フユコちゃん、太腿、足首に痛みがある」

「フユコが手当てをするのだ。すぐに苦しみから解放してあげるのだ」

 フユコは鞄の中から、包帯を取り出す。

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢するのだ」

 フユコは患部に布を巻いていく。手慣れているのか、スムーズに進行する。

「フユコちゃん、上手だね」

「父、母、兄は医者をやっているのだ。医療のいろはを教えてもらったので、簡単な治療はできるのだ」

 家族で3人も医者になる。フユコの一家は、エリートぞろいのようだ。

「マイちゃんの猫アレルギーは、なんとかできないの?」

 シノブの質問に対して、フユコは首を横に振った。

「猫アレルギーを完治させる方法はないのだ。医学の力があっても、どうすることもできないのだ」

 一つの病気を解決すれば、新しい病気に悩む人が生まれる。病気の治療は完全に後追いになってしまっている。

 フユコは短時間で手当てを終えた。

「ミサキちゃん、体を起こしてみるのだ」

 ミサキはゆっくりと体を起こす。先ほどまでと比べると、痛みは軽減されていた。

「フユコちゃん、とっても助かったよ。ありがとう」

 フユコはアホ毛で、喜びを表現する。

「フユコは役に立てて、とっても嬉しいのだ」

 エマエマは治療を終えた女性を称える。

「フユコちゃん、すごいね」

 褒められたことが嬉しかったようで、アホ毛はまっすぐに伸びていた。

「そんなことはないのだ。これくらいは誰にもできるようになるのだ」

 医療は専門的な知識を必要とする。初心者にできるような、簡単なものでないことは確かだ。

しおり