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339章 焼きそばをうまく作れない

 マリの言葉が焼きついてしまって、仕事に集中できなかった。

「ミサキちゃん、元気出して・・・・・・・」

 従業員に心配されるならまだしも、お客様に慰められるのは良くない。大きな背伸びをして、気分転換を行った。

 シノブは焼きそばを運んだ。ソースの優しい香りは、食欲を大いに刺激。仕事をしていなかったら、あっという間に食べきっていたと思われる。

「お客様、焼きそばになります」

 20くらいの女性は、出来立てほやほやの焼きそばを、ミサキの目の前に置く。

「ミサキちゃん、焼きそばを食べる?」

 食べたい気持ち90パーセント、罪悪感10パーセントだった。食欲の前には、罪の意識は太刀打ちできないこともある。

「焼きそばをもらってもいいですか?」

「しっかりと食べて、元気いっぱいになってね」

「ありがとうございます」

 ミサキは割り箸を割ると、無我夢中で焼きそばを食べ進める。あまりのおいしさに、瞳から涙がこぼれていた。

「ミサキちゃん、すごい食べっぷりだね」

 最初は恥ずかしいと思ったけど、最近はそのように思わなくなった。貪欲に食事しなければ、体型を維持するのは厳しい。生きるためには、少々の恥は受け入れる必要がある。

 フユコが焼きそばを、お客様の元に運んだ。

「焼きそばです。ゆっくりとお召し上がりください」

 語尾の「なのだ」を、仕事中は封印する。普段、お客様の前で、きっちりと使い分けをしている。

 アズサは焼きそばを、お客様に提供する。

「お客様、塩だれ焼きそばです」

 18歳くらいの女性は、顔をちょっぴりしかめる。

「あまりおいしくなさそうだね・・・・・・」

 焼きそばの色からして、おいしそうには見えなかった。お客様の言い分はもっともであるといえる。

 アズサは週に一度の仕事であるため、焼きそばづくりに精通していない。シノブ、マイ、ユタカ、シラセ、フユコと比較して、見劣り感は否めない。

「すみません。作り直してきます」

 アズサを見ていると、胸はちくりと痛んだ。人はいいだけに、早く戦力になってくれるといいな。

 ミサキのところに、シノブがやってきた。

「フユコさんが突き指をしました。回復するまでの間、調理に参加していただけないでしょうか」

 ミサキは元気な声で返事する。お客様の相手をするよりも、調理をしているほうがずっと楽しい。

「わかった。調理する」

 ミサキの焼きそばを食べられると知ってか、店内は大いににぎわうこととなった。

「ミサキちゃんの焼きそばを食べられるかも・・・・・・」

「腹ペコ少女の焼きそばはとっても楽しみ」

 20歳を迎えたものの、腹ペコ少女という呼び方は変わらない。馴染んでしまった相性は、永遠に語り継がれることになりそうだ。

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