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第百二話 決戦、死の山(七)

--夕刻。

 帝国軍は、撤収を完了して死の山(ディアトロフ)から離れていた。 

 飛行空母ユニコーン・ゼロの飛行甲板の上にユニコーン小隊のメンバーであるハリッシュ、クリシュナ、ヒナ、ケニーの四人と、帝国四魔将のアキックス、ヒマジン、エリシス、ナナシが集まっていた。

 ハリッシュは、死の山(ディアトロフ)での経緯、革命党によって死の山(ディアトロフ)が帝都に落とされるであろうこと、ラインハルト達が革命党幹部を追って行ったことなどを帝国四魔将に話した。

 アキックスが目を閉じ、やや上を向いて呟く。

「・・・そうか。殿下は皇妃の骸を手に掛けたか。・・・さぞ、辛かっただろう」

 ヒマジンが尋ねる。

「殿下は泣いていたか?」

 エリシスが答える。

「いいえ。殿下は涙は見せなかったわ。たぶん、心で泣いていたと思う」

 ナナシが憤る。

「息子に母親の骸を斬らせるなど、外道の所業だ。許せん」






 エリシスが話題を変える。

「・・・それで。殿下は死の山(ディアトロフ)を『禁呪』で破壊する許可を出してくれたのね?」

 ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後、説明する。

「はい。おっしゃるとおりです。私と貴女で禁呪を使えば、あの死の山(ディアトロフ)を破壊できると思います」

 そう言ってハリッシュは、懐から帝国魔法科学省から持ってきた『禁呪の書』を取り出す。

 エリシスは『禁呪の書』を見て微笑む。

「あら? それって、私が書いた本じゃない」

 ハリッシュが『禁呪の書』の裏表紙を見ると、「著者 エリシス・クロフォード」と名前が記されていた。

「なんと!? 貴女が記した本でしたか!!」

 エリシスは微笑む。

「そうよ」

 エリシスは『禁呪の書』をパラパラと頁をめくってハリッシュに見せる。

「この『隕石落とし(メテオストライク)』なんて良いんじゃない? コレなら二人同時に使えば、死の山(ディアトロフ)も破壊できそうね」

 エリシスの案にハリッシュも同意する。

「なるほど・・・。それにしましょう」 

 ハリッシュの元にクリシュナがやってくる。

「ハリッシュ。しっかりね」

 そう言うと、クリシュナはハリッシュにキスする。

 ハリッシュは正面からクリシュナを見詰める。

「クリシュナ。私は、貴女と貴女との日常を守るために魔導師になりました。見ていて下さい」

 そう告げると、ハリッシュとエリシスは、飛行甲板の前方へ歩み出る。

「いくわよ、色男さん!」

「はい!!」

 エリシスの号令で、ハリッシュとエリシスの二人は両手を広げ、同時に魔法の詠唱を始める。

Фрагмент(フラグメント・) звезды,(ゼヴェズディー,) дрейфующей(ディレィフーシュ・) за(ズィ・) пределами(プリデルミ・) Луны(ルニー).」

(天地創造より月の彼方に漂う星の欠片)

 エリシスとハリッシュの足元に一つ、そして頭上に一定間隔で巨大な魔法陣が10個現れる。

Фрагмент(フラグメント・) звезды(ゼヴェズディー・), плавающей(プラーヴシュー・) в(ヴ・) беско(ベスカ)нечной(ニーチニー・) вселенной.(セレノニー)

(無限の宇宙を漂う星の欠片よ)

 更にエリシスとハリッシュの四方に縦の魔法陣が現れる。

За(ザ・) пределами(プレデルミ・) самолета,(サマロータ・) выйди(ヴィデ・) из-за.(イーザ)

(次元を越えて彼方より来たれ)

 二人の周囲に『積層型立体魔法陣』が現れる。

Это(エト・) метеор,(メテオール、) который(カトルル・) разбивает(ヴィヴァイェット・) небо.(ニヤバ、) Превра(プリヴァラ)титься(ティッツア・) в(ヴ・) горящий(ゴリャシャシャ・) огонь.(ゴン)

(天地を砕く流星よ。灼熱の業火と化せ)

Станьте(シュタンツイェ・) звездным(ゼヴェニョム・) пузырем(ポゼリョン・) и(イ・) сокрушите(ソクルシュテ・) моих(モイ・) врагов! !(ヴラゴフ!!)

(星の飛礫(つぶて)となりて、我が敵を粉砕せよ!!)

Падение(パーデーニ・) метеора(メテオーラ!!)!!」

隕石落とし(メテオ・ストライク)!!)

 二つの積層型立体魔法陣は、光の粉となって宙に消える。





 空を引き裂くような轟音と共に、空の彼方から二つの隕石が死の山を目掛けて落下してくる。

 それは二つの巨大な火の玉に見えた。

 それぞれ違う方向から現れた二つの隕石は、ほぼ同時に死の山(ディアトロフ)に命中する。

 視界の全てが真っ白くなるような眩い閃光の後、激しい爆発音と衝撃波がユニコーン・ゼロに届く。

 爆発によって発生した巨大なきのこ雲は、高度の低い乱層雲だけでなく、高高度の巻層雲に円形に穴を開けて立ち上る。

 地上の山地の表面を衝撃波が伝い、生い茂る木々を薙ぎ払っていく。








 死の山(ディアトロフ)は、二つの巨大な隕石の直撃を受けて消滅した。

 空母ユニコーン・ゼロの面々は、二つの隕石が死の山(ディアトロフ)もろとも天地を砕く光景に絶句していた。

 禁呪の威力を知っているエリシスは、不敵な笑みを浮かべ、その光景を眺めていた。

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