330章 天と地
ミサキの家に、新たな来客がやってきた。
「ミサキちゃん、ヤッホー」
ホノカは右手に袋を抱えていた。
「ミサキちゃんに、パンの差し入れだよ」
食料を食べに来るだけの女性、差し入れを持ってくる女性は大違いである。アオイ、ツカサにも優しさを学んでもらいたい。
「ホノカちゃん、ありがとう」
ミサキはパンを食べる。ふんわりとした食感は、食べているものを幸せにする。
「ホノカちゃん、おいしいよ」
「ミサキちゃんの家の近くで、アオイちゃん、ツカサちゃんを発見したよ。もしかしたらだけど・・・・・・」
ミサキは小さく頷いた。
「食べ物を求めて、うちにやってきたよ」
「食べ物を得られないほどに、困窮しているんだね」
「ホノカちゃんは何か知っているの?」
「アオイちゃん、ツカサちゃんは、単純ミスを繰り返して、いろいろなところで懲戒免職になったみたい。懲戒免職の噂は広がっていき、どこも雇ってくれなくなった。最近は時給の極めて安いアルバイトで、食いつないでいるといっていた」
一社なら相性もあるけど、複数となると実力不足だ。どこの会社に勤めても、雇止めになる確率は高い。
「相手を傷つける性格も災いしているみたい。他の社員から煙たがられて、社内で何度も孤立した」
ミスをするだけでなく、相手を傷つける性格をしている。会社としては、置いておく価値はまったくなかった。
「アオイちゃん、ツカサちゃんは好きではないけど、ほんのちょっぴり同情しているよ」
「ホノカちゃん・・・・・・」
「ミスをしたくてミスをするのはダメだけど、ミスをしたくないのにミスをするのはかわいそうだよ。本人たちはもがいているんだと思う」
ホノカの優しさは、純粋にすごいと思った。ミサキはどんなに人間性を磨いても、同じような思考はできない。
「仕事に就けない人たちのために、募金制度ができるといいね。そうすれば、仕事をしなくても生きられるようになる」
ホノカの温かさに対して、涙は一滴、一滴と流れることとなった。