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第九十三話 首都攻略戦(七)

 皇帝一家の肖像画を見て固まる三人のところへ、他の小隊メンバーがやって来る。

 三人が固まって見詰める肖像画を、他の小隊メンバーも見上げる。

 ハリッシュが驚きの声を上げる。

「これは!?」

 ケニーも驚く。

「ええっ!?」

 クリシュナは驚いた表情のまま、無言で肖像画を見詰める。

 ジカイラが拍子抜けした声でラインハルトに尋ねる。

「なぁ・・・。コレって、どう見てもお前だろ? なんでお前が皇帝一家の肖像画に描かれているんだ?」

 肖像画を見た当のラインハルト自身も驚きを隠せない。

「・・・判らない」

「自分の事なのに、判らないのかよ?」

「ああ。父さんに拾われるまでの、過去の記憶が無いからな」 

「なるほどな」

 ハリッシュが突然、大声を上げる。

「ああああ! なるほど!! そういう事ですか!!」

 周囲が驚き、ジカイラがハリッシュに尋ねる。

「どうしたんだ? ハリッシュ??」

「判りましたよ」

 ナナイもハリッシュに尋ねる。

「なにが?」

 中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後、ハリッシュの解説が始まる。

「『真理の鏡』の謎掛け(リドル)と、この肖像画ですよ! 良いですか!? 皇太子は貴方です! ラインハルト!!」

 ラインハルトが驚く。

「私が・・・皇太子?」

 ハリッシュが続ける。

「そうです! 『生きているが、存在しない』とは、 皇太子である()()()()()()()()()()()()! しかし、皇太子としての記憶は無く、()()()()()()()()()()!!」

 ハリッシュは興奮しながらガッツポーズで続ける。

「『それは汝が望む時に現れる』とは、ラインハルト!! 貴方自身が()()()()()()()()()()()()()()()()()です!!」

 ハリッシュの解説にハリッシュ以外の小隊一同が驚く。

 絶句してラインハルトを見詰めていたナナイが呟く。

「貴方が・・・皇太子で・・・私の・・・婚約者(フィアンセ)」 

 ナナイはラインハルトの傍に行くと、その胸にすがりつく。

 ナナイは嬉しかった。

 ナナイは、ラインハルトとの今までの出来事を思い出す。
 
 純朴な田舎の工房育ちの青年であり、無口でクールな反面、内面は純粋で激情の持ち主。

 美しく端正な顔と金髪。アイスブルーの瞳。長身もさることながら、プロボクサーのような引き締まった肉体の持ち主。

 自分よりも強い近接最強職の上級騎士(パラディン)であり、帝国騎士(ライヒスリッター)筆頭の証である緋色の肩章(レッドショルダー)の持ち主。

 全てを捨ててでも、自分のために戦ってくれる。身を挺して守ってくれる。

 列車の揺れからも、絡んできたチンピラからも、ガレアスの提督からも、秘密警察からも、死者の魔導師(エルダーリッチ)の魔法からも。

 英雄達と肩を並べ『救国の英雄』と呼ばれても、どんな地位も、名誉も、富も望まず、自分と一緒になることだけを望み、無償の愛を注いでくれる。

 自分を思いやり、決して傷つけようとしなかったが、やっと()()()()()()()()。自分を奪ってくれた。 

 小隊全員の前で、帝国四魔将に一緒になる事を認めさせた。

 親同士が決めた婚約者(フィアンセ)は、一目惚れから始まった『初恋』の恋人であり、『永遠の愛』を誓い合うべき『運命の人』であった。

 ナナイは胸が一杯になり、ラインハルトの顔を見上げる目には、薄っすらと涙が浮かんでくる。

 ナナイはラインハルトの首に腕を回すとキスした。

 



 ラインハルトとナナイの様子を見ていたジカイラがワザとらしく咳払いをして声を掛ける。

「ゴホン。殿()()。ここでこうしていても仕方がない。行こうぜ!」

 ラインハルトは苦笑いしながらジカイラに答える。

殿()()はよせよ。今まで通りで頼む。・・・それで、何処に行くんだ?」

「決まってるだろ? 革命宮殿・・・いや、『(カイザリヒャー・)(パラスト)』へ!!」

「そうだな」

 ユニコーン小隊は、帝国大聖堂を後にし、飛空艇で(カイザリヒャー・)(パラスト)へ向かう。





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 エリシスが率いる南部方面軍とナナシが率いる西部方面軍が首都目前に迫る頃、一隻の輸送飛空艇が、群衆がなだれ込みつつある革命宮殿併設の飛行場から離陸した。

 眼下には雲霞の如く押し寄せる群衆に飲み込まれる革命宮殿の様子が見て取れた。

 輸送飛空艇には、ヴォギノが率いる革命党と革命政府の構成員達が乗り込んでいた。

 ヴォギノがコンパクに命令する。

死の山(ディアトロフ)に向かえ」
 
「了解しました」





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 ラインハルト達は、『(カイザリヒャー・)(パラスト)』前の広場に飛空艇を着陸させる。

 宮殿は既に蜂起した市民達によって制圧されつつあった。

 飛空艇から降りて来たラインハルト達を見た市民の一人が大声で叫ぶ。

「ラインハルト大佐が来たぞ!!」

 (カイザリヒャー・)(パラスト)へ歩みを進めるラインハルト達の前では、宮殿を埋め尽くしていた市民が左右に別れ、真っ直ぐ宮殿に向かう道が作られる。

 ラインハルト達は、市民が左右に別れて出来た道を(カイザリヒャー・)(パラスト)に向けて歩いていく。

 道の左右の市民からラインハルト達に向けて歓声が沸き起こる。

「「帝国、万歳(ジーク・ライヒ)!!」」

「「帝国、万歳(ジーク・ライヒ)!!」」

「「帝国、万歳(ジーク・ライヒ)!!」」

 ユニコーン小隊は、歓声を上げる左右の市民に手を振って答えながら、その歩みを進める。

 (カイザリヒャー・)(パラスト)の中庭にある国旗掲揚塔から革命旗が引き下ろされ、帝国旗が掲げられる。

 ラインハルト達は、(カイザリヒャー・)(パラスト)の建物の入口から、振り返ってその様子を見ていた。







 ここに革命から七年に渡ってアスカニア大陸に戦争と動乱を引き起こしてきた革命政府は潰えた。

 ラインハルトが小隊メンバーに話し掛ける。

「もう、ひと仕事、しないとな」

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