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第九十四話 皇宮

 ラインハルト達ユニコーン小隊は、蜂起した市民達と革命宮殿を制圧。

 ヴォギノと革命党、革命政府の構成員は、金貨を持って輸送飛空艇で死の山(ディアトロフ)へ逃亡した。

 革命軍は首都内の各所で抵抗していたが、夜半には、帝国の四個方面軍による首都の完全包囲と革命政府の逃亡を知り、革命軍が降伏。

 ラインハルトは、皇宮に帝国四魔将を呼び、今後の方針を協議することにした。






 程なく(カイザリヒャー・)(パラスト)の会議室に関係者が集まる。

 アキックス伯爵が口を開く。

「皆、ご苦労だった。帝国魔法科学省と帝国大聖堂を探索した結果はどうだった?」

 ラインハルト達は帝国魔法科学省と帝国大聖堂を探索した結果と『真理の鏡』の謎掛け(リドル)、皇帝一家三人が描かれている肖像画の事、ラインハルトが皇太子だと結論づけた理由などを、包み隠さず帝国四魔将に話した。

しばしの沈黙の後、帝国四魔将の筆頭であるアキックス伯爵が口を開く。

「少し我々だけで話をさせて欲しい」

アキックスの言葉に従い、ラインハルト達、ユニコーン小隊は席を外す。






 「ラインハルトが皇太子である」というハリッシュの見解は、意外にすんなりと帝国四魔将に受け入れられた。

 アキックスが見解を述べる。

「私は、皇太子殿下が赤子の時に拝謁したことがある。肖像画の皇太子殿下と同じ金髪、同じ碧眼、同じ容姿。そして、いきなり上級騎士(パラディン)になったというその才能も人柄も品格も帝国の皇太子として申し分無い。私は彼を皇太子として認めようと思う」

 ヒマジンも見解を述べる。

「肖像画の皇太子殿下と同じ特徴で同じ容姿というのもそうだが、いきなり上級騎士(パラディン)になって、アキックスと五分に斬り合える奴がこのアスカニア大陸に何人居ると思う? 『帝室の血を引く』という根拠なら全てが説明つく。オレも認める」

 エリシスも見解を述べる。

「私は七百年以上を生きて、帝室を見守ってきたわ。彼は大帝に瓜二つよ。選ぶ道は正反対だけど。肖像画もそうだけど、生まれながらにして上級騎士(パラディン)の力を持つのは大帝の子孫、帝室の血を引いている『動かぬ証拠』よ。私は彼の優しさが好き。私も彼を皇太子として認めるわ」

 ナナシも見解を述べる。

「高潔な魂を持つ純朴な青年だ。上級騎士(パラディン)の力を持っていた事も、能力的にも『帝室の血』を引いているのは間違いない。『帝都を守り革命政府を倒した救国の英雄は皇太子だった』のほうが、今後の帝国統治もやり易いだろう。彼は民衆から愛されている。私も彼を皇太子として認めよう」

 アキックスが結論を述べる。

「全員一致だな」

 エリシスがアキックスをからかう。

「貴方の可愛い、あの()の夫としても合格でしょ?」

 アキックスが答える。

「勿論だ」

 ヒマジンが茶化す。

「オレが斬り合ったあの()が皇太子妃になり、将来は皇妃か。恐ろしい」

 ナナシも口を開く。

「最初から皇太子として満点でなくとも良い。我等が教え導けば良いのだ。『帝室の血』こそ、我等の忠誠の対象なのだから」

 帝国四魔将の結論が出た事から、再びラインハルト達は会議室に招かれる。

 アキックスがラインハルト達に告げる。

「我々、帝国四魔将も君を皇太子として認める」

 ラインハルトが御礼を述べる。

「ありがとうございます」

 アキックスが続ける。

「君が皇太子であることを広く国民に知らしめる必要があるだろう。ついては帝国軍入城式をやろうと思う」

 ラインハルトが尋ねる。

「入城式?」

 アキックスが答える。

「凱旋式のようなものだ」

 小隊全員が驚く。

「「おおっ!!」」

 アキックスが続ける。

「後は我々の方で段取りする。ゆっくり休んで欲しい」

 再びラインハルトが御礼を述べる。

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 ラインハルト達は会議室を後にする。








 (カイザリヒャー・)(パラスト)には侍従がおり、ラインハルト達の身の回りの事を世話してくれていた。

()殿()()は、こちらへ」 

 ラインハルトとナナイが侍従に案内されたのは、『皇帝の私室』であった。

 他の小隊メンバー達は、貴賓室に案内されていた。

 『皇帝の私室』は、執務室、応接室、寝室、控室の四部屋が繋がっていた。

 ラインハルトは『皇帝の私室』を見回す。

 『皇帝の私室』の応接室は、広く豪華な装飾が施され、あちらこちらに高そうな調度品が置かれているのがラインハルトの目に映る。

「広いな・・・」

 平民育ちでなんとなく落ち着かないラインハルトが思わず口にした言葉を聞いて、ナナイは口元に手を当ててクスッと笑う。

「バレンシュテット帝国皇帝は、世界一のお金持ちよ。それに『()()』で住むと、広過ぎることは無いと思うわ」

 そう言うとナナイは私室のテラスへ出る。

 ラインハルトもナナイの後に続く。

 テラスからは彫像に囲まれた豪華な噴水のある白い大理石で作られた中庭が見えた。

 ナナイはテラスから中庭を見渡すと、一呼吸置いてラインハルトの方を振り返る。

 月明かりが穏やかな夜風に当たるナナイの顔を照らし出す。

 ナナイは、両手を後ろに回してテラスの手すりに寄り掛かり、うっとりとラインハルトを見詰める。

「ありがとう。貴方のおかげよ。最高の新居だわ」

 女性なら恋人と新しく一緒に生活を始める際に、恋人が用意してくれた新居に胸をときめかせる心境、今のナナイの気持ちも判るだろう。

 ラインハルトはナナイの言葉で思い出す。

 皇帝亡き今、皇太子である自分が、アスカニア大陸で最も大きく最も豪華な、この(カイザリヒャー・)(パラスト)の主であり、婚約者(フィアンセ)のナナイと暮らす新居なのだと。

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