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第九十二話 首都攻略戦(六)

--少し時を戻した革命政府

 革命党軍事委員のコンパクが玉座の間に駆け込んでくる。

「ヴォギノ主席! 大変です!! 帝国軍の飛行船が市街地上空に!!」

「なんだと!? すぐ撃ち落とせ!!」

「しかし、何者かの破壊工作で市街地全域で黒煙が立ち上り、防空塔が全く機能しません!!」

「クソッ!!」

「それに飛行船からこのようなビラが」

 コンパクは、カマッチ達が首都上空にバラ撒いたビラをヴォギノに見せる。

 ビラの宣伝文を読んだヴォギノは激怒して、ビラを破り捨てる。

「ぐぬぬぬぬ! あやつらは、メオスの王都攻略戦で死んだのではなかったのか!!」

「どうやら、生きていたようです」

 伝令兵が玉座の間に駆け込んでくる。

「申し上げます! 一大事です! 秘密警察本部が巨大なストーンゴーレムを操る武装集団に襲撃され、破壊されました!! 現在、武装集団と秘密警察本部前で戦闘中との事です!!」

「一体、どうなっているのだ!?」

 コンパクがヴォギノに答える。

「わ、判りません」 

 少しの時を挟んで、別の伝令兵が駆け込んでくる。

「申し上げます! 帝国軍の二個方面軍が首都の目前に到達しました!!」

「一大事です! 武装蜂起した群衆が、この革命宮殿に押し寄せています!! 現在は革命宮殿前の広場で革命軍部隊と衝突しております」

 ヴォギノは、あまりのショックに呆然と立ち尽くす。

(・・・終わりだ)

 ヴォギノは、何かに気が付いたように、ハッとして我に返る。

「コンパク! 私の金貨を輸送飛空艇に積み込め!!」

「了解しました」

 ヴォギノは玉座の間から立ち去るコンパクの後ろ姿を見つめる。

(・・・金貨さえあれば)




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 ラインハルト達は、ジカイラ達の飛空艇の傍に自分たちの飛空艇を着陸させると、援軍と共に秘密警察本部前で派手に戦闘しているジカイラ達と合流する。

 ラインハルトがジカイラに尋ねる。

「一緒に戦っているのは、何処の部隊だ?」

 ジカイラが答える。

「冒険者ギルドらしいぞ」

 ハリッシュがジカイラに話し掛ける。

「帝国魔法科学省に皇太子は居ませんでした。 ここは彼らに任せて、我々は帝国大聖堂に向かいましょう」

 ジカイラが返事する。

「判った!」

 ラインハルトが冒険者ギルドの集団に叫ぶ。

「冒険者ギルドの代表者は居るのか!!」

 戦闘している集団の中から返事が来る。

「ここだ! 今、そっちに行く!!」

 少しして、冒険者風の集団が現れ、リーダー格の男が話し掛けてくる。

「貴方がラインハルト大佐ですか? この冒険者集団を任されたフオフオです」

 ラインハルトが返答し、握手する。

「私がラインハルトです。御協力に感謝します。我々はこの後、別の施設に向かいます。此処をお任せしたいのですが」

「おぉ! 我々に任せて下さい!! 御武運を祈ります!!」

 ラインハルト達は、フオフオ達に一礼すると自分たちの飛空艇に向かう。

 フオフオは、自分達のパーティーに指示を出す。

「ロマイヤー! プルアップ! ユーブラック! この戦場は我等が預かることになったぞ!!」

「「おう!!」」

 ラインハルト達は飛空艇に乗ると、再び低空飛行で首都の反対側にある帝国大聖堂に向かう。

 ラインハルト達の四機の飛空艇は、革命宮殿の上空を通過する。

 革命軍の敗残兵は敗走し、革命宮殿に蜂起した市民達が雪崩込んで行く。

 ラインハルトは伝声管でナナイに話し掛ける。

「革命政府の最後だな」

「最後はあっけないものね」

 ラインハルト達の四機の飛空艇は、六本の結界塔に囲まれた巨大な大聖堂の中庭に着陸する。









 帝国大聖堂は、バロック様式に似た様式の巨大かつ荘厳な建物であり、かつてバレンシュテット帝国の信仰と布教の中核施設であったが、革命によって閉鎖されていた。

 ラインハルト達は、ケニーが入り口を解錠し、人の気配がしない大聖堂の中へ入っていく。

 大聖堂の廊下を主祭壇に向かって歩みを進める。

 ハリッシュが歩きながらラインハルトに話し掛ける。

「そう言えば、『真理の鏡』に皇太子の事を尋ねたのですよね?」

「ああ」

「『真理の鏡』の答えはなんと?」

 ラインハルトは帝国魔法科学省の宝物庫での出来事を話す。

「真理の鏡に『皇太子は生きているのか? 死んでいるのか?』と尋ねたら、文字が浮かび上がり、『生きているが、存在しない』と書いてあった」

 ハリッシュは考え込む姿勢を取り返事をする。

「ふむ」

「次に『皇太子は何処に居る?』と尋ねたら、私の姿を写して、文字が浮かび上がり『それは汝が望む時に現れる』と」

「・・・なるほど」

謎掛け(リドル)さ。どういう意味か判るか?」

 疑問を口にするラインハルトにジカイラが冗談めいた意見を述べる。

「ラインハルト自身がナナイを巡る『恋敵』の出現を望んでいないから、皇太子は現れないって事だろ?」

 クリシュナが自分の見解を述べる。

「誰でも『恋敵』が現れることなんて望まないから、それじゃ永遠に皇太子は現れないんじゃ・・・?」

 ラインハルトが苦笑いしながら答える。

「それは困ったものだな」






  皇太子の話で盛り上がるラインハルト達を他所に、ナナイとティナ、ヒナは廊下に飾られている絵画や肖像画に見入っていた。

 アスカニア創生神話が描かれている絵を見たヒナが呟く。

 その絵には、神と戦う金鱗の古代(エンシェント)(ドラゴン)が描かれていた。

「これ、シュタインベルガーだよね」

 ナナイが呟く。

「皇帝陛下の肖像・・・」

 皇帝の肖像の隣にも肖像画が延々と並べられていた。

 ティナが呟く。

「こっちは皇妃殿下の肖像・・・。綺麗な人ね」

 ナナイが再び呟く。

「これは御夫妻の肖像・・・」

 ナナイの実家にも同じ皇帝夫妻の肖像画があった。

 ヒナが呟く。

「生まれたばかりの皇太子・・・」

 赤子の皇太子を胸に抱き、聖母のように微笑み掛ける皇妃の肖像画であった。

 次の肖像画を見たナナイが固まる。

「えっ!?」

 ナナイの驚いた声を聞いたヒナが肖像画を見詰めるナナイの傍らに行く。

「これって!?」

 ヒナも肖像画を見て驚きの声を上げ、口元に両手を当てて固まる。

 二人の驚いた声を聞いたティナが二人の傍らへ行く。

「どうしたの?」

 ナナイとヒナの二人は肖像画を見て固まっており、ティナの問い掛けに答えずにいた。

 ティナも二人の目線の先の肖像画を見て驚く。





 ナナイ、ティナ、ヒナの三人が見詰めるその肖像画には、皇帝一家の三人の姿が描かれていた。

 礼服を着て立つ皇帝。

 皇帝の傍らで椅子に腰掛ける皇妃。

 二人の間に立つ少年の皇太子。





 少年の皇太子。

 その顔。

 その金髪。

 その碧眼。

 肖像画を見た三人には確かに見覚えがあった。






 肖像画を見詰めながらティナが呟く。

「・・・お兄ちゃん」

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