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第九十一話 首都攻略戦(五)

 ラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、ケニーの四人は小走りで階段を駆け上がり、魔法科学省の建物内を探索していた。

 一階は、キャスパー男爵と対決した階段踊り場と入館受付、倉庫であった。

 二階は、管理事務所。図書館のように資料閲覧記録や、施設や設備、資料の管理簿などが保管されていた管理層であった。

 三階は、機械制作層。新型魔導発動機(エンジン)の研究開発や試験設備、各種工作機械の試作、開発品などが置かれていた。

 四階は、科学研究層。魔法薬(ポーション)魔法道具(マジックアイテム)の研究開発が行われていたらしく、様々なガラスの小瓶に入った試薬や小道具が置かれていた。

 五階は、魔法実験層。魔法陣の研究や、魔法理論が研究されていたようで、魔法陣の図解や、各種族の言語で書かれた魔法書の翻訳書が置かれていた。

 六階は、書庫。各階層で研究開発された結果を記録した資料や魔法書などが保管されていた。




 ラインハルト達は、六階まで探索を進めた。

 六階の書庫の一角で、ハリッシュが立ち止まる。

「これは・・・『禁呪の書棚』?」

 ハリッシュは禁呪の書棚から一冊の禁呪書を取り出すと、パラパラと捲って内容に目を通す。

「・・・凄い。バレンシュテット帝国七百年の魔法科学の叡智が此処に・・・」

 夢中になって禁呪書に見入るハリッシュにナナイが声を掛ける。

「ハリッシュ! 立ち読みしないで! 次に行くわよ!!」

 ハリッシュは禁呪書を懐に入れると、先を急ぐラインハルト達の後を追い掛けた。

 
 

 ラインハルト達は階段を登り、七階に上がる。
 
 最上階である七階は宝物庫になっていた。

 ラインハルト達が廊下を進み、宝物庫の入り口に近付くと、通路の反対側から黒いローブを着た者たちが近付いて来る。

 黒いローブを着た者達が顔を上げると、フードの中から死体のような『人ならざる者』の醜悪な顔が現れる。

 ラインハルトが思わず声を上げる。

死者の魔導師(エルダー・リッチ)か!?」

 先頭の死者の魔導師(エルダー・リッチ)が答える。

「良く判ったな! 小僧!! 我等は、この建物を預かる者!! 我が『聖域』を侵す者達に死を宣告する!!」

 敵の正体が判ったナナイが即座に神聖魔法を唱える。

(アンチ)不死者(アンデッド)防御殻(コクーン)!!」

 床に法印が現れ、光の壁がラインハルト達を囲う。

 ハリッシュも続いて防御魔法を唱える。

魔力(マナ)魔法(マジック)(シールド)!!」

 ハリッシュの杖の先に魔力(マナ)の盾が作られる。

 ラインハルトも騎士盾を前に構え、ケニーを後ろに庇う。

 五体の死者の魔導師(エルダー・リッチ)は、それぞれ干からびた腕をラインハルト達に向けると、攻撃魔法を連発する。

雷撃(サンダー)!」

火球(ファイヤーボール)!」

氷結水晶槍(クリスタルランス)!」

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)の攻撃魔法を防ぎながら、ハリッシュが他の三人に話し掛ける。

「相手が死者の魔導師(エルダー・リッチ)五体とは! こちらも小隊全員が揃っていれば、なんてことはないのですが、流石に分が悪いですね」

 ラインハルトが騎士盾で魔法を防ぎながら、ハリッシュに答える。

「確かに!」

 ハリッシュが提案する。

「私とナナイで、ある程度の間だけ敵を押し返して食い止めます。その間にケニーが宝物庫の扉を開け、ラインハルトが宝物庫の中を探索して下さい。貴方の足なら行けるでしょう」

 ラインハルトが答える。

「判った!」 

 ハリッシュが防御魔法を解除し、攻撃魔法を唱える。

「行きますよ!!」

 ハリッシュはそう言って手をかざすと、掌の先の空中に三つの魔法陣が浮かび上がる。

火炎(フレイム)爆裂(・バースト)!!」

 爆炎が五体の死者の魔導師(エルダー・リッチ)を襲う。

「「ギャアアアアアア!!」」

 ラインハルト達は歩みを進め、ラインハルトの騎士盾に隠れながら、ケニーは宝物庫の扉の鍵を開ける。

「開いたよ! ラインさん!!」

「行ってくる!」

 ラインハルトはケニーに騎士盾を預けると、扉を開けて宝物庫の中へ走る。





 ラインハルトは宝物庫の中を見渡す。

 宝物庫の中に人の気配は無い。

 バレンシュテット帝国が七百年掛けて収集、開発してきた様々な魔法の道具や武器などが台座に並べられ展示されていた。

 (皇太子はいないな・・・)

 ラインハルトが宝物庫の中を進むと、展示されている宝物の一角に、人の背丈ほどもある装飾が施された大きな鏡があった。

 展示の説明文に『真理の鏡』と書かれている。

 (これが『真理の鏡』か)

 ラインハルトは『真理の鏡』の前に立ち、尋ねる。

「教えてくれ。『真理の鏡』よ。皇太子は生きているのか? 死んでいるのか?」

 『真理の鏡』は鏡面に文字を浮かび上がらせた。

 その文字は、こう綴られていた。

<< 生きているが、存在しない。>>

 扉の隙間から五体の死者の魔導師(エルダー・リッチ)の攻撃魔法に耐えるハリッシュの叫び声が聞こえる。

「ラインハルト!! 急いで下さい!!」 

 ラインハルトは再び『真理の鏡』に尋ねる。

「もう一つ教えてくれ! 『真理の鏡』よ!! 皇太子は何処に居るんだ!?」 

 『真理の鏡』は鏡面にラインハルトの姿を映し出すと、再び文字を浮かび上がらせた。

<< それは汝が望む時に現れる。>>

 ラインハルトが『真理の鏡』に向かって叫ぶ。

「どういう事だ!?」

 扉の隙間からハリッシュの必死な叫び声が聞こえる。

「ラインハルト!! もう持ちません!! 戻って下さい!!」 

 ラインハルトは走って宝物庫からハリッシュたちの元へ戻る。

 ハリッシュがラインハルトに尋ねる。

「どうでした?」

 ラインハルトが答える。

「此処に皇太子は居なかった。『真理の鏡』に尋ねたが、答えは謎掛け(リドル)だ」

「判りました! まずは此処から脱出しましょう!!」

 ハリッシュの提案にナナイも賛同する。

「そうしましょう!!」

 ハリッシュが脱出作戦を話す。

「もう一度、押し返します! 全員で吹き抜けに飛び降りて下さい!!」 

 ハリッシュはそう言って手をかざすと、掌の先の空中に三つの魔法陣が浮かび上がる。

火炎(フレイム)爆裂(・バースト)!!」

 再び爆炎が五体の死者の魔導師(エルダー・リッチ)を包む。

「今だ!!」

 ラインハルトの掛け声で、四人は通路から吹き抜けに飛び降りる。

飛行(フライ)!!」

 ハリッシュの魔法で落下していた四人の体は浮かび上がり、ゆっくりと一階の踊り場に着地する。

 踊り場に戻った四人は、中庭へ走り出す。







 中庭に出た四人は飛空艇に乗り、帝国魔法科学省の中庭から飛び上がった。

 ラインハルトが伝声管でナナイに話し掛ける。

「ここにも皇太子は居なかった」

「そう」

「残り二箇所だな。ジカイラ達と合流しよう」

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