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第八十七話 首都攻略戦(一)


 『革命軍大敗、帝国軍首都に迫る』の報は、続々と首都へ逃げ込む革命軍の敗残兵によって革命政府のみならず、一般市民も知るところとなる。

 市街地の通路には臨時の救護所が作られ、負傷兵の手当てが行われていた。

 一般市民の中には、家財道具をまとめて親族を頼りに疎開する者達も表れ、通りは負傷者に荷馬車に避難民にと、首都市街地内は大混乱の様相となった。

 秘密警察が治安維持に出動しているものの、彼らの専門は諜報や暗殺であり、道路の交通規制や市街地の警らには不向きであった。

 更にマリー・ローズ率いるアスカニア暗殺者(アサシン)ギルドが治安維持に当たっている秘密警察員を暗殺し、虚偽の通報や裏通りで煙を燻して火事を偽装したりと様々な破壊工作を行った事が首都の混乱に拍車を掛けた。

 首都市街地の至る所で乱闘や騒乱、略奪が起きていた。









--翌朝、首都ハーヴェルベルク 南方 入り江の上空

 空母ユニコーン・ゼロは、首都攻略戦の前に入り江の上空で補給を受ける。

 州都キズナから補給物資を届けに来たのは、第506飛行輸送隊である。

「久しぶりだな! 大佐殿!!」

 大声と共に軍服で葉巻を咥えた男が艦橋にやって来た。

 輸送隊を率いるカマッチ少尉である。

「よく来てくれた少尉」

 ラインハルトとナナイ、ハリッシュが艦橋で出迎える。

 カマッチ少尉は敬礼する。

「ルードシュタットの姫様も元気そうで」

「貴方も元気そうね」

 ナナイも笑顔で答える。

 カマッチが口を開く。

「聞きましたぜ! いよいよ首都攻略戦だそうで」

 ラインハルトは苦笑いする。

「情報が早いな」 

「大佐殿! 首都近郊は元々、オレたち中央軍の所轄です! オレたちにも何か手伝わせて下さい!!」

 カマッチが熱を帯びて力説する。

「申し出はありがたいが・・・」



 ラインハルトは考える。 

 第506飛行輸送隊は輸送部隊であり、戦闘には不向きであった。

 彼らが乗る飛行船には、自衛用に大砲が二門あるだけであった。



 ラインハルトはハリッシュの方を見る。

 ラインハルトの心情を察したハリッシュが口を開く。

「第506飛行輸送隊に宣伝(プロパガンダ)作戦をお願いしてはどうでしょう?」 

 カマッチが首を傾げる。

宣伝(プロパガンダ)作戦?」

 ハリッシュが続ける。

「敵の防空網を突破して、首都上空で市民に革命政府に対する決起を促すビラを散布する任務です。これなら彼らにもできるでしょう」

 ラインハルトがハリッシュに質問する。

「揚陸艇はどうする?」

「揚陸艇は予備兵力として陸戦隊を乗せて待機させ、臨機応変に対応させましょう」

 ラインハルトがカマッチに確認する。

「出来るか? 少尉?」

 カマッチは両手でラインハルトの手を握って力説する。

「『敵中突破』はオレたちの専門分野です! 任せて下さい!!」

「判った。頼んだぞ。少尉。補給作業が終わり次第、作戦開始だ!」

「よっしゃああああ!!」

 カマッチは人目もはばからず、葉巻を咥えたままガッツポーズを決めた。

 ひと時を置いてセイゴ軍曹が艦橋へやって来る。

「補給作業、完了しました」

「了解! じゃあ、行ってくるぜ!!」

 カマッチは意気揚々とセイゴを伴って出撃して行った。









 ラインハルトがナナイとハリッシュに話し掛ける。

「我々も出撃準備に取り掛かろう」

 三人は艦橋を後にし、フライトデッキへ向かう。

 フライトデッキでは他の小隊メンバーが出撃準備を進めていた。

 ラインハルトを見たクリシュナは、赤面して俯く。

 先日、目撃したナナイを抱いて性交していたラインハルトの全裸の姿が、クリシュナの脳裏に焼き付いて離れないためであった。

 何時ものように装備を飛空艇に積み込むジカイラがラインハルトに尋ねる。

「オレたちはいつ出撃するんだ?」

「カマッチたちがビラを撒いて、マリー・ローズから合図があったら、出撃する段取りさ」









-- 一時間後。首都ハーヴェルベルク上空

 カマッチ少尉達の第506飛行輸送隊が首都ハーヴェルベルク近郊までたどり着く。

 カマッチは艦橋から市街地を眺めると、異変に気付く。

「なんだ? あの煙は?? まるで戦だぞ!?」

 首都市街地の至る所から、濛々と黒煙が立ち上っているのが見てとれた。

 カマッチが伝声管に向けて話す。

「セイゴ軍曹! これより我が第506飛行輸送隊は、首都上空へ突入する! 首都攻略戦の先鋒だ!! 気合い入れて掛かれよ!!」

「了解です!!」

「両舷全速!!」

「機関出力最大!! 両舷全速!!」

 飛行船のプロペラは唸りをあげ、船体は加速していく。

 飛行船が首都上空に差し掛かると、首都の監視塔から手旗信号が送られてくる。

 カマッチが望遠鏡で監視塔からの手旗信号を確認する。

「何が『首都上空は飛行禁止』だ」

 呟いたカマッチが伝声管に叫ぶ。

「セイゴ軍曹! 監視塔へ手旗信号だ!」

「了解です!」

「ヴァレンシュテット帝国軍、第506飛行輸送隊より監視塔へ 『馬鹿め!!』 繰り返す! 『馬鹿め!!』以上だ! はーっはっはっは!!」

 程なく飛行船の船体が激しく揺れる。

 伝声管にセイゴから報告が入る。

「少尉! 地上部隊が発砲してきました!!」

「この程度なら、突破出来る! 行くぞ!!」

 カマッチ達の飛行船が首都上空に差し掛かる頃、地上ではマリー・ローズ達のアスカニア暗殺者(アサシン)ギルドが防空塔の周囲で油を撒いて火を着けて燃やし、黒煙を立ち上らせ、目潰しを仕掛けていた。









 市街地の一角にある防空塔の周囲では、暗殺者ギルドの破壊工作によって引火した油が黒煙を上げて燃え上がっていた。

 五人ほどの黒装束の男たちを従えたマリー・ローズが、カマッチたちが乗る飛行船を防空塔の麓から見上げて呟く。

「『揚陸艇』と聞いていたけど、どうやら『飛行船』に変更されたようね」

 傍らの男がマリー・ローズに話し掛ける。

「首領。あの飛行船は帝国旗を掲げていますから、間違いなく帝国軍の飛行船です。市街地上空に入りました」

「お前達! 飛行船は市街地に入った! 港へ行くよ!!」

 マリー・ローズ達、暗殺者(アサシン)ギルドのメンバーは、路地裏を港へ向かって走り出した。










 カマッチ達の飛行船は首都上空へ突入し、市街地の上空に差し掛かる。

 カマッチが伝声管に叫ぶ。

「セイゴ軍曹! 頃合いだ! 宣伝(プロパガンダ)作戦開始! ビラを撒け!!」

「了解しました!」

 セイゴは格納庫に行くと、ハッチを開けて市街地上空に宣伝(プロパガンダ)ビラを撒き始めた。

 飛行船からバラ撒かれた何千枚もの宣伝(プロパガンダ)ビラは、首都の市街地上空を紙吹雪のように舞う。

 再び飛行船の船体が激しく揺れる。

 セイゴからの報告がカマッチに届く。

「第二気嚢(きのう)に被弾しました!!」

 カマッチが伝声管に叫ぶ。

「大丈夫だ! まだ行ける! 市街地を抜けるまで飛べよ! ポンコツ!!」 










 マリー・ローズ達、暗殺者ギルドの面々は、港の灯台にたどり着いた。
 
 灯台の入り口にいた見張りの革命軍兵士にマリー・ローズが話し掛ける。

「こんにちわ。お兄さん、お一人?」

 革命軍兵士が答える。

「そうだが。お前たち、ここは関係者以外は立入禁止だぞ」

 マリー・ローズは素早く刺突剣を抜くと、革命軍兵士の喉を貫いた。

「運が悪かったね」

 マリー・ローズは倒れる兵士の死体を海に蹴り落とすと、暗殺者ギルドの仲間たちと灯台へ登る。

 暗殺者ギルドの男が灯台の上の踊り場に発煙弾の発射装置を置くと、マリー・ローズは発煙弾を取り出して、発射装置へ込める。

 発煙弾は、軽い音と共に緑色の煙を引きながら空高く打ち上げられた。 

 







--首都ハーヴェルベルク 南方 入り江の上空 空母ユニコーン・ゼロ

 ラインハルト達がいるフライトデッキに艦橋から報告が入る。

 伝令兵がラインハルトに告げる。

「大佐、港から緑の信号弾が打ち上げられました」

 ラインハルトが答える。

「判った。揚陸艇は港で暗殺者ギルドを回収し待機。私達も出るぞ!」

「「了解!!」」

 ユニコーン小隊の乗る四機の飛空艇と陸戦隊を乗せた揚陸艇は、空母ユニコーン・ゼロから首都ハーヴェルベルクへ向けて、飛び立って行った。

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