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第八十八話 首都攻略戦(二)

 ラインハルト達が乗る四機の飛空艇は、ユニコーン・ゼロから飛び立つと、海面スレスレまで高度を下げ、首都ハーヴェルベルクを目指す。

 今回は二班に別れて行動するため、乗員の組み合わせが変わっている。

 ラインハルトとナナイ、ハリッシュとケニー、ジカイラとヒナ、クリシュナとティナの組み合わせである。

 小隊は海上から港の上空へと差し掛かり、灯台の傍を通り抜ける。

 市街地の至る所で黒煙が立ち上り、騒乱が起きているのが見て取れ、防空塔は煙幕代わりの黒煙によってほとんど機能していなかった。

 灯台の踊り場から、飛空艇に向けてマリー・ローズが手を振る。

 先頭の飛空艇にラインハルトが乗っていることが判ると、マリー・ローズはラインハルトに向けて、投げキッスをする。

 それを見ていたナナイがラインハルトにチクリと言う。

「モテるわね。()()殿()

 ラインハルトは苦笑いしながら、マリー・ローズに手を振って返した。









 小隊は、港を通過して市街地上空に入ったが、建物スレスレの高度を飛ぶ。

 ラインハルトとナナイの機体の風圧が、集合住宅のベランダに紐に掛けて干してあった洗濯物を巻き上げる。

 ラインハルトの後ろを飛ぶジカイラとヒナの機体に洗濯物が飛んで来る。

 ジカイラは顔に飛んできた布を手に取る。

(何だ? レースのハンカチか??)

「・・・女物だ。お前が使え」

 ジカイラは手で布を丸めて、ヒナに投げて渡す。

 ヒナはジカイラが投げて寄越した布を両手で広げる。

「ええっ!? コレって・・・!!」

 ヒナが布を広げると、それは女性用のパンツであった。 

 みるみるヒナの顔が赤くなる。

(このパンツ、レース編みでスケスケ・・・。しかもアソコのところが開いてて丸見え・・・。両サイドは紐で縛るようになってて、すぐ脱がせられるようになってる・・・)

 ヒナは恥じらいからモジモジしながらジカイラに話す。

「・・・ジカさんって、こういうのが好きなの? 今度、私が履いたら、見てくれる?」

「はぁ!?」

(ハンカチを・・・履く??)

 不審に思ったジカイラがヒナの方を見ると、ヒナは真っ赤な顔で恥ずかしそうにレース編みのスケスケパンツを両手で広げて見ていた。

「・・・ちょっ!? 捨てちまえ! そんなもの!!」

 ラインハルトとナナイ、ハリッシュとケニーの二機で帝国魔法科学省を目指し、ジカイラとヒナ、クリシュナとティナの二機で、秘密警察本部を目指して二手に分かれた。






 
 


 ジカイラとヒナ、クリシュナとティナの二機は、秘密警察本部の正面入口から真っすぐ伸びる五百メートルほどの大通りの上空で止まると、ゆっくりと垂直降下する。

 飛空艇の下にいた人々は、飛空艇に潰されまいと逃げ離れていく。

 二機の飛空艇が無事着陸すると、ジカイラとヒナ、クリシュナとティナが飛空艇から飛び降り、戦闘態勢を取る。

「いくわよ!!」

 そう言うと、クリシュナは懐から何やら文言が書かれた呪符を四枚、取り出して地面に置いた。
 
 クリシュナは地面に片膝を付いて、両手を地面に当て、魔法の詠唱を始める。

Я(ヤー・)  приказываю(プリカーズ・)  своему(ヴーズ・) слуге(ズィウス・)  по(ヴィー・)  контракту (コントラクト・)  с землей.(ズウィームリー)
(我、大地との契約に基づき、下僕に命じる!)

Уби(ウー・)райся!(ヴィリャシヤ!) Каменный(カーメレイ・) гигант! !(ギガント!!)
(出でよ! 石の巨兵!!)

 クリシュナの足元と四枚の呪符が置かれた地面に大きな魔法陣が現れ、クリシュナの頭上にも一定間隔で六つの魔法陣が現れる。

 クリシュナは立ち上がって両手を空に向けて上げ、天を仰いだ。

Скалы,(スカレー・)  камни.(カムニ)   Приди(プリズィー・)  из(イズ・)  мира(ミラ・)  призраков(プリズル・カ・)  и(フィ・) прими (プルミ・)  форму.(フォロモ) По (ポ・)  моей (マイ・ヴィー・)  воле.(ヴォーリャ)
(岩よ、石よ! 幽世より来たりて、形を成せ! 我が意のままに!)

 空中に浮き上がった呪符に地面から浮き出た石や岩が集まり、大きな人形を形作っていく。
 
 やがて集まった石や岩は巨大なストーンゴーレムとなった。

 出来上がった四体のストーンゴーレムは、魔法陣の中で片膝を付いて主であるクリシュナを注視していた。

 魔法陣の中でクリシュナは、秘密警察本部を指差した。
 
 ストーンゴーレム達は一斉にクリシュナが指差す方向を向く。

 クリシュナはストーンゴーレム達に命令を下した。

Сокрушить(ソー・クラシーット・)  моих(モイ・)   врагов!(ヴィラゴフ!)  Сдирать,(ズィディライト・)  Stepping (スティッピング・)  давка!!(ダフカ!!)  Underway! (アンデロイ!)  Каменный(カーメネイ・)  гигант!!(ギガント!!)
(我が敵を粉砕せよ! 薙ぎ払い、踏みしだけ!! 進め!石の巨兵よ!!)

 クリシュナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって空中に消えた。

 ストーンゴーレム達は、「承知した」と言わんばかりに両目を一度、大きく赤く輝かせると、二列に並んだ隊伍を組んで歩調を合わせ、秘密警察本部を目指して歩き出した。
 
 魔力を使い果たしたクリシュナは、その場にペタンと座り込み微笑む。

「クリシュナさん、コレを使って!!」

 ヒナはクリシュナにガラスの小瓶に入った魔力回復薬(マナ・ポーション)を渡す。

「ありがとう!」

 クリシュナは受け取った魔力回復薬(マナ・ポーション)を飲み干すと、再び立ち上がる。

 大通りの群衆は、秘密警察本部へ歩くストーンゴーレム達を見て、蜘蛛の子と散らしたように逃げ始める。

 四体のストーンゴーレム達が秘密警察本部の入り口に差し掛かると、入り口の門で歩哨に立つ革命軍兵士はどうすることも出来ず、逃げ出した。

 ストーンゴーレム達は入り口の門と塀をなぎ倒すと秘密警察本部の建物にその拳を叩き込む。

 大音響と共に建物に大穴が空くが、ストーンゴーレム達は容赦なく秘密警察本部の建物を叩き壊し始める。

 崩れ始めた秘密警察本部の建物から、ワラワラと大勢の秘密警察の戦闘員が現れる。

「みんな! 行くぞ!!」

 ジカイラを先頭に、四人は秘密警察本部を目指して走り出した。 

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