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第八十六話 首都攻略、前哨戦

--二日後。

 航空母艦ユニコーン・ゼロは、ルードシュタットの迎賓館を後にする。

 首都ハーヴェルベルクは、重厚な三層の城壁に囲まれ、陸上からの攻撃には難攻不落で知られていた。

 しかし、南の港には何の防備も無かった。

 入り江に通じる港は世界最強の海軍、帝国(ライヒス・)海軍(マリーネ)の母港であり、防備を固める必要が無かったからであった。

 首都ハーヴェルベルクを東西南北に貫く交易公路も、首都から南へ向かう交易公路は、南の海の入り江を迂回するように東へ湾曲していた。

 首都攻略戦の際にユニコーン・ゼロは、ハーヴェルベルクの南方の海上に停泊。

 ラインハルト達は、首都の混乱に乗じて海上から飛空艇で首都へ潜入するように段取りしていた。








 同日。

 交易公路に沿って帝国軍の四個方面軍は、進撃を開始した。

 東からはヒマジン伯爵の帝国機甲兵団が。

 北からはアキックス伯爵の帝国竜騎兵団が。

 南からはエリシス伯爵の帝国不死兵団が。

 西からはナナシ伯爵の帝国魔界兵団が。

 それぞれの方面軍が首都を目指して軍団を進める。








--首都 ハーヴェルベルク 革命政府 革命宮殿

「帝国の四個方面軍が動く」の報は、革命政府にも届けられた。

 たちまち革命政府は緊迫した空気に包まれる。

 革命政府主席にして革命党書記長 ヴォギノ・オギノは必死の形相であった。

(マズい! マズい! マズいぞ! このままではマズい!)

 革命党軍事委員のコンパクを呼び付けると厳命する。

「コンパク! 交易公路上に防御陣地を築け! 遅滞戦術を取りつつ、革命軍の全軍を首都に集結させろ! 絶対に首都を帝国軍に渡してはならん!! 士官学校の卒業生と学生には、市内の重要施設を守らせるのだ!!」

「判りました」

「秘密警察グレイン長官!」

 コンパクの隣で控えている男を呼び付ける。

「秘密警察に市内の治安維持を徹底させろ!」

「御意!」

 職業軍人からなる大陸最強の帝国軍に対して、農民を徴用した寄せ集めの革命軍では、戦っても全く勝ち目がない事は明白である。

 革命政府が皇太子を人質にとって幽閉している間、帝国軍は()()()()()()であった。

 圧政を続けてきたため、市民に溜まっている不満から、この機会に市内で暴動でも起こされたら、革命政府はひとたまりもない。

(何故、革命から七年経った今頃、帝国軍が動き出すのだ!? まさか皇太子の事がバレたのでは・・・?)
 
 ヴォギノは追い詰められ、焦っていた。












--夕刻

 北から交易公路沿いに軍を進めるアキックスは、古代(エンシェント)(ドラゴン)シュタインベルガーに乗っていた。

 アキックスの眼下の交易公路上に、革命軍が急造した防御陣地が見える。

 巨大なシュタインベルガーの姿に驚いた革命軍兵士が、陣地の中を右往左往している様子が伺えた。

 アキックスはシュタインベルガーの鱗をポンポンと叩くと語り掛ける。

「友よ。蹴散らしてくれようぞ」

「承知」

 シュタインベルガーは滑空しながら革命軍の防御陣地に迫る。

 そして、大きく息を吸い込むと、シュタインベルガーは紅蓮の爆炎を吐き、防御陣地に浴びせた。

 二千万度の爆炎は、急造された木柵の防御陣地を兵器や革命軍兵士ごと焼き尽くし、消し飛ばす。

 シュタインベルガーの爆炎を逃れて生き残った革命軍兵士達は、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

 シュタインベルガーは、勝利の大きな咆哮を上げ上空へ舞い上がると、再び竜騎兵団を伴い首都を目指して飛び始める。

 



 



 東から交易公路沿いに軍を進めるヒマジンは、飛行戦艦の艦橋に居た。

「間もなく革命軍の防御陣地です」 

 報告を受けたヒマジンが指示を出す。

「艦隊の一斉射撃を浴びせろ。一撃でカタが付くだろう」

「了解しました」

 単縦陣を組む飛行艦隊は方向転換し、四隻の戦艦が革命軍陣地へ向けて一斉射撃を浴びせる。

 急造された革命軍陣地は艦砲射撃を受けて立ちどころに壊滅し、革命軍の兵士達は武器を捨てて逃げ出した。

 ヒマジンは艦橋から、その様子を眺めていた。

「逃げる敵は追わなくていい」

 東部方面軍、機甲兵団は首都を目指して進撃を続ける。


 



 

 
 南から交易公路沿いに軍を進めるエリシスは、小さな砦ほどの大きさもある車輪の付いた巨大な輿に乗っていた。

 車輪の付いた輿を何体もの巨人の(ジャンアント)動死体(ゾンビ)が押し進める。

 輿には、五メートルほどの高さの位置にある、玉座を模した椅子に座る軍服姿のエリシスと、その傍らに軍服姿で立つリリー。玉座を挟んで反対側にメイド服姿のルナが控えていた。

 すっかり古代の女王のような気分でエリシスはご機嫌だった。

 リリーがエリシスの報告する。

「もうすぐ革命軍の防御陣地です」

「そう? 竜の(ドラゴン・)動死体(ゾンビ)を前に」

 エリシスの命令で不死者(アンデッド)の軍勢は歩みを止め、四体の竜の(ドラゴン・)動死体(ゾンビ)が前に出て並ぶ。

 四体の竜の(ドラゴン・)動死体(ゾンビ)は、革命軍の陣地に向けて一斉に大量の酸を吐く。

 たちまち酸で木柵や人間が焼け焦げる悪臭と煙が陣地に立ち込め、生き残った革命軍の兵士達は這々の体で逃げ出す。

 四散し敗走する革命軍にリリーが口元に手を当てて笑う。

「あっけないですね」

 エリシスも微笑みながら答える。

「元々、彼らはお百姓さんですもの。訓練された職業軍人ではないわ」

 西部方面軍、不死兵団は首都を目指して行進を続ける。








 
 西から交易公路沿いに軍を進めるナナシは、コシュタ・バワー(※魔界の首無し馬)が引く馬車に乗り、使い魔から革命軍陣地の報告を受けた。

 ナナシは傍らの若い紳士に命令する。

「汝が行くが良い」

 命令を受けた紳士は無言で立ち上がってナナシに一礼する。

 紳士の背中に四枚の羽が表れると、紳士は羽ばたいて飛び上がった。

 空へ舞い上がった紳士の顔や姿が変わっていく。

 四枚の羽で羽ばたきながら、その顔や手足は鳥のようなクチバシ、黒い穴のように窪んだ瞳の無い目、両手、両足は鳥の足のような形になり、巨大化する。

 魔神マイルフィック。

 多数の上位(グレーター)悪魔(デーモン)を従える魔神が、その正体を表す。

 マイルフィックは、空の上で両手を広げ、悪魔語で魔法を唱えはじめる。

 マイルフィックの下に一つ、頭上に十個の巨大な魔法陣が現れる。

 巨大な十個の魔法陣を見た革命軍の兵士達が騒ぎ出し、陣地内を右往左往し始める。

 巨大な火球が革命軍陣地の上空に表れ、それは地表寸前まで下がると大爆発を起こした。

 その爆炎は、地表の人も陣地も焼き尽くして消し飛ばし、焼け焦げた地面と交易公路だけが残っていた。

 空から大爆発によるキノコ雲を見届けたマイルフィックは、ナナシの馬車に向けて戻る。

 マイルフィックは、人の姿になって馬車に着地すると、何事も無かったかのようにナナシに一礼して、隣に座る。

 ナナシはマイルフィックに目配せすると、使い魔に再び西部方面軍、魔界兵団の前進を命令した。

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