第八十三話 クラスチェンジ、再び
帝国四魔将は、晩餐会が終わると自分の領地へ帰って行った。
首都ハーヴェルベルクの攻略戦は四個方面軍の準備のため、一週間後と決まる。
その間に小隊の戦力増強のため、中堅職の者達は転職しておこうという運びになった。
--翌日
ラインハルトとナナイを除く小隊のメンバーは、早朝、迎賓館から州都ルードシュタット市街地へ馬車で向かう。
ジカイラが口を開く。
「この街で転職なんてできるのか?」
ハリッシュが答える。
「できますよ。冒険者ギルドがありますからね。革命政府は全てのギルドに『解散命令』を出しましたが、ルードシュタット侯爵領は事実上の自治領で、革命政府の解散命令も此処には及んでいません。各ギルドも堂々と活動しています」
ケニーも会話に加わる。
「何だか、独立国みたいだね」
ハリッシュもケニーの意見を認める。
「ルードシュタット侯爵家ほどの武力と財力があれば、革命政府も手が出せないのでしょうね」
昼前に馬車はルードシュタットの冒険者ギルドに到着する。
六人がギルドに入ると、聞き覚えのある女性の声で挨拶される。
「お久しぶりね」
ハリッシュが声がした方向を見る。
「貴女は・・・」
宿屋の女主人ことアスカニア
ジカイラが話しかける。
「珍しいところで会うものだな」
「此処には冒険者ギルドがあるから、転職しに来たのよ」
そう言ってマリー・ローズは窓口の水晶の下に冒険者カードを入れる。
『軍属』ではない者は、『軍隊手帳』ではなく、『冒険者カード』に職業やスキルが記してあった。
ヒナが興味本位で尋ねる。
「何の職業に転職するのですか?」
「忍者よ」
マリー・ローズは笑顔で答える。
「「忍者!?」」
小隊の六人が驚く。
忍者は、強力な
マリー・ローズはあっさりと忍者に転職すると、ハリッシュやジカイラから今までの経緯を詳しく尋ねる。
ジカイラ、ハリッシュとも、経緯や今度の首都攻略戦について、マリー・ローズに話す。
「ふぅ~ん。『首都攻略戦』ねぇ・・・」
アスカニア
窓口前の待合場所で小隊の面々とマリー・ローズは談笑する。
会話が一段落したジカイラが軍隊手帳の職業のページを開いて、窓口の隣にある水晶の下に置く。
「おっ!? 色々と出てきたぞ? ハイランダー、ソードマスター、暗黒騎士か」
ハリッシュが尋ねる。
「どの職業にするつもりですか?」
「『暗黒騎士』だな! 黒騎士というのがオレのイメージにピッタリだ!!」
ジカイラが暗黒騎士を選択すると、水晶の光が軍隊手帳にその旨を記入する。
ケニーがジカイラを冷やかす。
「いよいよジカさんも騎士職か!!」
ジカイラは笑顔で答える。
「おうよ!!」
ジカイラに続き、ハリッシュは
クリシュナの次にティナが水晶の下に軍隊手帳を置く。
『アークプリースト』の文字が薄く浮かび上がる。
ハリッシュが水晶を覗き込む。
「文字が薄くなってます。ちょっと能力値が足りないようですね」
「え~!? 私、また補習!? 自信無くなるなぁ・・・」
ティナはハリッシュに神官系の訓練場所に行くように促され、しぶしぶ向かった。
ティナに続いて、ヒナがが軍隊手帳の職業のページを開いて、窓口の隣にある水晶の下に置く。
『アークウィザード』の文字が薄く浮かび上がる。
「私も・・・補習ね」
ヒナも魔導師系の訓練場所に向かって行った。
ケニーは、水晶に
ケニーは
「僕もまた補習か・・・」
ケニーも肩を落として盗賊系の訓練場所に向かった。
ジカイラがあることに気が付く。
(待てよ!? 宿屋のお姉さん、
ジカイラがマリー・ローズに話し掛ける。
「お姉さん、
マリー・ローズが微笑みながら答える。
「そうよ。こう見えてもアスカニア
そう言って、マリー・ローズは片目を瞑って見せる。
「どうりで・・・強いはずだ」
ジカイラは妙に納得したようであった。
「・・・ところで、あなた達。秘密警察本部を襲撃するようだけど、私達も手伝うわよ。私達と秘密警察は敵対しているから」
マリー・ローズからの助力の申し出にジカイラは喜ぶ。
「そいつはありがたい」
ハリッシュも同意見だった。
「強力な助っ人の登場ですね」
途中に食事を挟み、窓口前の待合場所で小隊の面々とマリー・ローズは談笑を続けたが、結局、全員が転職と訓練が終わったのは、夜になってからであった。
------
--時を少し戻した迎賓館の客室。
穏やかな朝日がわずかに差し込むベッドの中でナナイは目覚めた。
傍らには腕枕でナナイを抱くラインハルトが眠っている。
そのラインハルトの横顔を眺めてナナイは微笑む。
小隊の他の面々は早朝から市街地の冒険者ギルドへ出向いたため、今日はこの迎賓館にラインハルトとナナイの二人きりであった。
ナナイがラインハルトを起こさないように少し離れてから起き上がろうとすると、ラインハルトが自分から離れるナナイの肩を抱き、自分の方へ抱き寄せる。
「起こしてしまったか」とナナイは驚いてラインハルトの顔を見るが、ラインハルトは眠ったままであった。
眠っていて意識が無くても、ラインハルトは自分の傍から片時もナナイを離すつもりはないらしい。
ナナイは嬉しかった。
ナナイは、昨夜、愛し合った余韻に浸りつつ、眠るラインハルトの横顔を眺めながら、ラインハルトのことを考える。
純朴な田舎の工房育ちの平民の青年であり、無口でクールな反面、内面は純粋で激情の持ち主。
美しく端正な顔と金髪。アイスブルーの瞳。長身もさることながら、プロボクサーのような引き締まった肉体の持ち主。
自分よりも強い近接最強職の
全てを捨ててでも、自分のために戦ってくれる。身を挺して守ってくれる。
列車の揺れからも、絡んできたチンピラからも、ガレアスの提督からも、秘密警察からも、
英雄達と肩を並べ『救国の英雄』と呼ばれても、どんな地位も、名誉も、富も望まず、自分と一緒になることだけを望み、無償の愛を注いでくれる。
自分を思いやり、決して傷つけようとしなかったが、やっと
小隊全員の前で、帝国四魔将に一緒になる事を認めさせた。
一目惚れから始まった『初恋』は、もう一息で『永遠の愛』を誓い合えるところまで来た。
奇しくも、それは囚われた皇太子を救出して革命政府を打倒し、アスカニアに平和を取り戻す事と同一直線上にある。
ナナイは胸が一杯になり、目に薄っすらと涙が浮かんでくる。
ナナイはキスしてラインハルトを起こす。
「んんっ・・・もう朝か・・・?」
「そうよ」
「・・・泣いていたのか?」
「いろいろ思い出して、ちょっとね」
そう言うとナナイはラインハルトの上に乗り、ラインハルトの頬に両手を当てて再びキスする。
キスを終えたナナイがラインハルトの耳元で囁く。
「・・・今日はずっと二人きりよ。貴方を独り占めできる。・・・抱いて」
「ああ」