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第八十二話 不死王の涙

 迎賓館での晩餐会が開かれようとしていた。

 迎賓館の建物は、アキックスがルードシュタット家から借りたが、使用人や料理などはエリシスが準備し用意していた。

 晩餐会の会場になるホールでは、エリシスの下僕である死者の(コープス・)花嫁(ブライド)が、そそくさと配膳している。

 小隊のメンバー達と帝国四魔将に豪華な食事や酒や飲み物が振る舞われる。

 晩餐会は和やかな雰囲気の中で滞り無く行われた。

 ジカイラは死者の(コープス・)花嫁(ブライド)の給仕のメイドの中に、容姿の違うメイドが居ることに気が付く。

 ジカイラは隣の席のハリッシュに尋ねる。

「ハリッシュ。あの娘・・・」

 ジカイラの言葉でハリッシュも気が付く。

「・・・獣人(ビーストマン)ですかね?」

 エリシスが二人の会話を聞きつける。

「ああ。メイドのあの娘ね? 紹介するわ」

 エリシスはルナを呼ぶ。

「ルナ。こっちでお客様にご挨拶なさい」

「はーい!」

 エリシスに呼ばれたメイド姿のルナは、エリシスの元に小走りでやって来る。

「ルナです。よろしくお願い致します」

 ルナはエリシスの隣でジカイラとハリッシュにメイド服のスカートの端を摘み、行儀良く挨拶する。

 ジカイラがルナに尋ねる。

「気を悪くしないでくれ。その・・・獣耳(けもみみ)と尻尾は本物なのか・・・?」

 ルナは笑顔で答える。

「本物ですよ!」

 エリシスも自慢気に話す。

「どう? この子、かわいいでしょ?」

 他の小隊メンバーもルナを見て驚く。

 エリシスが自慢気に続ける。

死者の(コープス・)花嫁(ブライド)も美人で良いんだけど、不死者(アンデッド)だからね。お客様の中には、こういう生きている子のほうが好きなお客様も居るから」

 ハリッシュが尋ねる。

半獣人(ハーフ)なのですか?」

「いえ。三世(クォーター)です」

 ティナやヒナ、クリシュナもルナに色々と尋ねていた。









 一方、ラインハルトとナナイは食事を終え、二人でテラスに出て夜景を眺めて休んでいた。

 噴水の流れる音が聞こえる、満天の星空と静寂の世界で二人で佇む。

「綺麗ね」

「ああ」

 テラスに居るラインハルトとナナイの元に、エリシスとリリーがやって来る。

 エリシスがラインハルトに尋ねる。

「失礼。お邪魔だったかしら?」

「いいえ」

「少し、彼と二人きりでお話がしたいのだけど」

「どうぞ」

 そう言ってナナイとリリーは、席を外した。









 テラスに二人きりになったエリシスはラインハルトに尋ねる。

「いくつか、教えて欲しいのだけど」

「どうぞ」

「貴方、上級騎士(パラディン)の力は何処で身に付けたの?」

「士官学校です」

 エリシスは驚いて問い質す。

「士官学校で!?」

「はい。最初に職業を決める際に水晶(クリスタル)で選択できました」 

「最初から・・・その上級騎士(パラディン)の力が眠っていた訳ね」

「そうなります」

「貴方は、私が愛した人にとても良く似ている。その金髪。そのアイスブルーの瞳。上級騎士(パラディン)・・・」

 そう言うと、エリシスはラインハルトの胸にすがる。

「少しの間でいいの。私を抱き締めていて」

 ラインハルトは言われるまま、エリシスを抱き締める。

「ああ・・・」

 そう口にすると、エリシスはラインハルトの胸に顔を埋める。 

 ナナイより年上の、肉付きの良い女の肉の感触がラインハルトに伝わる。

 ラインハルトは思わずナナイにするように、エリシスの頭を撫でていた。

「私はずっと、あの人にこうして欲しかった・・・」

 エリシスはラインハルトの胸で泣いていた。

 ラインハルトが驚いていると、エリシスの両手がラインハルトの頬に触れる。

 人肌の温もりが全くしない、死体のような冷たい手の感触にラインハルトは再び驚く。

「ごめんなさい。一度だけでいいの」

 そう言うとエリシスはラインハルトにキスした。

 エリシスの冷たい唇がラインハルトの唇に重ねられる。

 ラインハルトにキスし終えたエリシスは、再びラインハルトの胸に顔を埋める。

 ひと時の間を終えて、エリシスは顔を上げてラインハルトの元を離れる。

「愛する(ひと)が居るのに、ごめんなさい。・・・ありがとう。貴方、優しいのね」 

 エリシスはそう言って微笑むと、ホールへ戻っていった。








 ラインハルトの元にナナイが戻って来た。

「彼女との話は終わったの?」

「ああ」

「・・・そう」

 ナナイは何かを察したように、ラインハルトにそれ以上の詮索はしなかった。

  

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