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311章 エマエマの強烈な一言

 ミサキは自宅に戻ってきた。

「ミサキさん、おかえりなさい」

「エマエマさん、ただいま」

 温かく出迎えた女性に、今日のできごとを伝える。

「根も葉もないことをいわれたんですね」

「はい。大人の事情を知ってしまいました」

 エマエマは首筋をさすった。

「ミサキさんの話を聞いて、大いに失望しました。三流ハリボテ俳優団を見ることは、二度とないでしょう。一時的な利益のためだけに、人間を利用するのは最低です」

 柳俳優団を三流ハリボテと切り捨てる。エマエマの言葉には、ずっしりとした棘が含まれていた。

「エマエマさん・・・・・・」

「他人を利用している時点で、自分たちは負け犬といっているのと同じです。超一流と呼ばれる人たちは、実力だけで勝負しています」

 エマエマの一流は、ルヒカ、ズービトル、キイのような人物を指す。ごくごくわずかな人間だけを、一流とみなしている。

 エマエマは優しくハグをする。

「私は同じではないですよ。ミサキさんとデュエットしたいという、純粋な気持ちでオファーしています。いろいろな人に反対されましたけど、自分の意思を貫きました」

 デュエットに失敗すれば、歌手活動に大きな痛手となる。エマエマほどの歌手であっても、地に堕ちるリスクがある。積み重ねた実績は、一瞬で崩れ落ちていく。

「キイさんもおそらく同じです。心からデュエットしたいと思ったからこそ、ミサキさんにお願いしたのでしょう」

 キイの話を聞いていると、名声を高めるために、利用しているように感じられた。本心でやっていたのかは疑問符が付く。

「ミサキさんは、期待以上のパフォーマンスを披露してくれました。歌っているところを見て、もっとうまくなりたいと思います」

「そんなによかったですか?」

「はい。心から感動しました」

 ミサキは照れ笑いをする。

「エマエマさん、ありがとうございます」

 エマエマは小さく瞬きをする。

「アヤメさんは心から尊敬しています。肌の色を見た瞬間に、ストイックに生きているのはすぐにわかりました」

 計算されつくしたメニューを、毎日のように食べていた。食事は楽しむためではなく、体を作るという意識を徹底していた。

 テレビチェンネルをオンにすると、クドウアヤメが映し出される。

「アヤメさんは、肌の色がグレイトですね」

 顔からつま先まで、透き通ったピンク色。人工的に作られたものではなく、自然な色をしている。

「ミサキさんも、きれいな肌をしていますね」

「そうですか?」

「食事に気をつかわなくてもいいのは、とってもうらやましいです」

 エマエマはお腹を触ってきた。心の準備をしていなかったからか、体は後ろのめりになってしまった。

「エマエマさん、くすぐったいですよ」

「私も理想の体になりたいです」

 エマエマの指は、へその中に入った。ミサキはあまりのくすぐったさに、「あ~ん」という声を漏らすこととなった。

 エマエマの手が離れる。どうしたのかなと思っていると、吐息を立てて睡眠をとっているではないか。彼女に蓄積した疲労は、こびりついてしまった油さながらだった。

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