310章 演技終了
ミサキの出演は終了した。あまりに緊張からか、喉は完全にカラカラだった。
「ご飯を準備していますので、しばらくお待ちください」
「ありがとうございます」
真理はこちらに近づいてきた。
「一度も舞台に立っていないのに、かなりよかったです。素人とは思えないほどの、パフォーマンスでした」
極度の緊張感によって生み出された賜物。平常時であったなら、ここまでのパフォーマンスはできなかったと思われる。
監督は何もいわなかった。演技に満足しているわけではないけど、スポンサーの存在を気にかけたと思われる。監督であったとしても、スポンサーに逆らうことは許されない。
真理は深呼吸をする。
「ミサキさんのオーラに対して、大いに緊張してしまいました」
「私のオーラ?」
「はい。舞台出演をするときは、プロの顔になっていました」
「そうですか?」
「普段から意識されていないんですね」
「はい。意識したことはありません」
「無意識にやっているのだとすれば、とってもすごいことです」
自分の顔は自分で見えない。演技をしているときの姿は、まったくわからない。
「ミサキさんに、人気を奪われるのを恐れています。私たちはどんなに努力しても、追いつけないカリスマ性を持っています」
「カリスマ性?」
「人を引き付ける魅力です。こちらについては、努力では絶対に身につきません」
努力でどうにかできること、努力で叶わないことの両方がある。社会はつらい現実を、たくさんの人につきつけている。
腹ペコ少女の最大の欠点は体力。長時間の労働に耐えうる、体力を備えていない。どんなに磨いたとしても、手に入れるのは無理である。