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第七十七話 不死王の気まぐれ

--少し時間を戻した東南戦線

 エリシスとリリーは獣人(ビーストマン)の巣穴の入り口にいた。

 二人は嵌めていた白手袋を取ると、ポケットに仕舞い、巣穴の中に入っていく。

 二人共、素手であったが、これがこの二人の戦闘スタイルであった。

 巣穴の中は薄暗く、二人は高さも幅も二メートル程の通路を進む。

 床に悪臭を放つ汚泥が溜まっている部分があり、リリーは露骨に嫌な顔をして呟く。

「・・・汚い」

 不機嫌なリリーに対して、エリシスは上機嫌であった。

「あら? 動物の巣なんて、こんなものよ?」

 人豹(ワーパンサー)が現れ、エリシスに襲い掛かる。

 エリシスは人豹(ワーパンサー)の攻撃を避けると、人豹(ワーパンサー)に指先で触れた。

 気絶接触(スタンタッチ)であった。

 人豹(ワーパンサー)は口から泡を吹き、前のめりに倒れて動かなくなった。

「ヒョウ柄ゲット♪」

 エリシスはすこぶる御機嫌で、掌を下に向けて魔法を唱えた。

召喚(サモン)骸骨(スケルトン)!」

 掌の先に魔法陣が現れ、床から4体の骸骨(スケルトン)が浮かび上がり召喚される。

 現れた四体の骸骨(スケルトン)は、跪いてエリシスの指示を待つ。

「獲物を運んで頂戴」

 エリシスの命令で四体の骸骨は、人豹(ワーパンサー)を担ぐと巣穴の外へ運んで行った。

 今度は人狼(ワーウルフ)が現れ、雄叫びを上げて襲い掛かって来る。

 エリシスは人狼(ワーウルフ)の攻撃を避けると、再び指先で軽く触れる。

 人狼(ワーウルフ)も口から泡を吹いて倒れる。

 エリシスは人狼(ワーウルフ)には興味が無いようだった。

「リリー。このワンちゃんは貴女にあげるわよ? ペットにして飼ったら?」

「要りませんよ! こんな汚いイヌ!!」

 獣人(ビーストマン)嫌いでムキになっていることに気が付いたのか、リリーは口調を改める。

「・・・まぁ、吸血鬼(ヴァンパイア)の中には、人狼(ワーウルフ)を飼っている者も居るようですが」

「まぁ、いいわ。リビングの敷物にでもするから」






 二人が巣穴の奥へと進んで行くと部屋に出る。

 部屋の中には牛の頭をした獣人(ビーストマン)がおり、二人を見ると棍棒を振りかざして襲い掛かって来る。 

 普通の獣人(ビーストマン)は腰布などを巻いているのだが、この獣人(ビーストマン)は全裸であり、男性自身を勃起させていた。

 エリシスは棍棒の一撃を避けると、指先で獣人(ビーストマン)に触れる。

 たちまち獣人(ビーストマン)は気絶して倒れ、動かなくなった。

 倒れた獣人(ビーストマン)の勃起した男性自身をエリシスが見聞する。

「牛革ゲット♪ ・・・なかなか立派なオチ●●ンしているわね。ココは剥製にしておこうかしら? ウフフ」

 リリーが嫌な顔をして答える。

「・・・悪趣味ですよ?」

「そうかしら? ウフフ」






 部屋の物陰に隠れていた獣人(ビーストマン)が、後ろからエリシスに棍棒で殴り掛かってくる。

 リリーは、素早くエリシスと獣人(ビーストマン)の間に入ると、棍棒の一撃を左手で軽く受け止める。

 次の瞬間、リリーは右手の裏拳で獣人(ビーストマン)を殴り飛ばす。

 もっとも、リリーが本気を出すと、獣人(ビーストマン)の頭などトマトのように潰れてしまうので、十分に手加減していた。

 殴られた獣人(ビーストマン)は小柄であった。部屋の反対側まで吹き飛び、壁にぶつかって床に落ちる。

 小柄な獣人(ビーストマン)は起き上がると、リリーに棍棒で殴り掛かる。

 リリーは、獣人(ビーストマン)の一撃を避けると軍靴で蹴り飛ばす。

 再び獣人(ビーストマン)は部屋の反対側の壁まで吹き飛んで壁に激突し、床に落ちる。

 二人にはとても敵わないと見たのか、小柄な獣人(ビーストマン)は起き上がると、一目散に逃げ出す。

 リリーは瞬時に左手の人差し指と中指の爪を伸ばし、小柄な獣人(ビーストマン)の右腕を爪で貫くと、そのまま壁に縫い付ける。

小柄な獣人(ビーストマン)は悲鳴を上げ、貫かれた右腕を押さえて叫んだ。

「アアアアアアァーー!!」

「ちょこまかと。小賢しい」

 リリーはゆっくりと捕らえた小柄な獣人(ビーストマン)に近づいていく。すると、小柄な獣人(ビーストマン)が服を着ていることに気が付いた。 

「・・・服なんか着て!!」

 リリーは、小柄な獣人(ビーストマン)の胸ぐらを掴むと、力任せに着ている服を引き裂いた。

「嫌ぁああ!!」

 小柄な獣人(ビーストマン)は悲鳴を上げ、左腕で胸と股間を隠す仕草をする。

 リリーは驚いて、エリシスに話し掛けた。

「!? ・・・エリシス! この獣人(ビーストマン)(メス)、喋りましたよ!?」

 エリシスは興味が湧いたようでリリーの方を振り向くと、リリーが捕らえた小柄な獣人(ビーストマン)に歩み寄る。

「珍しいわね」

 そう言うとエリシスは、人肌の温もりのない冷えた死体のような冷たい手で小柄な獣人(ビーストマン)の顎を掴むと、顔を左右に動かして観察する。

「ほとんど人間に近い。それにカワイイ顔しているわね」

 エリシスは小柄な獣人(ビーストマン)の少し膨らんでいる胸を揉み、次にその秘所を弄る。 

「いや! 止めて!!」

 小柄な獣人(ビーストマン)の女の子は、エリシスの手の動きに合わせて、ピクン、ピクンとのけぞるが、自由になる左手で必死に抵抗する。

「酷い言い方ね、リリー。『(メス)』というより、毛が生え揃ったばかりの女の子じゃない。それも生娘ね。」

 エリシスは屈んで顔を覗き込み、小柄な獣人(ビーストマン)の女の子に話し掛ける。

「貴女、人語が話せるの? 言葉が判るのね? どうして人間そっくりなの??」

 獣人(ビーストマン)の女の子は、恐る恐る答える。

「私は、(ハーフ)獣人(ビーストマン)と人間の二世(クォーター)だから・・・獣人(ビーストマン)より、人に近いの」

 人間の女の子に猫耳と猫の尻尾をつけた容姿にエリシスは興味津々であった。

「貴女、名前はあるの?」

「・・・ルナ」

「ルナ。いい名前ね。気に入ったわ」

 エリシスはリリーの方を向いて話す。

「リリー。この子、連れて帰ってウチのメイドにするわ」

 エリシスの言葉にリリーは驚く。

「は!? エリシス、冗談ですよね?? 栄えあるバレンシュテット帝室の地下墳墓で、こんな野良猫を飼うつもりですか!?」

「そうよ。 それと、この子の教育は貴女にお願いするわ。 メイドの教育は、執事の仕事ですもの」

 エリシスの思いつきにリリーは「またか」と思い、諦めたように答える。

「・・・判りました」

 そう言うと、リリーはルナの目の前で右手を握って拳を作って見せる。

 リリーはルナに向けて微笑みを浮かべると、拳でルナの顔の横の壁を殴りつける。

 次の瞬間、轟音と共に壁に大穴が開いた。

 離れたエリシスから見ても、ルナの顔は恐怖に引き攣って目に涙を浮かべ、体が震えているだけでなく、奥歯をカチカチ鳴らしているのが判った。

 リリーはルナの髪を掴むと顔を近づけて睨み付ける。

「いいか!? くれぐれも私の手を煩わせるなよ?」

 普段は美しいリリーの瞳だが、余計な仕事が増えた怒りで瞳孔が縦に割れ、吸血鬼(ヴァンパイア)の目になる。

 怯えるルナは恐怖のあまり失禁する。

「・・・コイツ、漏らしやがって!!」

 リリーが侮蔑した目でルナを見下す。

 エリシスがリリーを諭す。

「貴女があんまり脅かすからよ」

 エリシスの言葉でリリーは伸ばしていた爪を元に戻して、ルナの腕から引き抜いた。 

 ルナは腰が抜けたように、その場にへたり込む。

 リリーが冷酷にルナに告げる。

「お前は、このエリシス・クロフォード伯爵の慈悲で生きていられる。感謝しろ。伯爵の靴に接吻して忠誠を誓え」

 恐怖に震えながらルナは土下座して両手を地面に付けると、リリーに言われたとおり、エリシスの靴にキスした。

 その様子を見たエリシスがルナに微笑む。

「素直なカワイイ子ね。フフフ」

 リリーがルナに小瓶を差し出す。

「これは・・・?」

「飲め。回復のポーションだ。伯爵に忠誠を誓う以上、お前は私の部下だ」

 ルナが差し出されたポーションを飲むと傷はみるみる回復していく。

 こうして三人は、獣人(ビーストマン)の巣穴を更に進んで行った。

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