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第七十六話 死者の魔導師

--帝国軍要塞『狼の巣』 地下工場

 小隊は、クリシュナが作ったアースゴーレムを先頭に地下通路をひた走った。

 物陰から戦闘員が二人出て来る。

 アースゴーレムは、二人の戦闘員をそれぞれ両手で鷲掴みすると、「うっちゃり」の体勢のまま走り続ける。

 戦闘員は指先の爪でゴーレムを突き刺したり、ジタバタともがいていたが、ゴーレムはお構い無しに走り続ける。

 それを見たジカイラが笑い出す。

「むはははは。コイツは良い!まるで機関車だな!!」

 ラインハルトも鼻で笑う。

「フッ。このまま出口を目指そう!!」

 しばらく走り続けると階段が現れた。

 ゴーレムは戦闘員を鷲掴みにしたまま、地下通路を走り去って行った。

「此処から地上に出よう!」

 ラインハルトを先頭に小隊は階段を登り、地上の建物の中へと出た。





 小隊が地上に出た建物は石造りであり、最初に入った建物と同じ作りであった。

 階段の下から爆発音と地響きのような轟音が聞こえ、階段から蒸気と煙が噴き上がって来る。

 ジカイラが呟く。

「爆発したな」 

 ラインハルトが答える。

「ああ。これでしばらく麻薬の生産は止まるだろう」

 ケニーが出口の鉄扉を解錠する。

「これで良し! 何時でも出られるよ!」






 ラインハルトが鉄扉の覗き窓から外の様子を窺う。

 死霊使い(ネクロマンサー)らしき黒いローブの者が骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)に指示を出している様子が見えた。

「アレが此処の指揮官か・・・?」

 ラインハルトに代わり、ナナイも覗き窓から外の様子を窺う。

「そうみたいね」

「外に敵の指揮官らしきものが居る。出たら、一斉に攻撃しよう!」

「「了解!」」

 ラインハルトの指示で出口の鉄扉の前に小隊は集まり、全員が身構える。

「行くぞ!!」

 ケニーが鉄扉を開け、全員が屋外に駆け出す。

 ラインハルトとナナイは、黒いローブの者に駆け寄り、後ろから一太刀つづ斬り付けた。

 二人共、斬り付けた手応えに違和感を感じる。

「なんだ? 手応えの無さ? この違和感は・・・??」

「これは??」

 黒いローブの者は、小隊の方を振り向いた。

 フードの中から死体のような『人ならざる者』の醜悪な顔が現れる。

 小隊全員が驚く。

 ラインハルトは思わず口に出す。

「貴様! 死者の魔導師(エルダー・リッチ)か!?」

 黒いローブの者は、その醜悪な顔でニヤッと笑みを浮かべる。

「御名答! 我は、この要塞を預かる者!! 我が『聖域』を侵す者達に死を宣告する!!」

死者の魔導師(エルダー・リッチ)は不死者であり、魔力が付加された武器で多少のダメージは与えられるが、物理攻撃には耐性があった。

 ヒナが駆け寄って手をかざし、魔法を唱える。

氷結水晶(クリスタル)(ランス)・、二本(ツヴァイ)!!」

 ヒナの掌の先に魔法陣が表れると、空気中から二本の氷槍が作られる。

 二本の氷槍は死者の魔導師(エルダー・リッチ)の胴体を貫いた。

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)が笑う。

「ヒャヒャヒャヒャ。我には氷結魔法など効かぬ!」

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)には、氷結魔法は全く効果が無かった。

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)はヒナに向けて、干からびた手をかざす。

雷撃(サンダー)!!」

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)の掌の先に魔法陣が現れ、雷撃がヒナを襲う。

「きゃあああ!!」

 雷撃に打たれ、悲鳴を上げてヒナが倒れ込む。

「「ヒナ!!」」

「ヒナちゃん!!」

 小隊の心配を他所に、ヒナは杖をついてよろよろと起き上がる。 

「大丈夫! こんな初級魔法で死んだりしないから!!」

 続けて死者の魔導師(エルダー・リッチ)はティナに向けて、干からびた手をかざす。

氷結水晶(クリスタル)(ランス)!!」

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)の掌の先に魔法陣が現れ、氷槍がティナを襲う。

「ティナ!!」

 ジカイラがティナを突き飛ばし、身代わりにジカイラの脇腹に氷槍が刺さる。

「グハッ!!」

 ジカイラは脇腹を押さえ、蹲る。

「ジカさん!!」

 ティナがジカイラの傍に駆け寄る。

 続けて死者の魔導師(エルダー・リッチ)はナナイに向けて、干からびた手をかざす。

火球(ファイヤーボール)!!」

「ナナイ!!」
 
 ラインハルトがナナイの前に出て、騎士盾で火球(ファイヤーボール)の一撃を受けた。

「ぐうっ!!」

 更に死者の魔導師(エルダー・リッチ)はクリシュナに向けて、干からびた手をかざす。

火球(ファイヤーボール)!!」

 ハリッシュがクリシュナの前に出て、クリシュナを背に庇う。

「ふんっ!!」
 
 ハリッシュは、死者の魔導師(エルダー・リッチ)火球(ファイヤーボール)を杖で打ち消した。

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)は、その醜悪な顔で笑みを浮かべ、ハリッシュに話し掛ける。

「ほう? 少しはやるようだな?」 

「炎とは、このように使うのですよ!!」

 ハリッシュはそう言って手をかざすと、掌の先の空中に三つの魔法陣が浮かび上がる。

火炎(フレイム)爆裂(・バースト)!!」

 爆炎が死者の魔導師(エルダー・リッチ)を襲う。

「グァアアアアアア!!」

 爆炎は結構効いているようで、爆炎の中で死者の魔導師(エルダー・リッチ)はもがいていた。

 ケニーがジカイラに治癒魔法を掛けているティナにそっと耳打ちする。

「僕が足止めして時間を稼ぐ。ティナちゃんはアイツを解呪(ディスペル)してくれ」

「判ったわ!」

 ケニーは全力疾走で死者の魔導師(エルダー・リッチ)の前に駆け寄る。

 ケニーは至近距離から強化弓で矢を二本放った。

 二本の矢は、死者の魔導師(エルダー・リッチ)の両目に刺さる。

「ヒャヒャヒャヒャ。爆炎魔法で少しはやるなと思ったが。我には弓など効かぬ!」

 高笑いする死者の魔導師(エルダー・リッチ)をケニーは雄叫びを上げて、二本のショートソードでメッタ突きに突き刺す。

「うぉおおお!!」
 
「ヒャヒャヒャヒャ。暗殺者(アサシン)よ。無駄な努力だ!」

死者の魔導師(エルダー・リッチ)は、干からびた手でケニーの首を締める。

「それはどうかな?」

 手を止めたケニーは笑みを浮かべる。

 巨大な法印が死者の魔導師(エルダー・リッチ)の足元の地面に現れる。

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)は驚愕して狼狽える。

「なんだと!?」

 ティナの祈りが死者の魔導師(エルダー・リッチ)を捕らえた。

Laudatus(ラウダートス・) sis,(シス、) mi(ミ・) Domine,(ドミーネ) propter(プロープタ・) illos,(イロス、) qui(クゥイ・) dimittunt(ディミトゥント・) propter(プロープタ・) Tuum(トゥーム・) amorem(アモーレム),」
(私の主よ、あなたの愛のゆえに赦し合う者)

Beati(ベア・) illi,(イーリィ、) qui ea(クイ・イア・) susti(システィ)nebunt(ネブント・) in pace,(イン・パーチェ、)
(安らぎのうちに耐える人は幸いです)

quia a Te,(クイ・ア・テ、) altissime,(アルテシメ、) corona(コロナ)buntur.(ブゥントゥル)
(その人々が、至高のあなたから栄冠を賜りますように)

quam(クゥア・) nullus(ヌルルス・) homo(オーモ・) vivens(ヴィーヴェンス・) potest(ポーテスト・) evadere.(エヴァードレ)
(この世に生を受けたものは、これから逃れることはできません)

上位解呪(ハイネス・ディスペル)!!」

 死者の魔導師(エルダー・リッチ)が断末魔の叫びを上げる。

「キ、貴様、謀ったな!! ガァアアアァァ」

 ケニーが死者の魔導師(エルダー・リッチ)に告げる。

「『無駄な努力』なんて、無いんだよ」

 ティナの祈りによって、死者の魔導師(エルダー・リッチ)は消滅していった。

  





 ナナイがラインハルトを気遣う。

「大丈夫?」

「大丈夫。少し火傷したくらいだ。そろそろ撤退しよう」

 再び小隊は、『(アンチ・)不死者(アンデッド・)防御殻(コクーン)』で骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)の集団を避けつつ、侵入してきた外壁の上に立った。

 ハリッシュが外壁から要塞内部を眺めて、感想を述べる。

「『狼の(ヴォルフス)(シャンツェ)』という名称の要塞ですが、不死者(アンデッド)の巣窟でしたね」

 ラインハルトが答える。

「そうだな。ハリッシュ、地上の麻薬畑を焼き払えるか?」

「できますよ。他の皆さんは、先に外壁から降りていて下さい」

 ハリッシュの言葉に従って、ハリッシュ以外の小隊メンバーは外壁から要塞の外へ降りた。

 ハリッシュは外壁の上で杖を高く掲げ、魔法の詠唱を始めた。

Manna,(マナ、)omul (オムール・)tuturor (トゥトゥルー・)lucrurilor(ルークルリロール).」
(万物の素なるマナよ)

 ハリッシュの足元に一枚、ハリッシュの頭上に等間隔で直径十メートルほどの光る大きな魔法陣が六枚、描かれ浮かび上がる。

 ハリッシュは詠唱を続ける。

Bazat(バザト・) pe Legă (ぺ・レガ・) mântul (ムントゥル・) Baikalt(バイカルト).」
(バイカルトの盟約に基づき)

Vreau ca(ブレウ・カ・) focul (フォクウル・) lumii(ルミイ・) interlope (インタロペ・) (サ・) trăiască(タラヤースカ・)cu (コ・) prezentul(プレゼントゥル).」
(冥界の業火を常世に現さんと欲す)

 要塞の中央の位置に大気中から無数の光が集まり、小さな紫色の球体を形作った。

 その紫色の球体は瞬く間に大きく巨大になる。

 ハリッシュは更に呪文の詠唱を続ける。

Acum vino (アクーム・ビノ・) aici cu (アイーチ・ク・) puterea (プテレア・) manei și(マネイ・シ・) a lunii !(ア・ルーニイ!)
(今、此処にマナと月の力によって現出せよ!)

Distruge(ディシュトルジェ・)ți-mi(ツィミ・)dușmanii(ドゥシュ・マーニ)! !(!!)
(我が敵を滅ぼせ!!)

 「地獄業火(ヘル・フレイム・)爆裂(バースト)!!」

 ハリッシュが呪文の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散った。

 要塞中央の紫色の球体は、巨大な炎の塊に姿を変え気化爆弾のように大爆発を起こした。 

 ハリッシュは素早く外壁から要塞の外へ降りて、小隊に合流した。

 小隊は小走りで木立を抜けて揚陸艇に戻ると、航空母艦へ向けて揚陸艇を離陸させる。 



 眼下には要塞全域で火災が起こり、黒煙を上げて麻薬畑が燃えている様子が見て取れた。

 ラインハルトが傍らのナナイに話し掛ける。

「皇太子は居なかったが、革命政府の麻薬製造拠点は叩けたな」

「そうね」

「残り三箇所だな」
 

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