第七十二話 地下工場と秘密警察
小隊は、最初の石造りの建物の中を探索する。
建物は二階建てで、一階に五部屋、二階に六部屋あった。
部屋は空き部屋であり、めぼしい物は何もなかった。
地下へと続く階段の前に小隊が集まる。
「本命は地下か」
ラインハルトが先導して階段を降り始める。
「行こう。何が出て来るのか判らない。細心の注意を」
「「了解!」」
小隊は階段を降りた。
階段を降りた先は、幅が12メートルほど、高さも7メートルほどの大きな地下通路が延々と続いているのが見てとれた。
地下通路は、中央に2.5メートルほどの通路があり、その両脇には機械設備が設置され稼働していた。
天井には、魔法の青い光を放つ照明が一定間隔で設置されており、煌々と通路を照らしている。
小隊は、薄暗い通路を奥へと歩みを進める。
ケニーが機械を見て、名称を読み上げていく。
「裁断機、圧搾機、真空濃縮機、撹拌機・・・」
ヒナが疑問を口にする。
「機械がたくさん・・・」
ティナも同様の質問をする、
「これ・・・何の機械なの??」
ナナイが機械別の機能を読みあげていく。
「細かく切って、絞って、水分を飛ばして濃くして、混ぜて練る・・・」
クリシュナが気が付いたように呟く。
「まさか・・・!?」
ラインハルトが解説する。
「この地下通路に並ぶ機械設備が全て『
ジカイラが呆れたように話す。
「地上が麻薬原料の畑で、地下が麻薬生産工場か。しかも労働者は不眠不休で働き続ける
ハリッシュも呆れたように話す。
「アスカニアに麻薬を流通させているマフィアの元締めが革命政府だったとは。国家規模で麻薬製造をやると、こんなに大規模になるのですね」
通路の先の、遠くの機械の物陰から黒い影が二つ姿を表す。
ラインハルトとナナイは、その影に見覚えがあった。
光沢の無い漆黒の革鎧、丸眼鏡、せむし男のような姿、指先から伸びる爪状の刃物。
秘密警察の戦闘員であった。
二人の戦闘員は、ラインハルト達に気付くと、その爪を振りかざして音も無く走り寄ってくる。
「秘密警察の戦闘員だ! 来るぞ!!」
ラインハルトとナナイは抜剣して構えると、踏み込んで相手との距離を詰める。
ラインハルトは、戦闘員を袈裟切りに右上から左下へ斬り下ろす。
戦闘員は左手首の手甲でラインハルトのサーベルを受けようとしたが、鈍い音と共にサーベルは手甲ごと戦闘員を一刀両断する。
斬られた戦闘員は、黒い血を吹き出して崩れ落ちた。
ラインハルトに僅かに遅れて、ナナイも袈裟切りに右上から左下へ斬り下ろす。
戦闘員は同じように左手首の手甲で受けようとするが、ナナイの剣は金属音をたて、戦闘員の左手の爪を三本切断したところで止まる。
戦闘員が右手の爪でナナイに斬り掛かる。
「くっ!!」
舌打ちしながらナナイは、屈んで戦闘員の攻撃を回避する。
ナナイは、下から上へ戦闘員の顔面を蹴り上げた。
戦闘員の面頬(めんぼう:顔面と喉を覆う装甲)が外れて床に落ちる。
戦闘員は後ろへ飛び退き、ナナイとの距離を開けた。
天井の照明が戦闘員の素顔を照らしだす。
死体のような『人ならざる者』の醜悪な顔であった。
ラインハルトが驚いて口にする。
「ゾンビか!?」
ナナイが戦闘員に剣を構えながら、ラインハルトに答える。
「このスピードとパワーは、
戦闘員が右手の爪でナナイに斬り掛かる。
ラインハルトのサーベルが一閃し、戦闘員の右腕の肘から先を斬り飛ばす。
金属音と共に斬り飛ばされた右腕が床の上に落ちる。
ナナイは、左から右へ、戦闘員の首を斬りつけ切断した。
戦闘員の黒い血を吹き出しながら胴体が崩れ落ちる。
先行するラインハルトとナナイ、その後ろにジカイラとティナが続き、ハリッシュとクリシュナ、ケニーとヒナが続く。
ジカイラとティナの後ろに物陰から音もなく戦闘員二人が現れる。
戦闘員は前後に別れ、襲い掛かる。
後方に向かった戦闘員がハリッシュに斬り掛かる。
「うわっ!?」
ハリッシュは杖で、戦闘員の右手の爪の一撃を受け止める。
しかし、戦闘員の怪力で押し込まれていく。
戦闘員は右手だけだったが、両手で支えるハリッシュが力負けして地面に片膝を着いた。
「ぐぐぐ・・・かなりの力ですね」
戦闘員の右手の爪がハリッシュの肩に食い込み、斬り裂く。
「ぐぁっ!!」
ハリッシュが嗚咽を漏らす。
「ハリッシュ!? このぉ!!」
クリシュナが叫び、腰から取り出した
殴られた戦闘員は、よろよろとよろめき、壁に背を付ける。
ヒナが駆け寄って戦闘員に手をかざして魔法を唱える。
「
ヒナの掌の先に魔法陣が表れると、空気中から二本の氷の槍が作られる。
二本の氷槍は戦闘員の両肩を貫き、そのまま戦闘員を壁に縫い付けた。
しかし、戦闘員は左腕を伸ばし、ヒナに向けてその爪を大きく下から上へ斬り払った。
「きゃっ!!」
ヒナの左手の肘から先を戦闘員の爪が切り裂く。
負傷したヒナを背に庇うように、前に出たクリシュナが召喚魔法を唱える。
「
クリシュナの前に三つの光の玉が召喚され、それらは光の矢となって戦闘員の胸を貫いた。
しかし、戦闘員は右手で左肩を貫く氷の槍を掴むと、引き抜こうともがく。
クリシュナが驚く。
「まだ生きているなんて!!」
隊列の最後尾に居たケニーがダッシュして来て、もがいている戦闘員に斬り掛かる。
ケニーはショートソードを交差させて斬り付け、戦闘員の首を切り落とした。
戦闘員は動かなくなり、一同は安堵する。
ケニーが呟く。
「コイツら、ここまでしないと倒せないのか」
前方に向かった戦闘員は、ティナに斬り掛かる。
「来たわね!
ティナは戦闘員の方へ振り返って神聖魔法を唱え、祈りを捧げる。
光の防壁がティナの前に作られ、通路を塞ぐ。
しかし、戦闘員は光の防壁を通り抜けて駆け寄り、ティナに襲い掛かる。
「ティナ!!」
「きゃっ!!」
ジカイラがティナを腕に抱え壁際に押し退けて庇い、背中に戦闘員の一撃を受けた。
甲高い金属音が通路に響く。
しかし、ジカイラは背中に大盾を背負っていたため、無傷であった。
「くたばり損ないが!!」
ジカイラは振り向き様に、肘で戦闘員の顔を打つ。
「グハッ!!」
戦闘員が嗚咽を漏らし、後ろにたじろぐ。
「コイツ、しゃべったぞ!?」
そう言うとジカイラはティナを背中に庇って
ティナがジカイラに尋ねる。
「どういうこと??」
「
次の瞬間、戦闘員の首が飛ぶ。
血を噴き上げながら、戦闘員の胴体が倒れる。
ティナの悲鳴を聞いたラインハルトが、後ろから戦闘員の首を切り飛ばしたのだった。
ラインハルトが二人に話し掛ける。
「すまない、ジカイラ。 ティナ、大丈夫か?」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。心配しないで」
ティナは笑顔でラインハルトに答える。
「ああ。ティナ、ハリッシュとヒナが怪我している。診てやってくれ」
「うん。行ってくる」
負傷したハリッシュとヒナの方へティナが小走りで向かう。
ジカイラがラインハルトに答える。
「水臭いぞ。オレに謝るな。しかし、秘密警察の戦闘員だけあって、厄介な連中だな」
「
「ああ。しかも