第六十七話 『狼の巣』へ
ジカイラが飛空艇から降りて、シュタインベルガーの足元をウロウロする。
やがてメオス軍の兜を見つける。
「ケニー。手伝え! 戦利品だ。戦利品」
そう言うとジカイラはケニーと装飾のある兜を拾い集める。
ナブや隊長達が着用していた兜で、いずれも鳥の羽やら何やらで飾り立てていた物であった。
ジカイラがシュタインベルガーを見上げる。
「・・・しかし、凄いな。クリシュナが召喚したストーンゴーレムが小さく見える」
「そうだね」
ケニーもジカイラと同意見だった。
--夕刻。
大型輸送飛空艇で国土防衛師団が北部方面軍からヴァンガーハーフェンに到着した。
国土防衛師団を率いるシュミット中佐がラインハルトを訪ねて来る。
ラインハルトとシュミットは、互いに敬礼した後、握手し、帝国軍の進駐と施政移管の概要について打ち合わせる。
街を防衛する革命軍から、進駐してきた帝国軍への施政移管は、ラインハルトの仲介によって滞り無く行われた。
市役所には『バレンシュテット帝国旗』が掲げられる。
占領と引き渡しに関する一連の行政手続きが無事に終わり、アキックスは帝国竜騎兵団とキズナへ戻る事となった。
アキックスは見送りに来たラインハルトと握手する。
「我々は、これで引き上げる。皇太子殿下探索の任を頼んだぞ! ラインハルト大佐!!」
「判りました」
アキックスと握手し終えたラインハルトは、小隊と一列に並んで敬礼し、アキックス達の帝国竜騎兵団がキズナへ向けて飛び立つ姿を見送った。
帝国竜騎兵団を見送ったラインハルト達は、航空母艦ユニコーン・ゼロに戻り、今後の方針についてミーティングを開く。
ラインハルトが議題を告げる。
「帝国大聖堂、帝国魔法科学省、帝国軍要塞『
ハリッシュが意見を述べる。
「此処から地理的に一番近いのは、『
ナナイもハリッシュに同意する意見を述べる。
「いきなり首都近郊の施設に、この航空母艦で乗り付けるのも革命政府をイタズラに刺激するわ。まず一番近い『
ジカイラも意見を上げる。
「一番近くからで良いんじゃね? 順番に行けば?」
クリシュナ、ティナ、ヒナもジカイラと同意見であった。
ラインハルトが締め括った。
「最初に探索する拠点は、『
ラインハルトは艦橋のアルケットに指示を出す。
「我々は『
「判りました」
航空母艦ユニコーン・ゼロは、進路を『
『
しかし、革命党による暴力革命の際に、帝国軍はこの要塞を放棄したため、現在は革命政府が拠点にしていた。
航空母艦ユニコーン・ゼロの巡航速度なら、ヴァンガーハーフェンから『
ナナイは、『
戦艦とは違い重武装を持たない航空母艦で、帝国軍の要塞であった『
ナナイには、『自分から提案したら承認されるだろう』という自信はあったが、まずは事前に飛空艇の状態を確認しておく必要があった。
ナナイはハンガーへ行き整備班長を訪ねたが、「休憩中」との事であった。
兵士達が休憩を取る兵士用の食堂兼休憩室へ向かう。
ナナイはドアを開け、休憩室へ入る。
休憩室には誰も居なかった。
(行き違いになったか・・・?)
そう思いつつも、ナナイは休憩室内を見渡す。
ナナイは、ふと、テーブルの上に置かれた『女性向け雑誌』に目が留まる。
雑誌の表紙には大きくこう書かれていた。
『特集:思春期の男の子の生態と夜の営み』。
ナナイは再び周囲を見て、休憩室に誰も居ない事を確認すると、雑誌をパラパラと数頁、捲って中の記事を見る。
(ええっ!?)
記事の内容に驚いてナナイは雑誌を閉じると、手にしている書類の間にその雑誌を挟み込み、足早に休憩室を後にした。
雑誌類は艦の備品なので隠すことはないのだが、記事が記事だけに、自分がこれを読む事、人目に触れる事は憚った。
ナナイが再びハンガーに行くと、整備班長は戻っていた。
整備班長に飛空艇の整備、特に時間交換部品の状態について確認する。
まだ機体が新しいこともあり、飛空艇は一週間ほど連続で稼働させても大丈夫な状態であった。
ナナイは足早に自分の部屋へ戻る。
手にしていた書類をテーブルの上に置くと、自室のベッドの上に腰掛け、食堂で見つけた雑誌を取り出して記事を読み始める。
ナナイは大貴族の生まれであり、庶民向けの雑誌など手にする機会が無かった。
また、女性向けの雑誌の中でも、いわゆる『低俗な部類』のこの手の雑誌は全く読んだ事が無かった。
(なになに・・・『思春期の男の子はヤリたい盛り。四六時中セックスの事ばかり考えている』!?)
(『彼女の居ない男の子は、夜な夜な自分で性欲処理している』って!? これ、ホント!?)
低俗な雑誌だけに、記事の内容は疑りたくなる内容ではあった。
しかし、士官学校に居た頃、ラインハルトとジカイラが自分のお尻を見て話していた事など、ナナイにも思い当たる節はあった。
ナナイは雑誌の記事を読んでいる自分の顔が、段々と紅潮していくのが判った。
更に記事を読み進める。
(『夜の営み、女の嗜み』って・・・?)
雑誌のその頁を捲ると、口淫の仕方が男性器の図解入りで解説されていた。
(ええっ!? こ、こんな事、するの?? ・・・な、なるほど。男の人を射精させて満足させるには、舌でココをこうすれば良いのね・・・。で、大きく固くなったら、舌を絡ませて、口で吸うように咥える・・・と)
ナナイは真剣に図解の解説に見入る。
「ナナイ・・・?」
突然、声を掛けられ、ナナイはビクンと身を反らせて驚く。
声の方を振り返ると、クリシュナがドアを開けて部屋を覗き込んでいた。
ナナイは雑誌の記事を読むのに夢中になっていたため、クリシュナがドアをノックしても、ドアを開けても気が付かなかったのだ。
「どうしたの? ナナイ。真っ赤な顔して??」
クリシュナが心配そうにナナイに声を掛ける。
「大丈夫! 何でも無いの!」
そう言うとナナイは慌てて読んでいた雑誌をベッドの中に隠した。
「何処か、具合悪いならティナに診て貰ったら?」
「大丈夫よ! それより、どうしたの?」
クリシュナは考えるポーズをして、ナナイに尋ねる。
「ん~。今度の探索任務で、事前に用意しておいた方が良い物ってあるかしら?」
「そ、そうね。『召喚用の護符』は一通り用意しておいた方が良いかも」
「確かにそうね。流石、ナナイ!」
「そう? ありがとう」
ナナイの返事を聞くと、クリシュナはナナイの部屋のドアを閉め、自分の部屋に帰って行った。
ナナイはベッドの中から読んでいた雑誌を出して続きを読む。
そして記事に一通り目を通すと、雑誌をベッドの下にしまった。
(これは・・・今夜、実践してみるしか無いわね!)