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第六十六話 ワンサイドゲーム

 (ウッド)エルフの王ベルナール・フォントネルとドワーフのモロトフ王は、それぞれ自軍に戻り、軍勢を撤退させ始めた。

 ヴァンガーハーフェンの東側に黒い絨毯のように広がっていた三カ国連合軍の軍勢は、潮が引くようにその姿を小さくしていった。

 その様子を見ていたアキックスはシュタインベルガーに話し掛ける。

「友よ。敵は戦う前から逃げ出したぞ」

 シュタインベルガーは鼻で笑うとアキックスに答える。

「フッ。賢明な事だ」




 シュタインベルガーの答えを聞いたアキックスは、帝国竜騎兵団に次の指示を出す。

 ヴァンガーハーフェンの東側上空を旋回していた帝国竜騎兵団は、今度は四方の街の防壁の上に降り立った。

 防壁の四隅にある櫓の革命軍兵士が、防壁の上に止まる飛竜(ワイバーン)に向けて弓を構えるが、飛竜(ワイバーン)には動じる様子はない。

 櫓に陣取る革命軍の下士官が兵士に命令する。

「お、落ち着け! 飛竜(ワイバーン)に弓矢など効かない。刺激するな!!」

 街の四方の防壁の上にズラッと飛竜(ワイバーン)が並んで止まる姿は、ある意味で壮観であったが、街を防衛する革命軍にとっては『恐怖』以外の何物でもなかった。

 街の上空には巨大な航空母艦が停泊し、東側には古代(エンシェント)(ドラゴン)が陣取っている。

 革命軍にとって、メオス軍に囲まれるよりも、その戦力差は絶望的であった。





 航空母艦から四機の飛空艇が降りてくる。

 ラインハルト達であった。

 四機の飛空艇は、そのままヴァンガーハーフェンの市役所の中庭に降りた。

 ラインハルトとナナイは飛空艇から降りる。

 戦々恐々と航空母艦から降りてくる飛空艇を見守っていた、市役所の入り口で歩哨に立つ革命軍兵士が、声を上げ、駆け寄る。

「ひょっとして貴方は! ラインハルト少佐ですか!?」 

 兵士からの問いにラインハルトは笑って答える。

「今は帝国軍大佐だがね。この街の司令官は居るか?」

「はい! ご案内致します」

 兵士に案内され、ラインハルトとナナイは市役所の一角に設けられた司令室に向かう。

「失礼します。軍使をお連れしました」 

 兵士に案内され、二人は司令室に入る。

 出迎えた司令官は、ラインハルト達の事を覚えていた。

「これは・・・ラインハルト少佐!? メオスの王都攻囲戦で戦死したと伺っておりました」

 驚く司令官にラインハルトは苦笑いしながら話す。

「覚えていてくれて良かった。今、私達は帝国軍に所属している。話というのは他でもない。この街のことだ」

「はい」

「争うつもりはない。帝国軍に帰属したまえ」

 司令官はラインハルトからの申し出に安堵の表情を浮かべる。

「・・・判りました。自分達にどうにかできる状況ではありません」

 司令官の了承を得たラインハルトは、残りの問題を片付けるため、ナナイを連れアキックスの元へ向かう。

(後は街の東側に残るメオス軍だな)

 


 ラインハルト達は、四機の飛空艇で市役所の中庭から飛び立ち、シュタインベルガーの傍らに降り立つ。 
 
 シュタインベルガーからアキックスが降りて来た。

 ラインハルトがアキックスに話し掛ける。

「伯爵。メオス軍は、どう出て来ると思いますか?」

「エルフとドワーフは、さっさと逃げ帰ったからな。メオス軍は、玉砕覚悟で攻めてくるか、このまま逃げ帰るかの二択しかない」





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--メオス軍本陣

 メオス軍の軍議は粉叫していた。

 エルフとドワーフが軍を引いたため、メオス軍の兵力は四万人ほどになっていた。

「これ以上、犠牲を出すべきではない。撤退しよう」

 ガローニの撤退主張にナブが強硬に反対する。

「バレンシュテットに国土を蹂躙された上、二度も膝を屈するのか!? たとえ竜王が相手でも、戦って死んだ方がマシだ!!」

 いきり立つ隊長達はナブを支持する。

「我々の手斧や弩では、あの竜王には傷一つ付けられまい」

 ガロー二の言葉にナブは正面からガロー二を見据えて答える。

「知っている」

「メオスの守りはどうするのだ?」

「お前がやれ」

「・・・死ぬぞ?」

「覚悟の上だ」

 ガローニとナブの間に、しばし沈黙の時が流れる。

 口を開いたのはガローニだった。

「判った。四個師団のうち、一個師団は私が本国に連れて帰る。残る三個師団はお前に託す。これでいいか?」

「ああ」

 隊長達がナブの元に集まる。

「「将軍! お供致します!!」」

「メオスの誇りをバレンシュテットに見せつけてやろうぞ!!」

 ナブの雄叫びに隊長達が気勢を上げ、ナブと隊長達は本陣のある陣屋から出撃して行った。

 ガローニは本陣で立ち尽くして、その様子を見守っていた。

(・・・さらばだ。友よ)






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 メオス軍の前線に動きがあった。

 大砲が前線に引き出されてくる。

「ほう? メオスは玉砕覚悟で戦うらしい。受けて立つぞ」

 アキックスは、ラインハルト達にそう言うと、再びシュタインベルガーに乗る。

 ラインハルトたちは飛空艇に乗り、上空から見守ることにした。

 
 



 メオス軍の一つの大砲が火を噴いた。

 撃ち出された砲丸がシュタインベルガーの胸に当たる。

 しかし、鈍い金属音と共に砲丸は弾き返される。

 『開戦』の合図であった。

 城壁に並んで止まっていた竜騎士達が一斉に飛び立つ。

 シュタインベルガーは大きく息を吸い込む。

 一呼吸置いて、シュタインベルガーはメオス軍に向け、紅蓮の爆炎を吐いた。

 タイミングを合わせ、竜騎士を乗せた飛竜(ワイバーン)たちも炎を吐いてメオス軍に浴びせる。






 同じ(ドラゴン)の火炎ブレスでも、シュタインベルガーの火炎ブレスは全くランクが違っていた。

 飛竜(ワイバーン)の火炎ブレスは、ナパーム弾と同程度で『鉄が赤く焼ける程度』あった。

 古代(エンシェント)(ドラゴン)シュタインベルガーの火炎ブレスは、太陽のコロナに匹敵する高温であり『鉄など蒸発してしまうレベル』であった。






 メオス軍は帝国竜騎兵団の最初の一撃で壊滅状態となり、その陣地は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 シュタインベルガーの火炎を浴び、大砲ごと瞬時に蒸発する者。

 飛竜(ワイバーン)の火炎を浴び、燃え上がる衣服の火を消すべく悲鳴を上げ、地面を転がる者。

 焼け焦げ、或いは溶けてガラス状になった大地の上をシュタインベルガーはゆっくりと本陣へ向けて歩みを進める。

 代わる代わる飛竜(ワイバーン)が上空から火炎ブレスを浴びせるため、メオス軍はシュタインベルガーに近づくことさえできない有様であった。

「弓隊、放て!!」
 
 隊長の号令を受けて、メオスの弓隊が飛竜(ワイバーン)に向けて一斉に矢を放つ。

 しかし、メオスの矢は飛竜(ワイバーン)に当たっても、傷一つ付けることは出来なかった。

 弓隊に飛竜(ワイバーン)の火炎が浴びせられる。

 たちまち兵士達は炎に包まれ、命のある者は悲鳴を上げ、地面を転げ回る。





 ナブは四人の隊長たちを連れて、塹壕に身を潜めながらシュタインベルガーに近づいて行った。

 そしてシュタインベルガーの足元で塹壕から出ると、雄叫びを上げながら手斧でシュタインベルガーの右の前足を斬り付けた。

 「ウオォオオオオオーーー!!」

 鈍い金属音と共に手斧が弾かれる。

 硬い金属を手斧で斬り付けた感触がナブを襲う。

 シュタインベルガーはナブを右の前足で踏み潰した。

 即死であった。

「「ああっ! 将軍!!」」

 その様子を見ていた四人の隊長達もナブの後に続く。

「クッソオオオ!!」

 いずれも手斧で斬り付けるが金属音と共に弾かれていた。 

 シュタインベルガーはその長い尾で四人の隊長達を薙ぎ払う。

 四人とも即死であった。一瞬の出来事であった。

 ある者は吹き飛ばされ、ある者は尾の下敷きになっていた。

 



 三個師団が壊滅し、指揮官を失ったメオス軍は東へ向けて壊走した。

 アキックスがシュタインベルガーに話し掛ける。

「友よ。深追いは無用だ。彼等も流石に懲りただろう」

「木こりが我に勝てるとでも思ったか。思い上がりも甚だしい」

 シュタインベルガーはそう答えると、アキックスを地上に降ろした。

 飛空艇に乗り上空で戦いを見守っていたラインハルト達もアキックスの元へ降りて来る。

「お疲れさまです。圧倒的でした」

 ラインハルトの言葉にアキックスは余裕を見せて答える。

「メオス軍など我等が帝国軍に比べ、数段格下だ。当然の結果だな」

 アキックスが続ける。

「シュミット中佐の国土防衛師団が来たら、我々、帝国竜騎兵団は引き上げるとしよう。君達は、この街で休憩したら、皇太子殿下探索の任に当たって欲しい。当面の目標となる施設だが、帝国大聖堂、帝国魔法科学省、帝国軍要塞『死の山(ディアトロフ)』、同じく帝国軍要塞『狼の(ヴォルフス)(シャンツェ)』といったところが監禁場所として予想されている。まずはここいらを調べてくれ」

「判りました」

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