第六十五話 瓦解、三カ国連合軍
暫しの飛行の後、遠くにヴァンガーハーフェンが見えてくる。
街の東側には、メオス軍の軍勢が黒い絨毯のように広がっていた。
ラインハルトが傍らのナナイに話し掛ける。
「再び、この街に来るとはな」
ナナイは口元に手を当ててクスッと笑う。
「そうね」
ラインハルトはナナイを見て微笑むと、歩きだした。
「艦橋へ行く」
「了解」
二人は艦橋へ向かった。
艦橋でアルケットが二人を出迎える。
アルケットは、ラインハルトとナナイの二人に敬礼すると、状況を報告する。
「間も無くヴァンガーハーフェンです」
報告を受けたラインハルトは、アルケットに指示を出した。
「本艦は上空で待機。飛空艇を準備してくれ」
「了解しました!」
アルケットが部下に指示を出していた。
ラインハルトは艦橋から街の東側に広がる三カ国連合軍を見下ろし、傍らに居るナナイに語り掛ける。
「伯爵と帝国竜騎兵団は、どう出るかな?」
「シュタインベルガーの力は圧倒的だわ。メオス軍も正面切っての戦闘は避けるんじゃないかしら?」
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--三カ国連合軍 本陣
司令部のある陣屋に伝令が駆け込んでくる。
「一大事です! ヴァンガーハーフェン上空に航空母艦と
報告を受けたメオスの二人の将軍、ガローニとナブは一斉に立ち上がる。
「「なんだと!?」」
同じテーブルに居る
ガローニが伝令兵に指示する。
「た、確かか? まず、確認だ! 確認しろ!!」
ドワーフのモロトフ王が怪訝な顔でナブとガローニを睨み付ける。
「どういう事だ?」
「
「判らん。我々も見に行ってみよう」
ナブは、そう言うと陣屋の外に行った。
ガローニとベルナール、モロトフも後に続く。
四人が陣屋の外からヴァンガーハーフェン上空を見る。
「・・・ああ」
誰かが呟いた。
四人は、動きを止め固まった。正しくは『動けなかった』。
確かにそれらは居た。
遠くからでもハッキリと視認できた。
街の上空に滞空する航空母艦。
その隣を編隊飛行し、向かって来る
その光景を見た四人の脳裏に同じ言葉が浮かび上がる。
それは、ただ一言で言い表せた。
--『絶望』と。
アキックスはシュタインベルガーの後頭部に鞍を置き、そこに乗っていた。
アキックスが
続いて、ポンポンとシュタインベルガーの鱗を叩く。
それを合図にシュタインベルガーは、高度を下げた。
帝国竜騎兵団もシュタインベルガーに続いて同じ高度まで下がる。
帝国竜騎兵団は、三カ国連合軍の上を超低空で威嚇飛行する。
巨大な
「ウワァアアアーー!!」
たちまち三カ国連合軍に動揺が走る。
帝国竜騎兵団が超低空で威嚇飛行し、メオスの二人の将軍とエルフの王、ドワーフの王の真上を通り抜ける。
ガローニが感想を述べた。
「今度は帝国が軍団単位で攻めて来たというのか」
「大きい!!」
巨大なシュタインベルガーを見たモロトフが目を見開く。
「あ、あれは、
エルフは無限に近い寿命を持ち長い年月を生きており、他の種族では伝説でしかない『神殺しの竜王』に関する知識も持っていた。
ベルナールの言葉を聞いたナブが繰り返して呟いた。
「『神殺しの竜王』・・・」
正しくは、バレンシュテット帝国がシュタインベルガーを従えている訳ではない。
七百年前に帝国に仕えるアキックスの伯爵家の先祖がシュタインベルガーに掛けられていた「呪いの封印」を解いた。
以来、シュタインベルガーは『対等な盟友』として、代々の伯爵家当主に、自らに鞍を置き、乗せることを赦し、その力を貸しているに過ぎない。
シュタインベルガーと帝国竜騎兵団は、三カ国連合軍の上を旋回する。
シュタインベルガーは、その巨体を前線に下ろすと、三カ国連合軍を威嚇するように咆哮を上げた。
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咆哮を聞いた兵士たちは、たちまち恐慌状態に陥る。
「此処より先に立ち入る事は許さぬ!!
シュタインベルガーは、そう叫ぶと連合軍の前線を睨みつけた。
ベルナールは、
「お、『斧と弓の盟約』は果たした。メオス領内のゴロツキ共は退治した。もう十分だろう? 我々は、あんなモノと戦うつもりは無い。勝ち目など全く無い。悪いが撤退させてもらうぞ」
そう言うとベルナールは自軍を目指して、その場からトナカイに乗って逃げ出した。
モロトフが戦槌を地面に降ろし、残った二人の将軍に話し掛ける。
「で・・・どうするのだ? ワシもベルナールと同意見だ。勝ち目など全く無い。メオスは、あの竜王と戦うつもりか? 」
ガローニが苦しげにモロトフに答える。
「対策を協議する」
「判った。手遅れにならないと良いが。『斧と弓の盟約』は果たした。では失礼する」
そう言うとモロトフも猪豚に乗り、自軍を目指して去っていった。