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第六十四話 出撃、帝国竜騎兵団

 ヒマジンは、アキックスとラインハルト達を飛行空母の中に招き、案内を始めた。

 飛行甲板、格納庫など、艦内の各所を巡る。

 艦橋に入ったところで、ラインハルトはヒマジンから艦長を紹介される。

「こちらが艦長のアルケット中尉だ」

 アルケットは少し高揚してラインハルトに敬礼して答える。

「本艦を預かるアルケットです。緋色の肩章のラインハルト大佐と御一緒出来るとは!よろしくお願いいたします」

 ラインハルトも敬礼し、握手して答える。

「こちらこそ、よろしく」

 アルケットは、ラインハルト達と同年代の好青年であった。

 ラインハルトは、傍らにいるナナイをアルケットに紹介する。

「こちらは副官のナナイ大尉」

「ナナイ・ルードシュタットです。よろしく」

「こちらは、あのルードシュタット侯爵の御令嬢ですか!よろしくお願いいたします」

 ナナイも笑顔で敬礼し、アルケットと握手する。



 互いに紹介が済んだ和やかな雰囲気の中、伝令兵が艦橋に駆け込んでくる。

「緊急伝です。メオス王国軍を中心とした十万の軍勢がヴァンガーハーフェンに迫っております」

「ほう?」

「ヴァンガーハーフェンっていえば、アキックスの北部方面軍と、オレの東部方面軍の隙間だな」

 アキックスとヒマジンは、あまり感心がなさそうであった。

 ヴァンガーハーフェンは、ラインハルト達がメオス軍を圧倒し、『無血開城』させて戦火が及ぶことを未然に防いだ街であった。

 ラインハルトが口を開く。

「アキックス伯爵。それにヒマジン伯爵。私達はヴァンガーハーフェンに『思い入れ』があります。お二方のお力添えで街を救えませんか?」

「あの街を救いたいと言うのか?」

 アキックスからの問いにラインハルトは素直に答える。

「はい」

「判った。北部方面軍から『国土防衛師団』を出す」

「そうだな。東部方面軍からも一個機甲師団出そう。方面軍の隙間を埋めてしまえば良い」

 アキックスとヒマジンは、ラインハルトからの申し出を快諾した。

 ヒマジンが続ける。

「早速、こいつの出番だな。君たちも、この空母で出ると良い」

「判りました」

 ラインハルトの返事を聞いたヒマジンは、アルケットに後を託す。

「アルケット。後は頼むぞ」

「お任せ下さい」

 そう言うと、ヒマジンは自分の飛空艇がある飛行甲板へ向かっていった。

 ナナイは『帝国四魔将』と呼ばれる英雄の二人アキックス、ヒマジンと肩を並べて仕事するラインハルトを眺めて、誇らしく思っていた。

「慌てることはない。昼食を取ってから、出撃するとしよう」

 アキックスに連れられて、ラインハルト達は宿舎にしているアキックスのマナー・ハウスへ帰る。 

 帰り道、飛行甲板から東へ向けて飛び立つヒマジンの飛空艇が見えた。





 ラインハルト達はアキックスとマナー・ハウスのパンケットホールで昼食を取る。

 ラインハルトはアキックスに率直な疑問をぶつける。

「アキックス伯爵。メオス軍はエルフ、ドワーフの軍勢を合わせて十万にもなります。一個師団で大丈夫ですか?」

 ラインハルトの疑問にアキックスは笑顔で答える。

「はっはっは。大丈夫だ。私も帝国竜騎兵団と共に出る」

「「おぉ!!」」

 アキックスの答えに、その場にいる一同が驚く。

 ジカイラが尋ねる。

古代(エンシェント)(ドラゴン)に乗って出撃するって事?」

「そうだ。私がシュタインベルガーと出る。それにメオス軍など、我等がバレンシュテット帝国軍より数段、格下だ。何の心配も無いぞ」

 アキックスは十万のメオス軍など歯牙にも掛けていないようであった。

 昼食を取りながら、アキックスは執事に言伝(ことづ)てする。

「済まないが、シュミット中佐を呼んできてくれ」

「畏まりました」

 程無くシュミット中佐が現れる。

「お呼びでしょうか?」

 シュミット中佐は、ヒマジンと同年代で礼儀正しい穏やかな物腰であったが、歴戦の勇者の雰囲気を纏う精悍な帝国騎士であった。
 
「うむ。ヴァンガーハーフェンを押さえる。我々が先行するが、君と君の国土防衛師団にも行って貰いたい」

「判りました」

 アキックスからの指示に一言答えると、シュミット中佐は踵を帰して部屋から退出する。

 昼食を終えた一同は出撃準備にはいる。

「さて。私はシュタインベルガーのところへ行き、帝国竜騎兵団と共に出る。諸君らは空母で先に出てくれ」

「判りました」

 アキックスの指示にラインハルトが答えると、小隊は飛行場へと向かった。




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 再び小隊は飛行空母に乗り込み、艦橋で出撃準備を行うアルケットに会う。

 アルケットは敬礼でラインハルト達を迎えた。

「大佐達は、寛いでいて下さい」

「判った。発艦(フライト)手順(オペレーション)や艦の指揮は任せる。ヴァンガーハーフェンに向かってくれ」

「ありがとうございます」

「ところで大佐殿。本艦は新造艦なので名前がまだありません。名前はどうしますか?」

「私の座乗艦なら、名前は『ユニコーン・ゼロ』だな」

「了解しました」

 ラインハルトとアルケットのやり取りを聞いていたジカイラが突っ込みを入れる。

「お前も好きだな。その名前」

「まあね」

 そう言うとラインハルトは笑顔でジカイラに答えた。

 小隊のメンバーは士官用のラウンジへ移る。



 
 ラウンジに入ったジカイラが感想を述べる。

「豪華だな。ちょっとしたホテルみたいだ」 

 ハリッシュがジカイラに答える。
 
「大型の航空母艦だけに、空間や積載物資に余裕があるようですね」

 小隊の女の子たちはカウンターにフルーツパフェを頼むと、窓際の席に陣取り食べ始めた。

「お? 今、発進したのか?」

 窓の外の景色が、少しずつ高度を上げていくことをラインハルト達に教える。

「メオスの飛行船より静かですね。気が付きませんでした」

 ハリッシュが言う通り、艦の発進に気付いたのはジカイラだけであった。 

 窓の外には、アキックスの居城の城塞と、その後ろに聳える死火山。近くにあるキズナの街並みが見える。

 死火山から巨大な古代(エンシェント)竜王(ドラゴンロード)シュタインベルガーが飛び上がる様子が見えた。

 シュタインベルガーは、最初、真っ直ぐ直上に飛び上がると向きを変え、ユニコーン・ゼロの方へ飛んで来る。

 シュタインベルガーの飛翔に合わせて、城塞から竜騎士達を乗せた無数の飛竜(ワイバーン)達が舞い上がって来る。

 やがてアキックスが乗るシュタインベルガーを先頭に、飛竜(ワイバーン)達は見事な隊列を組んで、ユニコーン・ゼロに並んだ。

 ケニーがユニコーン・ゼロの隣で、編隊飛行する帝国竜騎兵団を見て呟く。

「・・・凄い」

「そうね」

 ケニーの呟きにヒナが答える。

 ハリッシュも編隊飛行する帝国竜騎兵団に見入っていた。

「壮観ですね」

「滅多に見られないわね」

 クリシュナも感動したようであった。

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