第五十八話 老兵見参
飛行船ユニコーン・ゼロとメオス軍飛行船の雲上の砲撃戦は続いていた。
飛行船が大きく振動する。
船頂で観測しているナナイから報告が入る。
「船尾に命中弾!!」
「ダメージ・コントロール!!」
ラインハルトが指示を出すと、機関室のセイゴ軍曹から伝声管に報告が入る。
「こちら機関室! 機関室の窓から被弾箇所が見えます! 方向蛇の一枚に一発、食らったようです!!」
カマッチが笑いながら話す。
「方向蛇は四枚ある。一枚くらい、穴が開いても大丈夫だ!」
ジカイラが苦笑いする。
「動くことは動くがな。無制限に穴が開いて、良いものじゃない」
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ケニーが発射した大砲の弾が、メオス軍の飛行船の艦橋に命中する。
メオス軍飛行船は、被弾した艦橋が爆発し、炎を噴き上げながら黒煙を吐く。
「よっしゃあ!!」
「やったぁ~!!」
ケニーとヒナは砲座で手を取り合って喜ぶ。
ナナイから伝声管に報告が入る。
「メオス軍飛行船に命中弾! 被弾船は、中破して黒煙を上げながら、高度を下げていくわ!」
ユニコーン・ゼロのフライトデッキに歓声が上がる。
被弾したメオス軍の飛行船は、徐々に高度を下げ、雲海の中に消えた。
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再びユニコーン・ゼロの船体が大きく振動した。
「ダメージ・コントロール!!」
ラインハルトが指示を出すと、セイゴから伝声管に報告が入る。
「こちら機関室! 機関室に被弾!! 自分も負傷しました!!」
再びラインハルトが指示を出す。
「ティナ、ヒナ、カマッチ! 至急、機関室へ行ってくれ!!」
「「了解!!」」
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ラインハルトの指示を受けて、フライトデッキからティナとカマッチが、砲座からヒナが機関室へ向かう。
ティナとカマッチが機関室に着くと、セイゴ軍曹が右肩と右太腿から出血しながら、伝声管の下にうずくまっていた。
駆けつけたカマッチとティナを見て、セイゴが呟く。
「すみません。やられました」
ヒナも砲座から機関室に駆けつけた。
ティナがセイゴの怪我の具合を見る。
砲丸が隔壁を貫通した際の破片で、切ったようだった。
「大丈夫。命に別条はないわ。任せて!!」
ティナがセイゴに
「それより、エンジンの冷却装置を・・・冷やさないと・・・」
破損したパイプから蒸気が漏れていた。
「これ、冷やせばいいの?」
ヒナがセイゴに尋ねる。
「そうです」
「任せて!」
ヒナが蒸気の漏れているパイプに手をかざして魔法を唱える。
「
ヒナの掌に魔法陣が現れ、空気中から冷気が集まりパイプを冷却していく。
パイプが瞬時に凍りつき、蒸気の漏れが止まる。
凍ったパイプを指で突っついてカマッチが呟く。
「・・・お嬢ちゃん、便利だな」
そう言いながら、カマッチが大元のバルブを締める。
ヒナはカマッチとセイゴに右手の親指を立てて笑顔を見せた。
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ユニコーン・ゼロのフライトデッキでクリシュナが測量を読み上げる。
「帝国北部方面軍の支配域まで、あと100キロ!!」
ハリッシュが助言する。
「行程の半分以上進みました。進路はもう少し、西に向けたようが良いですね」
「そうしよう。取舵一杯!!」
進言を受けて、ラインハルトが指示を出す。
「了解! 取舵一杯!!」
ジカイラが方向蛇を操作する。
飛行船ユニコーン・ゼロの船首が左へ三十度、西に向き始める。
「高度2000! 進路、西北西!」
ハリッシュが航路を報告する。
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飛行船ユニコーン・ゼロとメオス軍飛行船の雲上の砲撃戦は続いていた。
船頂で観測するナナイに、ユニコーン・ゼロに合わせて進路を西に向けて回頭し、尚も追ってくるメオス軍の飛行船が見える。
「振り切れない! もう少しなのに! まだ追ってくる!!」
そう言って、ナナイはユニコーン・ゼロの進行方向を見た。
ナナイは、進行方向、西の方角の雲の隙間に『光る点』を見つけた。
(光ってる!?)
『光る点』は、高速で雲の隙間を移動していた。
(あの速度! バレンシュテットの飛空艇か!!)
ナナイは観測所の備品箱を開け、発煙弾を探す。
(紫の信号弾!・・・救難信号を!)
「あった!!」
ナナイは見つけた紫の発煙弾を発射装置に入れる。
発射装置は軽い発射音とともに発煙弾を打ち上げた。
発煙弾は、紫色の煙を噴きながら大きな弧を描いて、虚空を飛んで行く。
(気付いて!!)
ナナイは、二発目の紫の信号弾を握り締め、ユニコーン・ゼロ進行方向を、西の方角を見て『光る点』からの反応を伺う。
遠くの光る点から『緑の発煙弾』が打ち上げられた。
「答えた! こっちへ来る!!」
ナナイは伝声管に報告を入れる。
「友軍だ!! バレンシュテットの飛空艇が来るぞ!!」
ナナイからの報告を受けて、船内の各所、フライトデッキや機関室などから歓声が挙がるのが、伝声管からナナイに伝わる。
ナナイが観測所で見つめる『光る点』は、高速で飛行船ユニコーン・ゼロに向かって来ていた。
次第に形が鮮明になってくる。
(銀色と黒の飛空艇!! ・・・見覚えのある、あの
ユニコーン・ゼロと高速ですれ違う飛空艇に向けて、ナナイは笑顔で叫ぶ。
「パーシヴァル!!」
「お嬢さまーー!!」
飛空艇からナナイに手を振る老執事の叫ぶ声が聞こえる。
『光る点』は、実家ルードシュタットの紋章を掲げて、ナナイの救助に来た老執事パーシヴァルの飛空艇『
全弾命中!!
四発の炸裂弾は、メオス軍飛行船の船体に四つの穴を開けた後、船内で炸裂。
メオス軍飛行船は大爆発を起こし、船体が中央で半分に折れ、黒煙を上げながら雲海へ墜落していった。
「ひゃっほーい!!」
船頂の観測所のナナイとフライトデッキの小隊メンバーに
フライトデッキの前をアプローチする
「まさか!? ナナイの実家の執事の爺さんか!? あの爺さん、飛空艇のパイロットだったのか!!」