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第五十七話 雲上の戦闘

 ラインハルトがカマッチ少尉に尋ねる。

「メオスの軍船に追い付かれないか?」

 カマッチが笑顔で答えた。

「少佐殿、大丈夫ですよ!エンジンはヴァレンシュタット製ですし、二軸四連プロペラの推力は、飛空艇でもない限り、追い付かれる心配はありません!!」

「なら、良いが」

 ハリッシュが高度と進路を読み上げる。

「現在、高度五百メートル。進路、北北西」

 ラインハルトが指示する。

「雲の上まで出よう」

 ラインハルト達が乗る飛行船ユニコーン・ゼロは、そのまま高度を上げ、雲の中に入った。






--雲を抜けた。

 眩しい陽射しがフライトデッキに差し込んでくる。

 フライトデッキからは、晴れ渡る青空と眼下に白い畝雲(うねぐも)が広がっている光景が見えた。

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 ハリッシュが高度と進路を読み上げる。

「高度二千、進路変わらず」

 ジカイラが操舵を行う。

「目標高度到達、水平飛行に移る!」

 飛行船の船体はゆっくりと水平になっていった。

 船頂で観測しているナナイから伝声管に報告が入る。

「メオス軍の飛行船二隻が追ってくる! 本船の後方、距離およそ2000!!」

 何回か、砲声が聞こえた。

 再びナナイから報告が入る。

「メオス軍の飛行船が発砲!!」

 ラインハルトが苦笑いしながら呟く。

「メオス軍の大砲だと、有効射程ギリギリだというのに、発砲してきたな」

 ハリッシュが進言する。

「我々も反撃しましょう」

 ラインハルトが攻撃指示を出した。

「ケニー、ヒナ。我々も反撃する。撃ち返せ!!」 

「了解!!」

 ケニーからの返事が伝声管から聞こえた。





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 ケニーは飛行船の後部にある船尾砲の砲座のハッチをハンドルを回して開く。

 冷たい外気が入ってきて、思わずケニーは身震いする。

「さ、寒い・・・」

 高度2000では、地上より12℃ほど気温が下がるためであった。

 開いたハッチから雲海の中を追って来る、二隻のメオス軍飛行船が見えた。

 ケニーは、大砲を見るなり、ギョッとした表情になる。

「どうしたの? ケニーたん??」

 ヒナが心配して声を掛ける。

「これって、300年前の大砲じゃないか??」

「そんなに旧式なの!?」

「カルバリン砲っていうんだよ」

 ケニーが驚くのも、無理はない。メオス王国の技術水準は、バレンシュテット帝国より大きく遅れていた。

 というより、アスカニア大陸を含む世界が『中世』の文明水準であるのに、バレンシュテット帝国だけが『前近世』の文明水準であるためであったと言うべきだろう。

「ヒナちゃん、僕が薬包と弾を込めるから、そこの『耳かきのデカイ奴』でシュポシュポと押し込んで!」 

「判ったわ!」

 床にロープで固定されている砲弾の木箱を開けたケニーが、中身を見て再び驚く。

「『砲弾』じゃなくて、『砲丸』なのか!?」

 木箱の中には丸い『砲丸』が詰まっていた。

 ケニーとヒナは、二人一組で大砲に薬包と砲丸を装填する。

「良い? 撃つよ!」

「うん!」

 ケニーは発射装置の紐を引き、大砲を発射した。 

 轟音が轟く。

 発射された砲丸は、弧を描いて後方の飛行船に当たる。

 砲丸は、メオス軍の飛行船のガス嚢に穴を開けた。

 しかし、メオス軍の飛行船は、そのまま飛び続ける。

「流石に一箇所穴を開けただけじゃ、落ちないな・・・」 

 ケニーとヒナは、再び大砲に装填をし始めた。

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