第五十三話 プライド
「ちょっと、お話したいのだけど、良いかしら?」
昼食が終わり小休止している時に、ナナイがマリー・ローズに話し掛けた。
「私も貴女に話があったのよ」
そう言って、二人は連れ立って、小隊が昼食をとった場所から離れていった。
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ジカイラがケニーに囁く。
「始まったな」
「・・・みたいだね」
「よし。ケニー、ちょっと顔を貸せ」
「えっ!?」
ジカイラがケニーの首に腕を回す。
「お前、『潜伏スキル』があるだろ? こっそり様子を見に行こうぜ」
「判ったよ」
食事の片付けをする他の小隊メンバーを置いて、ジカイラとケニーはコッソリ、ナナイとマリー・ローズの後を尾行した。
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小隊の食事場所から少し離れたところにある、開けた空き地でナナイとマリー・ローズが対峙する。
ナナイは腕を組んでマリー・ローズを詰問する。
「貴女、何者なの? 隊長に色目を使うって、どういうつもり?」
マリー・ローズはニヤッと笑ってナナイに答える。
「私は、アスカニア
マリー・ローズの答えにナナイは驚く。
「
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少し離れた藪の中から、ジカイラとケニーが二人の様子を窺う。
ケニーには『潜伏スキル』があるので、ナナイとマリー・ローズから気取られる心配は無い。
ジカイラが望遠鏡で観察して、ケニーに話しかける。
「あの二人、穏やかに『話し合い』っていう雰囲気じゃない。どちらかといえば一触即発の『果し合い』って感じだったな」
「うん」
「何を言っているかまでは判らないが、口論しているみたいだな」
「そうなんだ」
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ナナイがマリー・ローズに詰問を続ける。
「それで?
「隊長さんから道案内を頼まれただけよ」
「そう」
マリー・ローズの答えにナナイは一言だけ返した。
「私も貴女にお話があるのだけど」
「何?」
「貴女が隊長さんの・・・あの人の『本命の彼女』でしょ?」
マリー・ローズからの問いにナナイは睨みつけて返答する。
「だとしたら、何か?」
「貴女の彼氏の隊長さん、あの人を私に譲ってくれる?」
マリー・ローズは仁王立ちして不敵な笑みを浮かべる。
「は!? 言ってる意味が判らないわ。モノじゃあるまいし。譲れる訳、無いでしょ」
露骨に「自分にラインハルトをくれ」というマリー・ローズに対して、ナナイの顔に敵意と怒りが現れる。
「大丈夫。私が責任を持って、あの人を養うから。良いでしょ?」
「自分の
「いい加減にして! 良い訳無いでしょ!! 本気で怒るわよ!!」
怒るナナイに対して、マリー・ローズは口元に手を当ててクスリと笑う。
「
「フザけるなぁ!!」
侮辱され怒り心頭のナナイは、レイピアを抜いてマリー・ローズに対して構えた。
「いいわ。その勝負、受けて立つわ。腕ずくというのも嫌いじゃない」
マリー・ローズは両手で二本のエストックを抜いて構えた。
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薮の中から覗いているジカイラがケニーに話し掛ける。
「・・・おい。なんか、ヤバそうだぞ? 二人とも抜剣して構えてるぞ??」
「ええっ!? まさか果し合いじゃ・・・?」
「そうみたいだな」
「大丈夫?」
「ヤバくなったら止めに入ろう」
「うん」
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「遠慮なく行くわよ?」
そう言うとマリー・ローズはナナイに斬り掛かった。
右のエストックで斬り、払い、左のエストックで突く。
ナナイは、斬り、払いはレイピアで受け流し、突きは避けた。
ナナイも反撃し、レイピアで四回連続で斬りつける。
マリー・ローズは器用に二本のエストックでナナイの斬撃を受け止めた。
マリー・ローズのエストックはショートタイプであり、ナナイのレイピアのほうが長く、攻撃するリーチが広く取れた。また、エストックよりレイピアのほうが幅広であり、一撃に重さがあった。
ナナイの連続攻撃でジリジリとマリー・ローズは後退る。
しかし、マリー・ローズは二刀の利点を生かして反撃する。
二刀で受け止め、右のエストックでレイピアを受け止めたまま、左のエストックで払う。
ナナイは後ろへ飛び退いて、払いを避ける。
「貴族にしては、なかなかやるじゃない?」
マリー・ローズは余裕の笑みを見せながら、ナナイに話し掛ける。
「貴女もね!」
そう答えるとナナイは再びレイピアを構えた。
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薮の中から望遠鏡で覗いているジカイラがケニーに話し掛ける。
「二人ともスゲぇな」
「ジカさん、どうなってるの?」
「いやぁ、二人とも、お●ぱい、プルンプルンって」
「どこ見てるの!? ジカさん」
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ナナイが連続で斬り掛かる。
ナナイの連続攻撃でジリジリとマリー・ローズは後退る。
ナナイは、上段の斬撃にフェイントを混ぜる。
マリー・ローズはフェイントを顔への攻撃と見て、エストックで受けの構えを取った。
(掛かった! 本命はこっち!!)
ナナイは足を狙った下段への突きを放つ。
マリー・ローズは、ナナイの下段の突きを大きく身を翻して避けると、ナナイの頭部を狙った回し蹴りを放った。
ドレスの裾が捲れ、秘所が露になるが、マリー・ローズは気にも止めない。
ナナイも下段への突きを止め、回し蹴りでマリー・ローズの回し蹴りを受け止めた。
二人は後ろへ飛び退き、間合いを取る。
二本のエストックを構えて、マリー・ローズがナナイに話し掛ける。
「強いわね。貴女。こういうのはどう? 私があの人の子を孕んだら、あの人を貴女の元に返してあげる。半年づつ交代というのは?」
レイピアを正眼に構えて、ナナイがキッパリと答える。
「お断りするわ」
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薮の中から望遠鏡で覗いているジカイラがケニーに話し掛ける。
「いや、凄いわ。ケニー」
「ジカさん、どうなってるの?」
「あのお姉さん、パンツ履いてない。モロに見える」
「もぅ・・・どこ見てるの!? 」
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「じゃあ、そろそろ決めさせてもらうわ。
マリー・ローズの二本のエストックの刺突が、八本の刺突に見える。
ナナイは、八本に見えるエストックの刺突に対して、間合いを詰めるように踏み込む。
エストックの剣先が届く目前の位置でレイピアを地面に突き立てると、それを起点に飛び跳ね、ナナイの体はマリー・ローズの頭上を飛び越えた。
「なっ!?」
驚愕して振り返るマリー・ローズの背後にナナイは着地する。
至近距離で二人は切り結ぶ。
激しい金属音を立てて切り結んだレイピアとエストックが鈍い金属音を立てる。
マリー・ローズがナナイに話し掛ける。
「つまらない貴族女なら殺そうと思ったけど、アレを避けるなんて、やるじゃない。貴女で二人目よ」
「お褒め頂き光栄だわ」
「今日のところは『引き分け』って事にしておいてあげる。あの人も貴女に預けておくわ」
「あらそう? 何度でも受けて立つわよ」
そこまで話すと、二人は後ろへ飛び退き、お互いに剣を鞘に収めた。
そして、二人は何事も無かったかのように小隊の食事休憩場所へ歩いて向かった。