第五十二話 冷戦
翌朝。
ラインハルトは、小隊のメンバーにマリー・ローズを紹介した。
ただし、彼女がアスカニア
『裏社会の稼業』だからである。
「皆、既に知っていると思うが、改めて紹介する。此処の女主人マリー・ローズだ。彼女が飛行船のある所まで案内してくれるそうだ」
「よろしくね」
お色気満点で微笑むマリー・ローズに対して、ジカイラやケニーはニヤけていたが、ナナイは苛立っていた。
ラインハルトが自分に相談も無くマリー・ローズに道案内を頼んだこと。マリー・ローズがラインハルトに色目を使うことなど、マリー・ローズの振舞いはナナイの神経を逆撫でしていた。
マリー・ローズが小隊のメンバーに大まかな行程を話す。
「此処から街道沿いに二日ほど行ったところに飛行船が停泊する街があるわ。メオス軍もいるから気をつけてね」
小隊は荷造りをして宿屋を後にし、街道を西へ向かった。
『異様な雰囲気である』ことは、ユニコーン小隊の誰もが気づいた。
道中、常にラインハルトを挟んで、左にナナイ、右にマリー・ローズが居る。
幌馬車で移動している時も、今現在の昼食の時もである。
昼食を取りながらジカイラがケニーにこっそり話し掛ける。
「なぁ、ケニー。気づいてるか?」
「・・・うん」
「アレはラインハルトを巡って『冷戦』という感じだな」
ジカイラがケニーに鼻先でラインハルトの方を指した。
「女の人って怖いね」
「一つ判るのは、ナナイも、マリー・ローズも、どちらもプライドが高く、自分に自信満々で、気が強いってことだ」
「うん」
ジカイラが膝の上に肘を付き、掌の上に顎を乗せ考える姿勢をする。
「夜はどうするつもりなんだろ?」
ケニーが怪訝な顔をする。
「夜って?」
「ホラ・・・今まで、夜、寝る時は、同じ幌馬車でラインハルトとナナイで一緒に寝ているだろ? 腕枕していたり、抱き合って寝ていたり、していた訳だ」
「うん」
「今日から三人で寝るのか?」
「・・・それって、ヤバいんじゃない?」
「・・・絶対、ヤバいよな?」
「うん」
「ナナイの性格からして、譲る気なんて無いだろうし」
「僕もそう思う」
ジカイラとケニーが引きつった苦笑いを浮かべる。
「・・・凄い事になりそうだ」
「・・・怖い」