第五十一話 鮮血の薔薇
どこからともなく現れた下男達が女主人の指示でメオス軍兵士の死体を宿屋から運び出していく。
ケニーが宿屋周辺の探索から戻った。
「周辺を探ってきたけど、メオス軍はいないね」
「ご苦労さま。休んでくれ」
ラインハルトはケニーを労い、ケニーは自分の部屋に戻っていった。
食事と入浴を終えた小隊メンバーは、それぞれ部屋で眠りに入る。
ラインハルトは入浴を終えた後、軍服を着て帯剣し、一人で一階のホールへ降りた。
宿屋の女主人に「後で二人で話がしたい」と言われたためであった。
女主人がカウンターから階段前のホールに立つラインハルトの元へ来た。
ラインハルトが話し掛ける。
「・・・それで、話しとは?」
「隊長さん。貴方、強いわね。お名前を教えてくださる?」
女主人の問い掛けにラインハルトは正直に答える。
「バレンシュテット軍少佐 ラインハルト・ヘーゲル」
「バレンシュテット帝国軍の筆頭である
ラインハルトは、徴兵で革命軍の士官学校に入学し
女主人はラインハルトに興味津々であった。
「メオス軍の飛行船を探していると聞いたけど、何処にメオス軍の飛行船があるのか、教えてあげてもいいわよ?」
「それは助かる」
「ただし、条件があるの」
「条件とは?」
「・・・私と勝負してくれる? 私に勝てたら教えてあげるわ」
「良いだろう」
そう言うと、ラインハルトは女主人の前に立った。
女主人は、腰から二本のエストックを抜いて構える。
「貴女、只の宿屋の主人じゃないね」
「御明察。私は、アスカニア
「済まないが、どちらも知らない」
「いくわよ」
一呼吸置くとマリー・ローズは、ラインハルトに斬り掛かった。
右手のエストックで斬りつけ、左手のエストックで突く。
ラインハルトは身を反らして、どちらの攻撃も避ける。
(避けた! 相手は近接戦最強の
マリー・ローズは、右で斬り、払い、左で突く。しかし、ラインハルトはこれも避ける。
エストックはレイピアより細身の刺突剣であり、より軽量である。
一撃の剣撃は、通常の
刺突に特化した剣であり、刺突することで致命傷を負わせる事が出来た。
マリー・ローズは、二本のエストックでの斬撃だけでなく、蹴りも組み合わせる。
左右両方のエストックで斬撃を放つと、そのまま回し蹴りを放った。
ラインハルトはこの攻撃も避ける。
マリー・ローズは、エストックを腰にしまいつつ、五回連続で回し蹴りを放つ。
東洋系の武術の『
下着を着けていないマリー・ローズの秘所が露になるが、本人は気にも止めない。
ラインハルトが旋風脚を避けた後、マリー・ローズに話し掛ける。
「女性は慎みを持つべきだと思うのだが」
「貴方が勝ったら、私を好きにして良いわよ!」
そう言うと、マリー・ローズは、素早くドレスの裾を捲り、四本の投げナイフを太腿の鞘から抜き、左右の手で二本ずつ投げる。
ラインハルトはこの投擲も避ける。
(くっ!! 四本の投擲も全て避けた!!)
「ならば、奥の手よ!」
マリー・ローズは、ラインハルトとの間合いを詰めるように踏み込むと、再び素早く両手で二本のエストックを抜く。
「
マリー・ローズの左右両手、二本のエストックによる刺突が、八本のエストックによる刺突に見える。
ラインハルトはこの八本のエストックによる刺突も全て避ける。
そして、マリー・ローズとの間合いを詰めるように踏み込むと、素早く剣を抜いた。
「うっ!? あぁ・・・」
その言葉を発する以外、
マリーローズは、刺突のため両腕を正面に伸ばした体勢であったが、ラインハルトは、ちょうどマリー・ローズの左右両手首の間の位置に、半身になって踏み込み、マリー・ローズからは攻撃できない位置を取っていた。
そして、抜剣したラインハルトのサーベルの刃は、マリー・ローズの首元で寸止めされていた。
「私の負けね」
そう言うとマリー・ローズはあっさりと敗北を認め、二本のエストックを腰に仕舞った。
マリー・ローズは、ラインハルトの方を向いて、宿屋の酒場兼食堂の椅子に座り、ラインハルトに話し掛ける。
「約束通り、メオス軍の飛行船があるところまで、案内してあげる」
「ありがとう」
鞘にサーベルを仕舞うラインハルトの返事を聞き、マリー・ローズはウットリとした表情でラインハルトを見つめる。
「・・・貴方、本当に強いわね。アスカニアに私に勝てる男がいるなんて」
マリー・ローズは
「貴方が勝ったのだから、私を好きにしていいのよ?」
そう言うと、マリー・ローズは靴を脱いで股が開くように両方の踵を椅子の座板の上に置いた。
マリー・ローズの女性器が露になる。
それは女の体液で光を反射してテラテラとしてパックリ開き、ラインハルトを誘っていた。
ラインハルトは思わず女性器から目を背ける。
それを見たマリー・ローズが、口元に手を当てて微笑む。
「あら? それだけ美形なのにひょっとして貴方、
そして、左手の中指と薬指の二本を男性器に見立てて立てると、一度、指の根元から指先までをゆっくりと口で咥え、舌先で舐めあげて見せた。
「・・・大丈夫。初めてでも、早くても、笑ったりしないわ。私に勝てる男なんですもの。・・・貴方と私の子は、間違いなくアスカニア大陸最強の剣士になるわ」
マリー・ローズが続ける。
「・・・女はね、子宮からの衝動が語るの。『この男の種が欲しい』って」
ラインハルトはマリー・ローズの誘いには乗らなかった。
「女性に恥を掛せるようで申し訳ないが、既に心に決めた
ラインハルトの答えを聞いたマリー・ローズは寂しげに微笑むと、両足を閉じて踵を座板から下ろし、ドレスの裾を直して椅子の下にある靴を履いた。
「・・・貴方の『本命の彼女』は、あの騎士の女の子ね?」
マリー・ローズからの問いにラインハルトは正直に答えた。
「そのとおりだ」
ラインハルトの答えを聞いたマリー・ローズは、足を組み、膝の上に肘をつき、掌の上に顎を置いて考える姿勢を取る。
「ふぅ~ん、なるほどね」
マリー・ローズは、感心したような言葉とは裏腹に、想うところがあった。
(うふふ。誘いに乗らず、彼女に一途なんて・・・。美形で強いだけじゃなく、本当にいい男ね。私は諦めないわよ!)