第五十話 宿屋での戦闘
宿屋の確認に出た三人の兵士が戻らないため、メオス軍部隊十人が宿屋に来た。
宿屋一階のホールにある階段の登り口にジカイラが仁王立ちする。
ラインハルト、ナナイ、ケニーは、宿屋一階の食堂兼酒場の物陰に、ハリッシュ、クリシュナ、ヒナ、ティナは二階の廊下に潜む。
メオス軍兵士が宿屋の女主人に話し掛ける。
「部隊の兵士が来ただろう? どこに行った?」
「知らないわ」
凄む兵士に女主人はトボける。
「隠すとためにならんぞ!」
他のメオス軍兵士がジカイラに話しかけた。
「なんだ? 貴様は?」
「此処の客さ」
「二階を調べる。そこをどけ!!」
ジカイラは悪びれた素振りも見せず、メオス軍兵士にふてぶてしく答える。
「嫌だね」
二階の廊下には、先ほど宿屋に来たメオス軍兵士三名の死体があった。
メオス軍兵士はジカイラに詰め寄った。
「貴様! どういうつもりだ?」
ジカイラは素早く
「こういうつもりさ!」
ジカイラの攻撃を合図に、小隊は一斉に攻撃を開始した。
ラインハルトが物陰から出て、メオス軍兵士を袈裟切りに斬り捨てた。
ナナイもラインハルトに続いてメオス軍兵士をレイピアで仕留める。
ラインハルトとナナイを見たメオス軍兵士が叫ぶ。
「騎士だ!! バレンシュテット軍の騎士がいるぞ!!」
「まさか!? 帝国軍か??」
ジカイラは階段の手摺に両手を置いて兵士を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた兵士は、宿屋一階の食堂兼酒場のテーブルと席を薙ぎ倒した。
ケニーは姿勢を低くして走り、音も無くメオス軍部隊の背後に回ると、両手で愛用のショート・ソード『ケニー・スペシャル』の二本を抜き、兵士を背中から突き刺した。
階段の上からヒナが魔法を唱える。
「
メオス軍兵士に向けてかざしたヒナの掌の先に魔法陣が現れる。
魔法陣の前に大気中から氷の槍が作られた。その氷槍は目標へ飛んで行き、メオス軍兵士を貫いた。
ヒナの隣でクリシュナもメオス軍兵士に向けて手をかざして魔法を唱える。
「
クリシュナの掌の前に魔法陣が現れ、大気中から光の矢が三本作られた。
その三本の光の矢は目標へ飛んでいき、メオス軍兵士の胸を貫いた。
ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる動作をした後、クリシュナに向けて呟く。
「私の魔法は威力がありすぎて、建物まで壊してしまいますからね」
「いいのよ、ハリッシュは。待機していて」
メオス軍兵士は手斧を構えて、ラインハルトに斬り掛かる。
ラインハルトは、サーベルで手斧の攻撃を受け流すと、返す刀でメオス軍兵士の顔を貫いた。
ナナイがメオス軍兵士に斬り掛かる。
メオス軍兵士は
「た、隊長! バディ隊長!! 彼奴ら強過ぎます!!」
「クソッ! ヴァンガーハーフェンを落としたという、あの帝国軍か!!」
ナナイのレイピアが
「ぐあぁあああ」
足を刺された兵士は、叫びながら跪いて体勢を崩した。
体勢を崩した兵士の胸をナナイのレイピアが貫く。
ジカイラに蹴り飛ばされ、床に転がっていた兵士が起き上がる。
「こんなところに帝国軍がいるとは・・・」
「
宿屋の女主人が、起き上がった兵士の頭を酒瓶で殴りつけた。
乾いた音を立てて酒瓶が割れる。
「女! 貴様!!」
酒瓶で殴られた兵士は、左手で殴られた自分の頭を押さえ、右手で手斧を構えて女主人を睨み付ける。
女主人は素早く両手で腰から二本のエストックを抜くと、メオス軍兵士の首を刺した。
「私を怒らせると怖いわよ?」
首を刺されたメオス軍兵士は床に崩れ落ちた。
メオス軍の部隊は、
「勝負だ! 」
バディはラインハルトに対峙して構えた。
ラインハルトはサーベルを正眼に構え、正面からバディを見据える。
バディは手斧を大きく振りかぶってラインハルトに斬り掛かった。
ラインハルトは左へ大きく動いて手斧の一撃を避けると、走り寄るバディに足を引っ掛けた。
バディは床に転ぶ。
バディは床からラインハルトを見上げ叫ぶ。
「キサゔぁ!」
叫ぶバディの口をラインハルトのサーベルが貫いた。
バディはそのまま床に倒れ、絶命した。
バディの兜が床に転がる。
転がったバディの兜をジカイラが拾い上げる。
「メオス軍の木こりのおっさん達は、鳥の羽で兜を飾るのが趣味なのかねぇ」
ラインハルトがサーベルの血を払って腰の鞘にしまい、苦笑いしながらジカイラに答える。
「それは彼等に聞いてみないと判らないな」
「まぁ、いいや。 記念に貰っておこう」
そう言うとジカイラは兜を持って、屋外の幌馬車へ向かった。
ラインハルトはケニーに指示を出す。
「ケニー。すまないが、もう敵は居ないだろうけど、念の為、周辺を探ってきてくれ」
「了解!!」
ケニーは外に出ると、宿屋周辺の探索に向かった。
女主人は血の滴るエストックを布で拭いながら、ウットリとした目をしてラインハルトに歩み寄る。
「貴方、恐ろしく強いわ。魔力が付加されたそのサーベルと銀色の騎士鎧。その
女主人の問いにラインハルトは正直に答えた。
「そうだ」
ラインハルトは血を拭ったエストックを腰にしまう女主人を見据える。
「そんなに怖い顔しないでくれる? 今夜は休んでいって。死体はこちらで片付けるわ。後で二人だけで話があるのだけれど」
「判った」
そう女主人に答えると、ラインハルトは小隊のメンバーに指示を出した。
「恐らくもう大丈夫だ。今夜は此処で休んでいこう」
ラインハルトからの指示を受けて、小隊のメンバーは部屋に戻っていった。