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292章 仕事の依頼

 ミサキの家に尋ね人がやってきた。エマエマは姿を悟られないよう、隠れることとなった。

「ミサキさん、こんにちは・・・・・・」

「こんにちは・・・・・・」

「私はこういうものです」

 名刺には「柳俳優団マネージャー 菟田野しぐれ」と記されていた。

「柳俳優団」はエリート俳優軍団で、名前を知らないものはいないといわれている。世界を代表する、俳優軍団といわれている。 

 しぐれの視線は、3人のサインに向けられた。

「ルヒカさん、ズービトル、エマエマさんのサインを飾ってありますね」

「はい。旅館であったときに、サインをもらいました」

「最高に羨ましいです。私も一枚でいいので、サインをもらいたいです」

 ズービトル、ルヒカ、エマエマのサインはプレミア。一般人が入手するのは、ほとんど不可能である。

「しぐれさん、要件は何ですか?」

「ミサキさんに、お仕事の依頼をしたいです」

「どんな仕事をするんですか?」

「ドラマ出演です。プロの俳優、女優と一緒に出演していただきたいです」

 歌手のデュエットの次は、ドラマ出演をするとは。プレッシャーのかかる仕事の連続によって、心労に追いやられそうだ。

「演技力は皆無です。素人出演はまずいのではないでしょうか」

 プロ、素人の演技力は月とすっぽん。すっぽんが出演したら、「柳俳優団」の肩書きに、大きな泥を塗ることになる。 

「ミサキさんのシーンは、元上真理さんと手を握るシーンだけです。すぐに終わると思うので、協力していただけないでしょうか」

 元上真理は22歳の超一流女優。彼女の演技力は、見るものを大いに引き付ける。

「セリフはありますか?」

「セリフはありません。俳優の方と手を握っていただくだけです」

 セリフなしなら、何とかなりそうな気がする。ミサキは仕事に対して、前向きな気持ちになった。

「お仕事の場所はどこになりますか?」

 片道5時間以上かかると、体を維持できなくなる。近場であることは、仕事を引き受ける絶対条件になる。

「お仕事の場所は○○です。片道で2時間くらいです」

 片道2時間、往復4時間。ミサキの体であっても、問題ない距離である。

「仕事はいつですか?」

「10日後を予定しています」

 10日後は休養日である。ミサキにとって、弊害はなかった。

「わかりました。仕事をさせていただきます」

 エマエマは話を聞いていたのか、こちらにやってきてしまった。二人で立てた計画は、水の泡
と化してしまった。

「ミサキさんについていきたいです。演技を目に焼き付けたいです」

 しぐれは思わぬ人物に、目をごしごしとさせていた。

「エマエマさんですか?」

「はい、そうです。タワインの仕事が中止になったので、こちらでお世話になっています。4~
5日くらいは、ここでゆっくりします」

「エマエマさんを目の前で見られて、とっても幸せな気分です」

 しぐれはエマエマに対しても、名刺を渡した。

「エマエマさんにも、出演していただきたいです」

 エマエマは×のマークを作った。

「仕事の順番を守らなくてはなりません。違反してしまったら、すべての契約先の信用を失ってしまいます」

 しぐれはがっくりと肩を落とした。

「そうですか・・・・・・」

 エマエマは大きな欠伸をする。

「働き過ぎたのか、体はとっても疲れています。演技をするのは難しい状態です」

「わかりました。機会があったらお願いします」

 シグレは慌てたように、ミサキの家をあとにする。こちらについても、秒単位のスケジュールを送っているのかなと思った。

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