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第四十三話 ソルダ攻略戦

 翌朝、夜の見張りを終えたジカイラ、ヒナ、ティナ、ケニーは、ラインハルト達四人と交代する。

 ラインハルトがジカイラに尋ねる。

「昨夜はどうだった?」

 ジカイラが答える。

「昨日の夜は動死体(ゾンビ)が出たぞ」

動死体(ゾンビ)?」

「ああ。おそらく革命軍に捕まって奴隷商人に売られたメオスの住民だろう。手枷と鉄鎖を付けたままだった。ティナが解呪(ディスペル)した。」

「起こしてくれれば良かったのに」

動死体(ゾンビ)ごときで、お前やハリッシュの手を借りるまでもないさ」

「そうか」

「徹夜明けだ。昼間は頼む。オレは寝るわ」

「お疲れさま」

 ジカイラはそう言うと幌馬車に入った。

 ティナとヒナもラインハルトの所へ来た。

「おはよう。お兄ちゃん」

「おはようございます」

 ラインハルトは二人を労う。

「お疲れさま。昨夜は大変だったみたいだね」

動死体(ゾンビ)よ! 動死体(ゾンビ)!! 疲れたぁ~。 眠い」

 ティナは、そう言うとヒナを連れて、ジカイラと同じ幌馬車に入る。

 ケニーはハリッシュの方の幌馬車に入って眠りについた。

 ハリッシュとナナイ、ラインハルトは、簡単に打ち合わせを行い、日中の行程について確認する。

 幌馬車を走らせる前にラインハルトは、ジカイラの居る幌馬車の中を覗く。

 幌馬車の荷台の壁を背に座るジカイラの両隣に、ティナとヒナがもたれ掛かり眠っていた。

 ジカイラが中を覗くラインハルトに苦笑いしながら言う。

「起こすなよ。『両手に花』ってやつだ。約得だろ?」

 ラインハルトは何も言わず、微笑んでジカイラに答えた。

 





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 ブレシアの街を出て三日目の昼前。

 先導するラインハルトが遠くの街道の上に黒い煙が立ち上っている事を発見した。

 ラインハルトがナナイに告げる。

「そろそろソルダの街なんだが、黒煙が昇っているな」
 
「戦闘かしら?」

「どうかな? ちょっと私とハリッシュで探ってくる」

 そう言うとラインハルトは幌馬車を街道の脇に止め、ハリッシュの元へ行った。

 ラインハルト、ハリッシュ、クリシュナの三人がナナイの元へ来る。

「私とハリッシュで偵察してくる。ナナイとクリシュナは幌馬車で待っていてくれ」

「判ったわ」

 ハリッシュは魔法を唱える。

飛行(フライ)!」 

 ラインハルトとハリッシュは高い木の上まで浮かび上がった。

 ハリッシュとラインハルトは、高い木の枝の上から望遠鏡でソルダの街の方を見る。

 メオス王国軍と烈兵団がソルダの街の前で戦闘を行っているのが見えた。

 高い木の上から街の方角を観察していたラインハルトとハリッシュは、突然、影に覆われた。

 ラインハルトとハリッシュの上を、巨大な飛行船が通過し、ソルダの街の東へ向けて飛んで行く。二人は飛行船の影に入ったのだった。

 ラインハルトが飛行船を見上げて呟く。

「・・・メオス王国軍の飛行船か!!」

 ラインハルトがソルダの街の東側を望遠鏡で見ると、メオス王国軍の無数の飛行船が泊まっており、大勢の人間が飛行船に乗り込んでいる。

 徒歩と馬車で街道を東へ、大勢の住民が避難している様子が見えた。

 ソルダの街の前の戦闘を望遠鏡で見るハリッシュがラインハルトに問い掛ける。

「・・・ラインハルト。見ていて、何か違和感を感じませんか?」

「ああ。ハリッシュもか。・・・おかしいよな?」

「ええ。個々の戦闘そのものはメオス軍側がやや優位に見えます。メオス軍は何故、住民を街の防衛戦闘に動員せず、東へ逃しているのでしょうか? 彼等は何故、飛行船を戦闘に使わないで、輸送に使っているのでしょうか? 烈兵団に航空戦力は無いのです。ここはメオス王国の本土ですよ? このソルダの街を抜かれたら、次は王都ですよ?? 普通に考えたら『最終防衛線』です。もう後が無いのに何故??」

「・・・何かあるな」

「メオスは何を企んでいるのでしょうね」

「ソルダの街での烈兵団との合流は、もう少し待とう。夕方まで様子を見た方が良さそうだ」

「そうですね」

 ラインハルトとハリッシュは、幌馬車へ戻った。

 ナナイが出迎える。

「お帰りなさい」

「戻ったよ」

「どうだった?」

「何かおかしい。メオスは何か企んでいるようだ」

 ラインハルトとハリッシュは、ナナイとクリシュナに偵察した内容と烈兵団の戦況を伝えた。

 ナナイが意見を述べる。

「確かに変ね。メオス軍が飛行船で烈兵団を爆撃したら、戦況も変わるでしょう? 何故、輸送に使っているのかしら?」

 ラインハルトがナナイに答える。

「夕方、ジカイラ達が起きたら、もう一度、偵察してみる。それまで、ここで休息しよう」

「そうね。烈兵団に義理立てして、無理に市街戦に加わる必要も無いし」

 小隊は馬を休め、休息をとった。

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