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第四十二話 骸

 翌朝、夜の見張りを終えた四人は、眠っていたラインハルト達四人と交代した。

 引き続き、ユニコーン小隊は一路、先行している烈兵団主力を追い掛ける形で、メオス王国の王都エスタブリッシュメントに向かっていた。

 ソンドリオの街を出て三日目の昼前にブレシアの街に到着。

 プレシアの街もソンブリオの街同様に、メオス王国軍との大きな戦闘は行われず、既に烈兵団が占領していた。

 ハリッシュがラインハルトに話しかけた。

「王都までの中間地点まで来ましたね」

「そうだな」

 ラインハルトとハリッシュが補給の事務手続きを行い、ジカイラとケニーが物資を幌馬車に積み込んだ。

 ナナイ、クリシュナ、ティナ、ヒナは、入浴に向かった。

 事務手続きと積み込み作業を終えたラインハルトとハリッシュ、ジカイラとケニーも入浴へ向かった。

 ちょうど入れ違いに小隊のメンバーが顔を合わせた。

 ラインハルトがナナイに尋ねた。

「大丈夫だったか?」

「ええ。ちょっとね」

 詳しく話を聞くと、女四人で宿舎の入浴施設を使おうとした時に、烈兵団兵士二人が「通行料を払え」と絡んできたが、ナナイがボコボコに叩きのめしたらしい。

 話を聞いたジカイラが苦笑いを浮かべる。

「絡む相手が悪かったな」

 プレシアでの補給と休息、食事は滞り無く行われた。

 昼過ぎに、小隊はプレシアを後にする。

 街道を東へ、メオス王国の王都エスタブリッシュメントに向かう。

 陽がある間は幌馬車を進めた。









 時間と共に陽は傾き、夜の帳が下りてくる。

 小隊は、街道から少し入った木立で夜営を行った。

 ラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、クリシュナが幌馬車で休み、ジカイラ、ケニー、ティナ、ヒナが夜の見張りを行う。

 ジカイラが一緒に焚き火を囲んで夜の見張りを行っているケニー、ティナ、ヒナに話しかけた。

「このメンバーでの夜の見張りも慣れてきたな」

「そうね」 

 焚き火を囲んで座るティナが答える。

 ヒナが皆に話す。

「今のところは順調ね」

 ジカイラが答える。

「そうだな」

 見回りに出たケニーが血相を変えて走って来た。

「すごくゆっくりだけど、向こうから何か来る!」

 四人は立ち上がり、武器を持って構える。

「オレとケニーで探ってくる。お前らは火から離れるな」

 ジカイラはヒナとティナにそう言うと、ケニーを連れて近づいてくる物の方へ向かった。

 







 ジカイラとケニーは物陰から様子を窺う。

「アレか」

 鉄鎖を引き摺る音を立てながら、夜営に向かってゆっくりと歩く影。

 動死体(ゾンビ)

 ジカイラがケニーに話し掛ける。

動死体(ゾンビ)だな。一体か?」

 ケニーが答える。
 
「他にも居るね」

 動死体(ゾンビ)は手枷を付け、足には鉄鎖を引き摺っていた。

 ジカイラとケニーは、物陰から動死体(ゾンビ)の正面に出る。

 動死体(ゾンビ)は手枷を付けられた両腕をジカイラに向けて伸ばし、襲い掛かってきた。

 ジカイラは斧槍(ハルバード)を構えると、両手で水平に振るった。

 動死体(ゾンビ)の首が飛ぶ。

 地面に転がった動死体(ゾンビ)の首は、まだ動いていた。

 他の動死体(ゾンビ)がジカイラとケニーに向かって来る。

「ケニー! 一旦、夜営まで下がるぞ!!」 

「了解!!」

 夜営まで下がった二人は、焚き火を囲むティナとヒナに向かって言う。

動死体(ゾンビ)の群れがこっちに来る」

「「ええっ!?」」

 ジカイラがヒナに言う。

「たかが動死体(ゾンビ)だ。寝ている連中を起こすまでもない。ヒナ、魔法で壁が作れるか? 夜営を囲むように」

「できるわ」

 ヒナが魔法の詠唱を始めた。 

 ヒナの足元に一つ、ヒナの頭上に三つの魔法陣が現れる。

Manna,(マナ、) männis(マニス)kans(ハンス・) alla(アラ・) saker(サケ)
(万物の素なるマナよ)

Kom(コミ) igen!(ゲン!) Källan(シャラン・) till(ティル・) Elivagar(エーリーヴォーガル・), bestående(ヴェストーンデ・) av(エウ・) elva(エルヴァ・) floder(フルーデェー)
(来たれ!十一の川からなるエーリヴァーガルの源泉)

Jag(ヤー・) vill(ヴィル・) bo(ボー・) med(メド・) Niigata(ニーガタ・) från(フロン・) Nievlheim(ニーヴルヘイム)
(ニヴルヘイムより常世に現さんと欲す)

Skydda(フィッダ・) dig(ダ・) själv(フェル・) som(ソム・) en(エ・) cirkel!!(シーケル!!)
(円陣となりて我を守護せよ!!)

氷結水晶(クリスタル・)円陣(ラウンド・)防壁(ウォール)!!」

 夜営を囲むように、二メートル程の氷の防壁が空中から作られた。

 ヒナの魔法陣が光の粉になって空気中に消えた。

 その様子を見たジカイラがヒナを褒める。

「上出来だ! ヒナ!!」

 ヒナは親指を立て、片目を瞑ってジカイラに答えた。

 驚いた馬が一度嘶いたが、馬からは氷壁の外が見えないため、それっきりであった。

 ジカイラがティナとケニーに指示を出す。

「ティナ、オレが囮になって動死体(ゾンビ)を一箇所に集める。奴等の解呪(ディスペル)を頼む」

「判ったわ!」

「ケニーは二人の護衛を」

「了解!!」

 ジカイラが氷の壁によじ登る。

 他の三人も、木箱の上に乗って氷の壁の外の様子を伺う。

 動死体(ゾンビ)が氷の壁に近寄ってくる。

 ヒナがジカイラに尋ねる。

「あの動死体(ゾンビ)達、どうして手枷と鎖を付けているのかしら?」

 ジカイラが答える。

「恐らく革命軍に捕まって奴隷商人に売られたメオスの住民ってところだな。奴等、死んでも弔いもせずに、手枷も鎖も付けたまま死体を捨てるから、こうやって化けて出るんだぞ」

 ティナが悲しそうに答える。

「・・・酷い」

 ジカイラに向けて手枷を付けられた両手を伸ばしてくる動死体(ゾンビ)に向かって、氷の壁の上からジカイラが呟く。

「そんな顔で睨むなよ。オレがお前を殺した訳じゃない」

 ケニーが三人に言う。

「たいぶ、こっち側に集まってきたね」

 ジカイラがティナに言う。

「じゃ、行ってくるわ」

「気をつけてね!」

 ティナの答えを聞いたジカイラが氷の壁の下に飛び降りた。









 ジカイラの周囲に動死体(ゾンビ)が集まってくる。

(こいつら、戦闘力は殆ど無いな)

 ジカイラは斧槍(ハルバード)を大きく振りかぶると腰を落として構え、深く息を吸った。力を貯める。

 そして、渾身の一撃を放つ。

((いち)(せん)!!)

 ジカイラの豪腕から放たれた斧槍(ハルバード)の斬撃が、三体の動死体(ゾンビ)を薙ぎ払った。

 三体のうち、二体の動死体(ゾンビ)は胴体が半分に千切れる。

 胴体が半分になっても、まだ動死体(ゾンビ)は動いていた。

 薙ぎ払い、吹き飛ばされた動死体(ゾンビ)が起き上がって、再びジカイラに向かってくる。

 ジカイラは斧槍(ハルバード)を構えると、両手で水平に振るった。

 動死体(ゾンビ)の首が飛ぶ。 

 更に別の二体の動死体(ゾンビ)がゆっくりとジカイラに向かってくる。

 ジカイラが近づいてくる動死体(ゾンビ)斧槍(ハルバード)を構える。

(トロいから一体、一体なら何てことはない。だが、群れるとウザいな) 

 ティナが祈りを始める。

 巨大な法印がジカイラの周囲の地面に現れる。

Laudatus(ラウダートス・) sis,(シス、) mi(ミ・) Domine,(ドミーネ) propter(プロープタ・) illos,(イロス、) qui(クゥイ・) dimittunt(ディミトゥント・) propter(プロープタ・) Tuum(トゥーム・) amorem(アモーレム),」
(私の主よ、あなたの愛のゆえに赦し合う者)

Beati(ベア・) illi,(イーリィ、) qui ea(クイ・イア・) susti(システィ)nebunt(ネブント・) in pace,(イン・パーチェ、)
(安らぎのうちに耐える人は幸いです)

quia a Te,(クイ・ア・テ、) altissime,(アルテシメ、) corona(コロナ)buntur.(ブゥントゥル)
(その人々が、至高のあなたから栄冠を賜りますように)

quam(クゥア・) nullus(ヌルルス・) homo(オーモ・) vivens(ヴィーヴェンス・) potest(ポーテスト・) evadere.(エヴァードレ)
(この世に生を受けたものは、これから逃れることはできません)

上位解呪(ハイネス・ディスペル)!!」

 ティナの祈りによって、動死体(ゾンビ)達は消滅していった。

 ヒナが魔法の効果を解除したので、夜営を囲む氷の防壁も消えた。

 ジカイラの元にヒナ、ティナ、ケニーの三人が集まる。

 ヒナがジカイラを労う。

「お疲れさま」

 ジカイラが笑顔で答える。

「おう」




 ジカイラの周囲の足元には、動死体(ゾンビ)達が残した手枷と鉄鎖が残されていた。

 鉄鎖を斧槍(ハルバード)の柄で突っついてジカイラが呟く。

「・・・死んでも鎖に繋がれ、墓も無く弔いさえ無い、哀れな骸か」

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