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第四十話 王都へ

 二人はベッドに横たわる。

 キスを終えたナナイは、いつものナナイに戻っていた。

 ナナイは、ラインハルトの軍服を脱がす。

 鍛え上げ、絞り込まれたプロボクサーのようなラインハルトの肉体が顕になり、ナナイは、胸から腕へと撫でた。

 ベッドに横たわったナナイは、軽く握った右手を口元に当て、恥じらいから頬を赤らめて顔は横に向けたが、エメラルドの瞳は上に乗って自分の体を見るラインハルトの反応を伺う。

 ラインハルトはナナイの裸体を見ていた。

 間近で観るナナイの胸。

 形の良い、美しい双丘にラインハルトの目が行く。

「貴方の実家で一緒に寝た時、毛布を捲ってこっそり覗いていたでしょ?」

 そう言って微笑むナナイに、ラインハルトは苦笑いする。

「バレてたか」

「良いのよ。触っても」

「初めてキスした後に?」

「私も。男の人とキスしたのは初めて。・・・秘密警察相手に「私の女だ」と言い切ったのに、奥手なのね」

 そう言ってナナイは口元に手を当ててクスリと笑う。

「あんな事があった後だからな。君の弱みに付け込んでいるみたいで。・・・それに」

「それに?」

「まだ秘密警察が見張っているかも知れない。君を抱いているところを奴等に覗かれたくない。今夜は一緒にいるよ。」

「ありがとう」

 そう言うと、ラインハルトはナナイに腕枕をして傍らに抱き寄せた。

 ナナイは眠りについた。

 ラインハルトは再び、眠れない夜を過ごした。







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 翌朝の早い時間。

 ラインハルトは、夜通し灯っていたランタンを消し、ナナイの部屋から自分の部屋に戻った。

 ナナイが起きた時、ラインハルトの姿は無かったが、ベッドにはまだラインハルトの温もりが残っていた。

 ナナイは身仕度を整え、宿舎の外にある井戸に向かった。

 冷たい井戸水で顔を洗う。

 ナナイがタオルで顔を拭いていると、宿舎の近くの木立の中から、再び秘密警察のアキが姿を表した。

「おはようございます」

 突然現れたアキにナナイは驚いて腰のレイピアに手を掛け、身構え問い掛けた。

「何か用か?」

 丸眼鏡で骸骨のような男、アキは一人で丸腰だった。

「我々は報告のため、これで首都へ戻りますので、ご挨拶に伺いました」

 アキは針金のような目を細めて、ニヤニヤと笑みを浮かべながら続ける。

「昨晩は一晩中、部屋のランタンが灯っていましたな。ヒヒヒヒ。英雄殿は、夜のほうもお盛んなようで」

 ナナイは無言で構えたまま、アキを睨み付ける。

 しかし、アキは続ける。

「如何に貴女が聖騎士(クルセイダー)とはいえ、毎晩求められたのでは体が持ちますまい? ヒヒヒヒ」

 アキはナナイに背を向けた。

「では、これで失礼します。いやはや。お二人とも、お若い。ヒヒヒヒ」

 そう言うと、アキは木立の中に姿を消した。

(下衆(ゲス)が!!)

 ナナイはアキが姿を消した木立を、しばらく睨み付けていた。







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 小隊メンバーは、朝食の後、ミーティングを開いた。

 ラインハルトが昨夜の秘密警察が押し入ってきた出来事を話し、ナナイがいきさつを説明する。

 親同士が決めた事だが、ナナイが皇太子の婚約者であること。ナナイの実家であるルードシュタット家が革命政府に対して面従腹背であり、執事を通じて皇太子の捜索救出という反政府活動を行っていること。これらについて小隊のメンバーに話した。

 ジカイラがラインハルトに話し掛けた。

「ウチの鬼副長がお前のアレをズッポリ咥え込んで、子種を仕込んでいる最中に押し入ってくるとは。秘密警察の奴等、エゲツないな」

 ナナイが引きつった苦笑いを赤らめて腕を組み、文句を言う。

「本人の目の前で、そのエゲツない言い方は止めてくれる?」

 ジカイラが謝る。

「いや、すまん。つい」

 ジカイラは続ける。

「で、どうする? ()るのか?」

 ジカイラが右手の掌を上にして、ラインハルトに差し出す。

「ああ」

 ラインハルトはそう言うと、右手でジカイラの掌を叩いた。

 ジカイラが続ける。

「秘密警察本部を叩くか?」

 ジカイラの問いにラインハルトは、今度は自分の右手の掌を上にしてジカイラに差し出す。

「必要なら」

 ラインハルトの答えを聞いたジカイラが、右手でラインハルトの掌を叩く。

「そう来ないとな!」

 ジカイラの答えに合わせて、ジカイラとラインハルトの二人は、それぞれ右手で拳を握って合わせた。

 ジカイラが続ける。

「ビビッて自分の女を差し出すような奴は、オレのダチじゃねぇ」

 ハリッシュが驚いて話す。

「ちょっと待って下さい! 二人で秘密警察本部に殴り込みを掛けるつもりですか!? マフィアの抗争じゃ、あるまいし!!」

 ハリッシュの言葉にジカイラが反論する。

「ハリッシュ、そんな事言って。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジカイラの問いにハリッシュはギクリとした後、赤くなって、しどろもどろに答える。

「いや、その、皆の前でアレですが。私とクリシュナは、まだ『咥え込む』とか、『子種を仕込む』とか、その、『大人の関係』というか、そこまで関係が進んでいなくてですね。お二人のようになれるよう頑張っているところです。」

 ハリッシュの言葉にクリシュナが真っ赤になってツッコミを入れる。

「ちょっと! ハリッシュ!! 突然、何を言い出すのよ!? 勘違いしないで!! 『私達二人の関係の話』じゃなくて、『私達二人の時に秘密警察が押し入って来たらの話』でしょ!?」

 ハリッシュとクリシュナのやり取りを聞いたジカイラが右手を額に当てて、謝る。

「すまん。オレの聞き方が悪かった」

 ティナが呆れる。

「もぅ。みんなして朝からノロケちゃって!」

 ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をし、改めて話し出す。

「失礼しました。私が言いたいのは、もし、秘密警察がナナイの実家が行っている『反政府活動』の証拠を掴んでいたのなら、昨夜のように姿を表したり、名乗ったりせずに、暗殺部隊で一気に殺しに来ると思うのですよ」

 ナナイがハリッシュの見解に同意する。

「それもそうね」

 ハリッシュが続ける。

「おそらく昨夜の秘密警察の行動は、国外に居て、監視しにくくなった我々に対して『探り』を入れに来たのではないか? という事です」

 ラインハルトもハリッシュの見解に感心する。

「確かに一理ある」

 ハリッシュが続ける。

「ですから、我々が表立って反政府活動を行えば、秘密警察の思うツボです。ここは革命軍の命令通り、烈兵団の主力を追って、メオスの王都へ向かうべきです」

 ジカイラもハリッシュの見解に同意する。

「なるほどな。王都へ向かうとして、どう進む? 秘密警察が活動しやすい都市への宿泊は避けたほうが良い」

 ジカイラの意見にラインハルトが案を出す。
 
「行程を変えて昼間のうちに都市を通過するようにして、街道沿いに野宿しながら王都へ向かうか? 他の皆の意見は?」

 ケニーが意見を言う。

「僕は賛成。建物が入り組んだ都市より、開けた場所のほうが暗殺者(アサシン)は潜伏しにくい。王都へ向かうなら都市では補給だけにして、野宿のほうが安全だよ」

 ヒナも意見を言う。

「私も賛成。今はまだ秘密警察から『目を付けられている』状態だと思う。私達は反乱のような事はした事が無いし。このまま王都へ向かいましょう」

 ラインハルトが結論を出す。

「判った。これよりユニコーン小隊はメオスの王都へ向かう。都市では補給だけにして、野宿しながら進もう」

 他のメンバーも賛同する。

「「了解」」

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