第三十話 転進
--首都ハーヴェルベルク、革命宮殿
ブクブクに太り、顔や全身に吹き出物があるガマガエルのような醜怪な男が玉座にいた。
革命政府主席ヴォギノ・オギノ。
ヴォギノは玉座に座り、うつろな目をした少女を後ろから両足が開くように抱き上げて
少女は呻き声一つ出さず、ヴォギノにされるがままにされていた。
少女の細いうなじがヴォギノの獣欲を掻き立てる。
「おっ、おっ、おおおお」
ほどなくヴォギノは少女の中に子種を出した。
少女はヴォギノが子種を吐き出すタイミングに合わせて、ビクンビクンと体を反らせていたが、ヴォギノが出し終わるのを待って、少女はヴォギノの上から降りた。
少女は自分の太腿を伝って滴り落ちる子種を指ですくうと、汚物のように床の上に払い捨てた。
少女は床の上に置いてあったワンピースを着ると、他のうつろな目をしたワンピースを着た少女たちの列に加わり、共に跪いて座った。
「フゥ、フゥ、フゥーッ」
事を済ませたガマガエルのような醜怪な男の息遣いは荒かったが、すこぶる上機嫌であった。
ヴァンガーハーフェン無血開城の知らせは、早馬と連絡飛空艇によって首都の革命政府にもたらされた。
ヴォギノの上機嫌を見計らったように革命党軍事委員コンパクが報告書をヴォギノに持っていく。
「ははははは。コンパクよ。女は毛が生える前に限る」
そう言うと、ヴォギノはコンパクから受け取った報告書に目を通した。
「・・・『ヴァンガーハーフェン無血開城』とは。奴ら、上出来ではないか」
「はい。我が軍の大勝利です。つきましては、指揮官のラインハルト少佐から上申書が来ております」
「上申書だと!?」
「はい。上申書には、我が国の奴隷商人が拉致したメオス人を帰国させ、メオス王国と講和するようにと書いてあります」
「却下だ」
「は?」
「『却下』と言ったのだ。奴隷貿易は麻薬取引、売春と並ぶ革命政府の主要な財源だ。我が軍が勝っているのに、何故、何の利益も無く講和しなければならないのだ? 奴等の首都まで攻め込め。」
「しかし、メオス王国本土へ進攻するには、兵力が不足しております。」
「東南戦線から烈兵団を回せ」
烈兵団とは、革命軍の兵力不足を補うため、殺人犯などの重罪人を徴用した兵団である。
蛮勇と占領地で悪虐非道の限りを尽くす事で知られていた。
「はっ。仰せのとおりに。彼の小隊は如何致しますか?」
「何も知らせるな。首都で訓練でもさせておけ。その間に烈兵団をメオス王国本土に進攻させるのだ。」
「仰せのとおりに」
「それと、秘密警察での監視を怠るな。刺激してはならんぞ。寝返るかもしれないからな」
「畏まりました」
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--数日後、国境の街ヴァンガーハーフェン
両軍によるヴァンガーハーフェンの無血開城と引き渡しの後、市庁舎は革命軍の本陣になっていた。
ユニコーン小隊の執務室は市庁舎の一室であったが、市内の比較的高級な宿屋を接収して宿舎にしていた。
小隊の補給や宿泊といった書類仕事は、ラインハルトとナナイ、ハリッシュが市庁舎で行い、他の者は宿舎で待機であった。
待機といっても特にやることはなく、自由時間として思い思いに過ごしていた。
ちょうど三人が市庁舎に居る時に革命政府から小隊へ連絡が届いた。
ラインハルトが羊皮紙の命令書を開いて目を通しながら呟く。
「転進命令・・・!?」
ハリッシュが聞き返す。
「転進・・・ですか?」
ラインハルトは苦笑いしながら答える。
「そうだ。『訓練のため首都に戻れ』とのことだ。メオス王国との講和については何も書かれていない」
「ふーむ。もはやこの辺りの東北戦線は戦場ではない・・・という事ですかね?」
ハリッシュの意見を聞いたナナイも意見を述べる。
「そうね。この街にいる農民中心のわずかな革命軍の兵力じゃ、メオス王国の本土へ攻め込むなんて自殺行為でしょうし。この辺りは戦場になる見込みが無いという事でしょうね」
ナナイもハリッシュの意見に近い考えのようだ。
ラインハルトがハリッシュに指示を出した。
「ハリッシュ。済まないが、宿舎の皆に首都へ行く準備をするように伝えてくれ」
「了解しました」
ハリッシュは執務室を出て、宿舎へ向かった。
ナナイがラインハルトに尋ねる。
「首都で訓練なんて、何の訓練かしら?」
ラインハルトは苦笑いしながら答える。
「休暇みたいなものだろ」
「久し振りにのんびりできそうね」
「そうだな」
執務室で二人きりになったので、ナナイがラインハルトに甘えてきた。
ナナイは、椅子に座るラインハルトの肩に手を置くと、ラインハルトの膝の上に座り、首に両手を回す。
ナナイのエメラルドの瞳が上目遣いにラインハルトを見つめる。
「ねぇ。・・・私のこと好き?」
「好きだよ」
「愛してる?」
「愛してる」
「面と向かって言ってくれたの、初めてじゃない?」
「そうだったかな」
「もう・・・忘れたの?」
「済まない。恥ずかしいから誤魔化した」
ラインハルトの答えを聞いたナナイが口元に手を当ててクスクスと笑う。
ラインハルトは苦笑いしながらナナイに尋ねる。
「笑うなよ。・・・どうしたんだ? 急にそんな事を聞くなんて」
「ごめんなさい。私ね。時々、凄く不安になるの」
「不安って?」
「貴方が突然、私の傍からいなくなるんじゃないかって」
ラインハルトは田舎の工房育ちで女性を傷つけない、女性に手を挙げないタイプの男であり、女性に優しい男であった。
ナナイは、『ラインハルトはブレない』と知ってはいても、ナナイに優しいように、小隊の他の女の子にも、士官学校同期の貴族子女にも、他の女の子にもラインハルトは優しかった。その事がナナイの不安を煽った。
「それは無い」
「ホントに?」
「本当さ」
「誓う?」
「誓うよ」
ラインハルトはそう言うと、腰のサーベルの柄に手を掛けて、ナナイに告げた。
「我が剣に賭けて誓う」
ナナイが再び口元に手を当ててクスリと笑う。
「貴族みたい」
「
ラインハルトの答えを聞いたナナイは、エメラルドの瞳を潤ませ両手でラインハルトの頬に触れる。
「私の騎士様。ずっと私だけを見つめていて。ずっと私の傍に居てね」
ナナイの言葉にラインハルトは一言答えた。
「誓うよ」