バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第二十五話 冥界の業火、水晶の槍

 ラインハルト達三人は宿営地の陣屋に戻る。

 時間は既に夕刻に差し掛かっていたため、夕食を取りながら小隊で作戦会議となった。

 戦域の地図を壁に張り出し、ハリッシュが三人で偵察してきた概要と状況を小隊の面々に説明する。

 ナナイはラインハルトに尋ねる。

「それで、どうするつもり? 何か考えはあるの?」

「まず、開幕の一撃にハリッシュとヒナの魔法を敵に叩き込む。それで敵軍の陣形が崩れたところを我々が騎兵で突撃する」

「騎兵突撃?」

 ナナイの問いにラインハルトが答える。

「そう。中央突破で一気に敵司令部を叩く」 

 ジカイラが上機嫌で言う。

「良いねぇ。派手に行こうぜ」

「ティナとクリシュナは防御魔法での援護を頼む。それと、敵軍を派手に叩いても、小隊は八騎。後詰めは革命軍に任せる」

 作戦が決まり夕食が終わったところで、ラインハルトは革命軍の司令官を訪ね、明日の作戦を伝えた。





--翌朝

 ユニコーン小隊と革命軍は、メオス王国軍の野戦陣地に向け宿営地から出撃した。

 ラインハルト達、ユニコーン小隊は騎乗して革命軍を先導する。

 陣形隊列は、先陣として装甲の固いラインハルトを先頭に、その左後ろにナナイ、右後ろにジカイラ。

 中陣として、装甲の無い三人、ラインハルトの真後ろにティナ、ティナの左後ろにハリッシュ、ティナの右後ろにヒナ。

 後陣として、軽装甲の二人、ハリッシュの真後ろにクリシュナ、ヒナの真後ろにケニーが布陣した。

ジカイラが冗談を言う。

「オレ達を見た敵さん、きっと腰を抜かすぞ」

 ラインハルトも笑いながら返事をした。

「それで良い。せめて、敵軍を国境まで押し戻さないとな」

 ラインハルトとナナイは、騎士盾を持っていた。今は鞍に着けているが、馬上槍(ランス)も用意していた。

 ジカイラは盾を持たず、愛用の斧槍(ハルバード)だけであった。




 革命軍は、王国軍の野戦陣地に迫る。

 王国軍の見張りが革命軍を見つけ、野戦陣地の中で迎撃態勢を取り始める。

 革命軍と王国軍が互いにようやく視認出来る距離に対峙する。

 無論、革命軍の前にはラインハルト達ユニコーン小隊が布陣していた。

 ラインハルトが号令を掛ける。

「そろそろ、始めるか。ハリッシュ! やれ!!」

 ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をしながら呟く。

「フハハハ! いよいよ私の出番ですね! 我が魔法の深淵をお見せしましょう!!」

 と言って、指の隙間からチラッとクリシュナの様子を伺う。

 クリシュナは心配そうにハリッシュを見ていた。

 ハリッシュは杖を高く掲げると、魔法の詠唱を始める。

Manna,(マナ、)omul (オムール・)tuturor (トゥトゥルー・)lucrurilor(ルークルリロール).」
(万物の素なるマナよ)

 ハリッシュが騎乗する馬の下の地面に一枚、ハリッシュの頭上に等間隔で直径十メートルほどの光る大きな魔法陣が六枚、描かれ浮かび上がる。

 ハリッシュは詠唱を続ける。

Bazat(バザト・) pe Legă (ぺ・レガ・) mântul (ムントゥル・) Baikalt(バイカルト).」
(バイカルトの盟約に基づき)

Vreau ca(ブレウ・カ・) focul (フォクウル・) lumii(ルミイ・) interlope (インタロペ・) (サ・) trăiască(タラヤースカ・)cu (コ・) prezentul(プレゼントゥル).」
(冥界の業火を常世に現さんと欲す)

 王国軍陣地の上空、中央やや手前の位置に大気中から無数の光が集まり、小さな紫色の球体を形作った。

 その紫色の球体は瞬く間に大きく巨大になる。

 ハリッシュは更に魔法の詠唱を続ける。

Acum vino (アクーム・ビノ・) aici cu (アイーチ・ク・) puterea (プテレア・) manei și(マネイ・シ・) a lunii !(ア・ルーニイ!)
(今、此処にマナと月の力によって現出せよ!)

Distruge(ディシュトルジェ・)ți-mi(ツィミ・)dușmanii(ドゥシュ・マーニ)! !(!!)
(我が敵を滅ぼせ!!)

 「地獄業火(ヘル・フレイム・)爆裂(バースト)!!」

 ハリッシュが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散る。

 王国軍陣地の紫色の球体は、巨大な炎の塊に姿を変えると、気化爆弾のように大爆発を起こした。

 ハリッシュの魔法の爆風の余波は革命軍のところまで届く。

 革命軍から歓声が上がる。

 ケニーが感想を漏らす。

「・・・凄い」

 ジカイラは唖然と口を開けてメオス王国軍の陣地が爆炎に包まれる様子を見ていた。

 ハリッシュが自慢気に笑う。

「フハハハハ! どうです?? 我が魔法の深淵を見ましたか!?」

 ハリッシュが再び中指で眼鏡を押し上げるポーズを取り、また指の隙間からチラッとクリシュナの様子を伺い、呟く。

「冥界の業火で燃えるが良い!」

 クリシュナが感嘆の声を上げる。

「凄い! 凄いわ! ハリッシュ!!」

 ラインハルトがヒナに声を掛ける。

「次はヒナ。いけるかい?」

「大丈夫。やります!!」

 ヒナはラインハルトの言葉に頬を赤らめ、天を仰いで魔法の詠唱を始めた。

Manna,(マナ、)människans(マニスハンス・) alla saker(アラ・サケ).」
(万物の素なるマナよ)

 ヒナもハリッシュ同様に騎乗する馬の下の地面に一枚、頭上に等間隔で光る大きな魔法陣が六枚、描かれ浮かび上がる。

 ヒナは詠唱を続ける。

Loki och (ロキ・ウー・) Angle(アングル)bosas(ボサ・) förstfödda(フゥシュトフッダ).」
(ロキとアングルボサの長子)

Allt det(アルト・デ・) onda på (オンダ・プ・) jakt (ヤクト・) efter (エフタ・) solen(スウォーレン・)och månen(ウー・モーナン).」
(太陽と月を追い求める万物の災厄)

 大気中から無数の光線がメオス王国軍の陣地上空へ向けて伸びていき、雲を作った。

 ヒナは更に詠唱を続ける。

Jag vill(ヤー・ヴィレ・)vara med(ヴァラ・メデ・)dig från(ディー・フォアン・)eviga(エァヴィガ・)fängelser(フィーゲルセー).」
(両極の牢獄より常世に現さんと欲す)

Var nu (ヴァー・ヌー・)Fenrirs (フェンリル・)tänder (テンダ・)här !!(ハー!!).」
(今、此処にフェンリルの牙となりて現出せよ!!)

Penetrera(ペネティアラ・)min (ミン・)fiende !!(フィエンデ!!).」
(我が敵を貫け!!)

氷結水晶(クリスタル・)(ランス・) 貫通(ピアッシング)雨撃(・レイン)!!」 

 ヒナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散る。

 メオス王国軍の陣地上空の雲から、無数の氷の槍が王国軍陣地に降り注ぐ。

 氷の槍は、王国軍の木盾や円盾、陣屋と共に王国軍兵士を貫き、地面に刺さった。

 地面に刺さった氷の槍は、砕け散り、光の粉となって消える。

 ラインハルトがヒナを(ねぎら)う。

「良くやった。上出来だよ」

 ラインハルトの言葉に、ヒナは顔だけでなく耳まで赤くなって照れていた。

 革命軍から再び歓声が上がる。



 



 二度の魔法攻撃を受け、メオス王国軍は大混乱に陥った。

 ラインハルトはサーベルを抜き、号令を下した。

 「全軍! 前へ!!」

 ラインハルトの精神状態に反応し、緋色の肩章(レッド・ショルダー)から絶望のオーラが吹き上がる。

 ユニコーン小隊は、馬を小走りに前進する。革命軍も後に続いて前進する。

 王国軍陣地の手前五百メートルほどで、ラインハルトは次の命令を下した。

突撃(チャージ)!!」
 
 ラインハルトとナナイは、剣から馬上槍(ランス)に替え、騎士盾を構える。そして馬を走らせた。

 ハリッシュの魔法で陣地を囲む柵は大きく破損し、残った柵も消し炭のようになっていた。

 小隊は柵を超えて王国軍陣地に突入する。

 少し後に革命軍が続く。

 ラインハルト、ナナイ、ジカイラは、混乱して逃げ惑う王国軍兵士を貫き、斬り倒し、ユニコーン小隊はメオス王国軍本陣へ突き進んでいく。






-----
 
 メオス王国軍は大混乱となっていた。

 メオス王国軍は、最初の魔法攻撃による大爆発で甚大な被害を受けただけでなく、次の魔法攻撃によって空から降ってきた水晶の槍でも大きな被害を受けていた。

 爆音と爆風に驚いた王国軍のナブ将軍は、慌てて陣屋から外に出る。

 メオス王国軍の兵士の一人が叫ぶ。

「魔導師だ!! 敵軍に魔導師が居るぞ!!」

 ナブの耳にも兵士の叫びが聞こえてくる。

「魔導師だと!?」

 問いに陣屋の兵士が答える。

「敵軍に魔導師がいるとの事です! 上空に六つの魔法陣が確認されました!!」

 ナブが聞き返す。

「六つだと!? 我が国の魔導師では、二つが限界なのだぞ? 敵には、そこまで強力な使い手が居るというのか??」

「詳細は判りません」

 ナブは命令を叫ぶ。

「全軍、散開しろ!! 固まると魔法にやられるぞ! 散れ!!」

 命令を下したナブの目に、騎兵隊が本陣へ向かってくる姿が写った。 

(なんだ? あの騎兵は??)

 ナブは、更に望遠鏡で確認する。

(あの軍旗・・・ミスリルの鎧。それに整った陣形。・・・今までの部隊ではない。)

(まさか・・・ガローニが言っていた帝国軍の騎士か??)

 騎兵隊はあっという間にナブの直ぐ近くに迫る。

しおり