バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第二十六話 最高の舞台

 メオス王国軍のナブ将軍は望遠鏡をしまい、眼前に迫る敵の騎兵隊を見据えて手斧と円盾を構える。

(先頭の騎士・・・ミスリルの銀の鎧に紅い肩。・・・背筋が凍りつく。ゾクゾクする。アレは危険だ。・・・白銀(プラチナ)の女騎士。重装備。こちらのほうが分が悪い。・・・黒衣の戦士。盾を持っていない。コイツだ!!)

 ナブは自分に迫る騎兵隊の正面から素早く飛び退くと、騎兵隊とのすれ違いざまに黒衣の戦士の馬を手斧で斬り付けた。






 ユニコーン小隊は、兜に二本の孔雀の羽を付け、マントを羽織った敵将らしき者を見つけ、突撃を仕掛ける。

 敵将は小隊の正面から飛び退くと、すれ違いざまにジカイラの乗る馬を斬り付ける。

 ジカイラもすれ違いざまに敵将の肩口を斧槍(ハルバード)で斬り付ける。

 敵将は円盾(ラウンド・シールド)でジカイラの一撃を防ごうとしたものの防ぎきれず、鈍い金属音と共に兜が弾け吹き飛ぶ。

 ジカイラが乗る馬が悲鳴を上げて崩れ落ちる。

「うおっ!?」

 ジカイラは馬から飛び降り、態勢を保ちながら着地する。

「「ジカイラ!!」」

「「ジカさん!!」」

 ラインハルトは即座に落馬したジカイラを庇うように指示を出す。

「防御円陣! 近接戦用意!!」

 ユニコーン小隊は、ジカイラと敵将を囲むように、周囲に馬を走らせながら円陣を組む。 

 ラインハルトとナナイは馬上槍(ランス)から剣に持ち替え、円陣に近寄る敵兵を斬り伏せる。

 ケニーも強化弓で敵兵を射抜く。

 ユニコーン小隊が囲む円陣の中で、ジカイラは、対峙する敵将に向かって告げる。

()()で勝負するには最高の舞台じゃねぇか」 

 ジカイラは、斧槍(ハルバード)を大きく二度、振り回した後、正眼に構えて名乗りを上げる。

「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」

 敵将も手斧と円盾(ラウンド・シールド)を構え、名乗りを上げた。

「メオス王国バレンシュテット派遣軍、将軍ナブ・エング!!」

 ジカイラは、構えた斧槍(ハルバード)で大きく水平に払う。

 ナブは、かがんで斧槍(ハルバード)の払いを避ける。

 ジカイラが斧槍(ハルバード)で突きを放つと、ナブは円盾でそれを弾く。

 ナブは、手斧でジカイラを斬りつける。

 ジカイラは斧槍(ハルバード)を水平に持つと金属柄で手斧の一撃を受け止め、そのまま腕力でナブを押し返して突き放す。

「少しはやるじゃないか!」

 ジカイラはそう言うと、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。

( (いち)(せん)!!)

 ジカイラの渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃が剛腕から放たれる。

 ナブは円盾で斧槍(ハルバード)の一撃を受ける。

 しかし、斧槍(ハルバード)の刃は、木製の円盾(ラウンド・シールド)を粉砕してナブの左腕をへし折り、胸に食い込む。

 ナブの体は斧槍(ハルバード)の勢いを受けきれず、跳ね飛ばされ地面を転がる。

「ぐおおおおっ!! カハッ! カハッ!!」

 ナブは右手に持つ手斧を杖代わりにして起き上がり、片膝を立て(うずくま)る。

(くうっ・・・刃は通っていない。だが、腕とあばらが折れたか)

 ラインハルトが敵の新手が来るのを見つけ、指示を出す。

「ジカイラ! 敵の新手が来る! 味方の位置まで一旦、下がる!!」

 ジカイラがラインハルトが剣で指す方向を見ると、敵の隊長らしき者が二十人ほど引き連れて走って来る姿が見えた。

「将軍をお助けしろ! 続け!!」

「馬の礼だ! 取っておきな!!」

 ジカイラはナブにそう告げると、馬に乗るヒナの後ろに飛び乗る。

 




 ジカイラは、前に居るヒナの細い腰に掴まる。

 柔らかい、年頃の女の子の感触。

 ヒナが驚いて声をあげる。

「ひゃっ!? お尻触らないで! お嫁にいけなくなっちゃう!!」

「大丈夫だ! オレが貰ってやる!!」

 二人のやり取りを見たラインハルトが離脱指示を出した。

「引くぞ!!」

 ユニコーン小隊はメオス王国軍の本陣から颯爽と引き上げていった。






 隊長のクルトがナブに駆け寄る。

「将軍、御無事ですか?」

「すまんが、動けん。ヴァンガーハーフェンまで撤退しろ」

 クルトは大声で撤退命令を伝える。

「ナブ将軍が負傷された! ヴァンガーハーフェンまで撤退しろ!!」

 兵士達は矢を防ぐ木盾の上にナブを寝かせると、四人で持ち上げ撤退していった。






 ユニコーン小隊が味方の革命軍に合流すると、メオス王国軍は野戦陣地を放棄して撤退し始めた。

「深追いは無用だ。野戦陣地の占領は革命軍に任せて、宿営地に戻ろう」

 ラインハルトの提案にハリッシュが同意の意見を言う。

「同感です。王国軍の損害は甚大です。すぐには立て直し出来ないでしょう。我々が此処に残ったところで、何も出来ませんしね」

 他の小隊メンバーも同意件のようだった。

「宿営地へ向かう」

 ラインハルトはそう言うと、宿営地に小隊の針路を向けた。






 宿営地に向かう道中、ジカイラはヒナと同じ馬に乗っていた。

 斧槍(ハルバード)を馬の鞍に着け、両手でヒナの腰に掴まっていた。

 ジカイラの目に華奢なヒナの後ろ姿が目に入る。

 ジカイラは両手でヒナの両肩を横からポンポンと叩くと、そのまま肩から背中、そして腰へと身体のラインを両手でなぞる。

 ビクンとヒナが仰け反り、ガクガク震える。

「ヒナ。普段からローブ着ているんで目立たないが、お前、良い身体してるじゃないか。ベッドに持ち帰りしたくなる」

 ヒナが驚きの声を上げた。

「ジカさん、変なとこ触らないで!!」

 次の瞬間、ジカイラの兜が乾いた音を立て、衝撃が頭を襲う。

 いつの間にか後ろに回っていたナナイが馬上槍(ランス)を振り下ろし、ジカイラの頭を小突く。

「セクハラはダメよ!」

 ナナイからの注意にジカイラが言い訳する。

「痛ッテエな! スキンシップだよ、スキンシップ! なぁ、ヒナ?」

「知らなーい!」

 ヒナは顔を赤らめて頬を膨らませ、そっぽを向く。

 ジカイラが続ける。

「まぁ、『鬼の副長』が女になるのは、ラインハルトの前だけだからな。『鬼に金棒』、『ナナイに馬上槍(ランス)』ってな。・・・痛テテテテ!!」

 ナナイが後ろからジカイラの背中を馬上槍(ランス)の先でグリグリ突っついていた。

 ジカイラが叫ぶ。

「痛いって! ナナイ、ソレが刺さったら死ぬんだぞ!?」

「何!? 何か言った?」

「何でもありません! 副長様!!」

 二人のやり取りを見ていた小隊メンバーが笑い声をあげる。






--国境の街ヴァンガーハーフェン メオス王国軍司令部

 木盾の上に横たわったまま、ナブ将軍は司令部に運ばれていた。

 メオス王国軍のガローニ将軍がナブの傍らに来る。

「どうした! 何があった!?」

 ガローニの問いに、荒い息のナブが答える。

「て、帝国軍らしき部隊にやられた。強力な魔法攻撃で師団は壊滅した。・・・魔法陣が六つだ。・・・あり得ない」

「なんだと!?」

「ゴホッ、ゴホッ。・・・混乱した師団に騎兵隊が突撃してきた。重装備の騎士の部隊だ。・・・そいつらとやりあって、このザマだ。・・・恐ろしい手練れだ」

「農兵ではなく、騎士が来た!?」

「・・・そうだ。ミスリルの鎧に紅い肩の奴が率いる部隊だ」

「あの緋色の肩章(レッド・ショルダー)が、こんな辺境に!? それは帝国軍のエースが率いる精鋭部隊だ!!」

 ガローニは、ナブの報告に精神的激しいショックを受ける。

 目の前が真っ暗になるようだった。

 ナブがガローニに詫びる。

「ゴホッ、ゴホッ。・・・すまない。お前の言うとおりだった。俺達は帝国軍という『眠れる獅子』を起こしてしまったようだ」

「もういい。喋るな! じきに神官が来て回復魔法を掛けてくれる!」

 ガローニは、木盾にナブを乗せて運んできた兵士達に命令する。

「お前達、ナブを医務室へ運べ!」

 ナブは、木盾に乗せられたまま医務室へ運ばれていった。

 ガローニは考える。

(魔法攻撃で陣地を破壊して師団を混乱させ、騎兵突撃で中央突破し本陣を狙う。農兵の、素人の戦術ではない)

(しかも、魔法陣が六つとは・・・帝国の魔法技術は、我が国より二百年以上進んでいる)

(よりによって、緋色の肩章(レッド・ショルダー)の部隊が来るとは。・・・クソッ、どうしたものか)




 色々と思案した挙げ句、ガローニは司令部がある建物の天窓を見上げる。

 夕日が天窓を照らしていた。

 ガローニが呟く。

「空に戦艦を浮かべる帝国と、どう戦えと・・・」

しおり