第十八話 凱旋式
ラインハルト達ユニコーン小隊が拿捕した敵旗艦と捕虜の革命軍への引き渡しは滞り無く行われた。
引き渡しの書類にサインしたラインハルトは、ジカイラと共に飛空艇で士官学校へ帰った。
最初、ナナイとハリッシュが士官学校へ戻り、軍監達に戦果報告したが、信用してもらえなかった。
そこで、ナナイは持参した敵旗艦の軍旗を軍監に提示、やっと戦果が認められた。
士官学校と革命政府が蜂の巣を突っついたような騒ぎになったのは言うまでもない。
ユニコーン小隊の面々が飛行場に出迎えに来る。
興奮気味にハリッシュがラインハルトとジカイラに話し始めた。
「小隊の戦果が革命政府に認められました! 我々のために『凱旋式』を開催してくれるとのことです。指揮官のラインハルトとナナイは二階級特進、小隊全員が叙勲されます。」
ジカイラがハリッシュに尋ねる。
「『凱旋式』って?」
「街中をパレードして、勲章が授与される。お祝いの式典ですよ」
ハリッシュの答えを聞いてジカイラが苦笑いする。
「オレは固っ苦しいのは苦手なんだがな」
ラインハルトが呆れたように話す。
「パレードだから沿道の人達に手を振っていれば良いのさ」
「私達が主役のお祭りね!」
ティナとクリシュナ、ヒナ、ケニーの四人は楽しみにしているようだったが、ナナイだけ浮かない顔をしていた。
「ナナイ、どうした? 浮かない顔して」
ラインハルトが心配してナナイに声を掛ける。
「何だか、革命政府に利用されている気がして」
ナナイの懸念は正しかった。ラインハルトは言葉を選んでナナイに話す。
「僕らは敵の大艦隊を撃破して、街と大勢の人達を戦火から守った。この結果は評価されて良いと思う。革命政府が便乗して大騒ぎするのは、何か別の思惑があるのだろうけどね」
「確かに敵の大艦隊を撃破して街を守ったことは事実ね」
ナナイは自分に言い聞かせるように言った。
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--凱旋式当日
凱旋パレードのため、首都ハーヴェルベルク郊外で小隊は四人乗りのパレード用オープン・キャリッジ型の馬車に乗った。
馬車の車列の一台目には、ラインハルト、ナナイ、ティナ、ジカイラが乗り、二台目にハリッシュ、クリシュナ、ケニー、ヒナが乗り込んだ。
三台目には、ラインハルトが五分刈りにした提督が杭に括り付けられていた。
四台目以降には、鉄檻に入れられた捕虜のゴブリン達が並んでいた。
パレードが始まった。
軍楽隊が先導し、車列は街の大通りへ向けて、ゆっくりと入口の門へと進む。
入口の門をくぐると、門の上と街の建物の二階の窓から撒かれたであろう、空を舞う無数の紙吹雪と花びら、大きな拍手と歓声が小隊の車列を迎えた。
沿道にはたくさんの人、人、人。
敵の大艦隊を撃破し、首都を守った英雄達を「ひと目見よう」と大勢の人が押し並んでいた。
街の大通りには兵士が一定間隔で並び、パレードの隊列が通れるように規制していた。
子供たちが手を振りながら走ってパレードの馬車を追い掛ける。
「凄い・・・こんなに沢山の人が」
たくさんの人の歓声にティナは感極まったようだ。
ジカイラも紙吹雪と花びらの舞う、晴れた青空を眩しそうに目を細めて見上げながら、感極まってラインハルトとナナイに話し掛けた。
「・・・悪くねぇな。『街を守った英雄』ってのも」
「ああ」
「そうね」
ナナイもたくさんの人の歓声と街の光景に感動したようだった。
街の大通りをゆっくりと進む馬車に沿道の人々から花が投げ込まれる。
ユニコーン小隊の面々は、笑顔で街の人達に手を振っていた。
「キャー! ラインハルト様ー!!」
大勢の若い女性達からの黄色い声援がラインハルトに送られた。
ラインハルトは苦笑いしながら手を振って答えた。
傍らでその声援を聞いていたナナイの笑顔が引きつる。
小隊を取り巻く歓声は、やがて掛け声に変わっていった。
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革命政府は、壁新聞などをあちこちに張り出すなど、あらゆるメディアを使ってラインハルト達を『革命軍の英雄』として祭り上げようとしていた。
しかし、ラインハルト達ユニコーン小隊の勝利と大きな戦果は、革命以来七年間、革命政府による重税と暴力、麻薬に苦しみ、汚職が横行して腐敗する社会に絶望していた人々に、かつての『帝国の栄光』を想起させたのだった。
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やがてパレードの車列は、革命宮殿前に作られた特設ステージ前で停まった。
革命政府主席ヴォギノ・オギノと革命政府の首脳が仰々しく小隊の面々を出迎え、叙勲式が始まった。
一列に並んだ小隊メンバーは、ラインハルトから順番に『帝国騎士十字章』が叙勲されていった。
革命によって体制が変わっても、旧帝国の叙勲制度はそのままであった。
叙勲が終わると、ヴォギノ主席からラインハルトとナナイの二階級特進と、ユニコーン小隊が『独立戦隊』として昇格され運用されることが発表された。