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第十七話 革命政府

 敵旗艦を拿捕したユニコーン小隊は、戦闘で負傷した提督をティナの回復魔法で治癒した後、ラインハルトとジカイラを敵旗艦に残して、士官学校へ帰還させる。

 敵艦隊撃滅の報告と拿捕した敵旗艦の引き渡しや臨検など、革命軍に連絡をする必要があったためであった。また、そういった連絡や手続き関連はナナイとハリッシュが得意であった。

 ラインハルトとジカイラは旗艦の後方船尾楼の屋上に居た。二人のすぐ側には、提督と数匹のゴブリンが床の上に座っていた。

 ジカイラがラインハルトに話し掛ける。

「なぁ、ラインハルト。お前、コイツらの顔って、見分けつくか? オレには、みんな同じ顔に見えるんだが」

「んん?」

 ジカイラにそう言われて、ラインハルトは提督と直ぐ側に居るゴブリン達の顔を見比べる。

 じっくり見ると、確かに微妙に違いこそあるが、ラインハルトにも顔の見分けはつかなかった。

「どうする? 雑魚に紛れ込まれたりすると面倒だぞ。目印代わりにコイツの片目を潰すとか、耳を削いでおくか?」

 ジカイラは、腰のベルトからナイフを取り出し、提督の鼻先に突き付ける。

 提督が悲鳴を上げる。

「やめてくれ! 降参したんだ! 助けてくれ!」

「まぁ、待てよ」

 そう言うとラインハルトは少し考える。

 確かに革命軍に引き渡す前に、提督に雑魚に紛れ込まれたりすると探し出すのは面倒であった。

 しかし、降伏した捕虜を痛めつけるのはラインハルトの主義や性格には合わなかった。

 ラインハルトがサーベルの柄に手を掛けると、提督は更に大きな悲鳴を上げる。

「頼む! 助けてくれ!!」




 ラインハルトのサーベルが一閃する。

 ラインハルトのサーベルは、提督の自慢のモヒカン刈りのような(たてがみ)を綺麗に()()()()に切り揃えていた。

「お前は今から『五分刈(ごぶが)り』だ。いいな?」

 ラインハルトはそう言うとサーベルを鞘にしまった。

「わ、判った。五分刈(ごぶが)りでも坊主でも良い」

 提督は安堵したように息を吐いた。

 その様子を見てジカイラが笑った。

「はっはっは。まさかゴブリンを五分刈(ごぶが)りにするとは思わなかったぜ? ラインハルト。お前もなかなかシャレが判るようになったじゃないか。()()()()()()()()()ってな」

 ジカイラはそう言うと、綺麗に五分刈(ごぶが)りに切り揃えられた提督の頭の体毛を、掌でゾリゾリと撫でていた。





--首都ハーヴェルベルク、革命宮殿

 かつて皇帝一家が居住していた(カイザリヒャー・)(パラスト)は、革命によって『革命宮殿』と名称を変えていた。
 
 ブクブクに太り、顔や全身に吹き出物があるガマガエルのような醜怪な男が玉座に座っていた。

 この男の周囲には、幾人か、うつろな目をしたワンピースを着た少女たちが(ひざまず)いている。



 ヴォギノ・オギノ。(vogino ogino)

 革命政府主席にして革命党書記長。

 この太った醜怪な男が革命政府の全権を牛耳っていた。
 
 ヴォギノは元々は売春窟の主人であった。初めは大人の女性である『公娼』を扱っていたが、非合法な分野にも商売を広げ、やがて特殊な性的趣向・・・幼女や少年、動物や人以外の種族・・・についても扱うようになり、麻薬取引、奴隷貿易、人身売買など手広く商売するようになった。

 最初は商売の客であった貴族達に徐々に浸透し、貴族を非合法行為に手を染めるように仕向け、それを口実に貴族を籠絡したり、強請ったり、恫喝するようになった。

 そうして帝国の裏社会や周辺諸国に自らの影響力を広げていき、行き着いた先が『革命』であった。

 革命を起こすに当たっては「知識階級」、いわゆる『頭の良い者達』に『絶対帝政に対する労農革命』という革命理論を作らせた。無論、革命後は用済みなので粛清した。
 
 革命政府は全て革命党の政治委員が役職に就いた。革命によって貴族は革命軍を除いた公職から追放されていた。
 
 革命政府は帝国政府が禁止していた『奴隷貿易』『麻薬取引』『人身売買』を解禁した。
 
 革命政府の政治委員の選挙権は、革命党員のみが持っている一党独裁体制であった。
 
 選挙は全て『記名投票』なので『誰がどの候補に投票したか』判るようになっている。

 ヴォギノの意に沿わない投票をした者は、秘密警察によって粛清された。

 選挙権を持たない愚民は秘密警察に見張らせている。

 革命政府内では、賄賂や横領、恐喝や汚職が蔓延していたが、それらはヴォギノにとって、どうでも良かった。

 ヴォギノは自分が存命な間だけ、可能な限り少女たちに奉仕させ、可能な限り贅沢して、享楽的に怠惰に過ごせれば良かったし、この国やアスカニア大陸がどうなろうと、どうでも良かった。

 貴族は飼い殺しにしたら良い。

 口実を見つけてジワジワと一つづつ潰していく。

 金や食糧は税で集めれば良い。

 兵は農民と罪人を徴用したら良い。
 
 愚民は秘密警察に見張らせれば良い。

 反対者は強制収容所に送るか処刑したら良い。

 アスカニア大陸の諸国は、労農革命を認めない王政または部族制国家、自治都市であり、革命政府と介入戦争を繰り広げていた。

 しかし、革命軍が、ほぼ全ての戦線で連戦連敗していることがヴォギノの頭痛の種であった。

(このまま連戦連敗が続けば、いずれハーヴェルベルクも危うくなる。)

 そう考えつつ、ヴォギノはうつろな目をしたワンピースを着た少女、ヴォギノの『性的玩具』の一人に口で奉仕させていた。少女達に奉仕させている時は機嫌が良かった。

 ヴォギノは少女の口の中に子種を放つ。

 少女は少しむせたが、口の中に大量に出された子種を飲み込む。

 その様子を眺めていたヴォギノは更に上機嫌になる。

「おぉ~。よしよし。すっかり舐めるのも、吸うのも、上手くなったな」

 そう言うとヴォギノは自分の股間から、うつろな目で顔を見上げる少女の頭を撫でた。

 ヴォギノの上機嫌を見計らったように革命党軍事委員コンパクが報告書を持ってきた。

 ヴォギノは羊皮紙の報告書を広げて目を通す。

「・・・小隊で敵の大艦隊を撃滅しただと!?」

 ヴォギノの問いにコンパクが答える。

「はい。敵ガレアス四隻を撃沈。敵旗艦を拿捕。敵司令官を捕虜にしたとのことです。」

「ふむ。この指揮官のラインハルトという者は何者だ?」

「工房職人の息子で上級騎士(パラディン)。士官学校の首席で、成績は全科目Aとのことです」

「工房職人の息子だと!?」

「はい」

「こいつは良い。・・・使えるぞ」

「は?」

「判らんか? 政治宣伝(プロパガンダ)だ。」

「申し訳ありません。判りません」

「チッ。まぁ良い。教えてやろう。工房職人の息子・・・即ち、彼は労働者階級の出身だ。『労働者階級出身の指揮官率いる小隊が、敵の大艦隊を撃滅!!』・・・実に『革命的英雄』だとは思わんかね?」

 未だに理解できないといった素振りのコンパクにヴォギノが続ける。

「連戦連敗中の革命軍の士気を鼓舞する必要がある。『()()()()()()()部隊を率いることができる』『()()()()()()()戦闘に勝つことができる』とな。それに愚民は『革命的英雄』というのが大好きなのだよ」

 ヴォギノは更に報告書を読み続ける。

「おまけに小隊の副官は、あのルードシュタットの小娘ときている。・・・こいつは良い。傑作だ!!」

 そう言うとヴォギノは大声で笑い出した。コンパクが異論を口にする。

「あの小娘は『反革命分子』ですぞ?」

「知っておる。ルードシュタットの小娘がコソコソ嗅ぎ回っているようだが、秘密警察が小娘の尻尾を掴むまで、せいぜい革命政府のために働いて貰うとしよう。むはははは」

 ヴォギノは上機嫌でコンパクに命令した。

「小隊の『凱旋式』だ! すぐ準備しろ! 小隊指揮官の二人は二階級特進! 小隊全員に昇進、叙勲すると伝えろ! 勲章はワシ自らが授与する!!」

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