第十六話 甲板戦
ナナイがラインハルトに残弾報告する。
「残弾ゼロ。もう爆弾が無いわよ」
「了解。ナナイ、旗艦の船尾楼が見えるかい?」
「ええ」
「船尾楼の上、一回り体の大きなゴブリンが居るだろう? 恐らく奴がボスだ。奴をやる」
「どうするつもり?」
「飛空艇で船尾楼に強行着陸して斬り込む。ナナイと二人なら出来るさ」
ナナイは驚いた。しかし、ラインハルトの「ナナイと二人なら出来るさ」という言葉にナナイは決意を固める。
「了解! やりましょう!!」
ラインハルトが再び機体の翼端を上下に動かして僚機に合図し、ナナイはハンドサインと手旗で僚機に伝えた。
ラインハルトとナナイのユニコーン01は、巨大な旗艦の船尾楼を目指して急降下した。
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ジカイラがナナイの手旗信号を解読してティナに伝える。
「『
ジカイラの言葉にティナが驚く。
「ええっ!?」
「ティナ、操縦渡すぞ! ・・・オレも行く!!」
「ジカさん、無茶よ!!」
「時間を稼ぐだけだ。二人が敵の頭を
ジカイラは続ける。
「
「わかったわ!」
ジカイラとティナのユニコーン02は、巨大な旗艦の甲板へ急降下した。
ラインハルトとナナイの機体がガレアスの船尾楼に強行着陸するのと、ほぼタイミングでジカイラはロープからガレアスの甲板上に飛び降りた。
ジカイラは甲板に着地すると、愛用の
「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」
ジカイラの決めゼリフを聞いた甲板のゴブリン達は、一瞬、互いに顔を見合せた後、一斉にジカイラに襲い掛かった。
「まったく。伊達も酔狂もねぇな」
そう言うとジカイラは大きく息を吸い腰を落として身構えた。
(
ジカイラの豪腕が
ジカイラは船尾楼目掛けて走り出した。
淡い緑色の光がジカイラを包む。クリシュナが防御魔法プロテクション・フロム・アロー(矢からの防御)を掛けてくれたようだった。
ゴブリン達がジカイラめがけて放った矢は、全て反れていった。
三匹のゴブリンがジカイラに飛び掛かった。
ジカイラは体当たりで弾き飛ばす。
その内の一匹がジカイラの脇腹に剣を突き立てる。衝撃と痛みがジカイラを襲う。
「
ジカイラはそのゴブリンを蹴飛ばすと、走りながら刺された箇所を確かめる。
(大丈夫だ。刃は通っていない。行ける!)
甲板のあちらこちらにある船倉からの出口から、無数のゴブリンが這い出て、ジカイラを追い掛ける。
ジカイラはその様子を走りながら横目で一瞥し、船尾楼へ急ぎ走る。
(やれやれ。ラインハルトの追っ掛けは可愛い女の子で、オレの追っ掛けはゴブリンかよ!! 世の中ってのは、不公平に出来てやがる!)
ジカイラの正面に二匹のゴブリンが立ち塞がる。
左側のゴブリンの首に矢が刺さって倒れた。ケニーが飛空艇から
ジカイラは雄叫びを上げながら、残ったゴブリンの腹に
黒い
ジカイラは船尾楼の入口から中へ入った。
ジカイラの正面に階段を登って屋上へ出ようとするゴブリンが見えた。
「させるか!!」
ジカイラは斧槍
ジカイラはゴブリンの死体から
背中から
船尾楼の入口から、若干、中に入った位置で、大盾(タワーシールド)で入口を塞ぐように身構える。
(此処だ。この位置だ。船尾楼への入口は此処だけ。奴らは大群では中に入って来れない。入口で
船尾楼の入口にゴブリンの群れが押し寄せて来た。
ジカイラは
ジカイラはバランスを崩した一体のゴブリンを素早く
(これでいい。無理はしない。後は、二人が敵の頭を
--時間を少し戻した船尾楼の屋上
ラインハルトとナナイは船尾楼の屋上に飛空艇を強行着陸させた。
二人は颯爽と飛空艇から飛び降り、提督らしきゴブリンへ向かって走り出した。
二人を淡い緑色の光が包んだ。クリシュナが掛けた防御魔法プロテクション・フロム・アロー(矢からの防御)だった。
突然、空から降りて来た飛空艇にゴブリン達は恐れ怯んでいたが、降りて来たのが人間二人だと判ると襲い掛かってきた。
ナナイはラインハルトが自分を追い越して前に出るのが判った。
(速い! 同時に降りたのに追い越されるなんて!)
ラインハルトはサーベルを抜くと目の前のゴブリンを一刀両断した。そして二匹目のゴブリンも肩口から一刀で切り伏せた。
ナナイは正面のゴブリンの胸に剣を突き刺すと、後ろから迫って来たゴブリンの顔を廻し蹴りで蹴り倒した。
ナナイは剣を引き抜き、ラインハルトの後を走って追う。
(一匹一匹は、大したことはない。・・・雑魚だ。しかし、この数は厄介ね!)
ラインハルトとナナイは次々と船尾楼上のゴブリンを斬り倒した。
一匹のゴブリンの胸に三本の光の矢が突き刺さり、ゴブリンはそのまま後ろへ倒れた。クリシュナの放った魔法であった。
ケニーが長弓から放った矢も次々とゴブリン達を倒していった。
船尾楼の屋上の端に提督と四匹のゴブリンが、提督を守るように陣取る。
ゴブリンの三匹がラインハルトに襲い掛かり、一匹がナナイに襲い掛かった。
ラインハルトは三匹のゴブリンの攻撃を剣で受け流し、次々と斬り伏せていく。
ナナイはゴブリンの攻撃を剣で受け止めると、相手を押し返して、脚を斬り払った。脚を斬られたゴブリンは船尾楼の床の上を転げ回る。
ナナイの目の前に提督が現れる。
(他のゴブリンより一回り大きい。ホブゴブリンか!)
頭の白い体毛をモヒカン刈りのように立てている提督がナナイに斬り掛かった。
ナナイは提督の攻撃を数回、剣で受け止め、相手を観察する。
(雑魚より多少、力がある程度。受け止められる。・・・動きは鈍い)
ナナイは反撃に転じた。
数回、斬り付け、上段にフェイントを仕掛ける。
提督はナナイのフェイントを『顔への攻撃』と判断し、剣で防ごうとした。
(掛かった! 本命はこっち!!)
ナナイは提督の左脚の太腿を剣で貫いた。
提督は悲鳴を上げ、両膝を着いた。
(勝負は決まった)
そう思ったナナイは提督の太腿から剣を引き抜いた。
次の瞬間、ラインハルトの剣が一閃。提督の右腕、肘から先を斬り飛ばした。
提督は悲鳴を上げて尻餅を付き、切り飛ばされた右腕の肘の辺りを左手で押さえ、
(え!?)
ナナイは驚いた。
(既に勝敗は決しているのに、何故!?)
ラインハルトは提督の鼻先にサーベルの切っ先を突き付け、提督に言った。
「言葉は判るな? 降伏しろ。二度は言わない」
ラインハルトのアイスブルーの凍てつく瞳が提督を威圧する。
提督はラインハルトの言葉に
勝敗は決した。
ラインハルトは提督と艦長に戦闘停止を命令させ、旗艦のゴブリンたちは抵抗を止めた。
ジカイラが船尾楼の屋上に上がってきた。ジカイラはラインハルトに話し掛ける。
「決まったな」
「ああ」
「それじゃ、仕上げと行くか」
旗艦はユニコーン小隊の旗を掲げると急速に回頭し始める。
旗艦が九十度回頭すると、後続するガレーの船団に対して
旗艦がユニコーン小隊旗を掲げており、敵に拿捕された事に気が付いた後続のガレー船団は、百八十度回頭。今まで来た航路を戻って行った。