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第十五話 ガレアス艦隊

--翌日、士官学校職員室

 居並ぶ軍監たちが座る席の前にラインハルトは立っていた。

 ラインハルトの提案に軍監が口を開く。

「強行偵察だと?」

「はい。戦う前に、まず敵の正確な艦隊構成と戦力を調べておく必要があります。小隊での出撃許可をお願いします」

 ラインハルトからの提案を軍監は少し考える。

(確かに敵艦隊の正確な情報は必要だ。それに小隊規模の戦力を割いたところで大勢に変化は無い)

「よし。小隊での強行偵察を許可する」

「ありがとうございます」

 ラインハルトは一礼すると職員室を後にした。




 ラインハルトは職員室の外で待っていたジカイラと合流する。

 ジカイラが呆れたように言う。

「わざわざ許可を取りに行くところがお前らしいな」

「小隊長だからね、筋は通しておくさ。()()()()には、()()()()()()()()()()()()から」

 ラインハルトは続ける。

「許可されなくても、出撃するけどね」

「ナナイは一緒じゃなかったのか?」

「彼女とハリッシュには、出撃の段取りを頼んである」

 そう話すと、二人はハンガーへ歩いていった。
 ラインハルトとジカイラの二人がハンガーに入ると、ナナイの凛とした声が聞こえる。

「全機、爆装を急げ! これは訓練ではない! 実弾を装備!!」

 聖騎士(クルセイダー)用の白銀(プラチナ)に輝く鎧を着込み小脇に冑を抱えて歩きながら、ハンガーの整備班に指示するナナイの姿が見えた。他の隊員たちは、それぞれ装備を確認したり飛空艇に荷物を積み込んでいたりしていた。

 ジカイラが気の抜けた声でラインハルトに言う。

「ナナイ、張り切ってるなぁ」

「初の実戦だからね」

「普通、初陣ってのはコボルトの群れとか、スライム辺りの雑魚が相手だろ? なんでオレ達は、ガレアスの大艦隊が相手なんだ? 」

「さぁね」

 ラインハルトが苦笑いでそう答えると、ハリッシュがやって来た。ハリッシュは興奮気味に二人に話す。

「まさか私が考案した戦術を実際に試す機会が来るとは! これはアスカニア大陸史上、初の試みです! 歴史に名前が残りますよ!!」

 ハリッシュの言葉にジカイラが返す。

「それはいいけどさ。オレの装備は用意しておいてくれたか?」

「もちろん。用意してあります」

 ジカイラはハリッシュが用意した装備を確認する。

 ジカイラは海賊剣(カトラス)を手に取り、数回振り回して具合を確認すると腰に付けた鞘に収める。
 愛用の斧槍(ハルバード)大盾(タワーシールド)を順番に手に取り、自分の飛空艇に積み込んでいく。

 ラインハルトがジカイラに話し掛ける。

「重装備だな」

 ジカイラは黒色の胸当ての下に鎖帷子を着込む重装備であった。それに対し、ラインハルトは銀色(シルバー)の騎士鎧のみであった。

「用心するに越したことはない。()()()()()ってやつだ。お前はサーベルだけでいいのか?」

「ああ」

 ラインハルトは腰のサーベルの柄に手を掛け、ジカイラに見せると小隊の面々を集めた。

「小隊、集合!!」

 ラインハルトの声にユニコーン小隊全員が集まる。

「軍監より出撃許可が出た。これより飛空艇で敵艦隊を叩く。作戦に変更は無い。機体への爆装が終わり次第、出撃する。各員、装備など事前に点検しておくように」

 ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後に拳を握って興奮気味に話す。

「いよいよですね。私の理論が正しい事を世界に証明しましょう!」

「ハリッシュ。あまり熱くならないでね」

 クリシュナから声を掛けられ、ハリッシュは少し落ち着きを取り戻した。

 不安げなヒナにケニーが声を掛ける。

「大丈夫だよ、ヒナちゃん。飛空艇で攻撃するんだから。直接、戦闘することは無いと思う。・・・たぶん」
 
「ケニーたん、ありがと。大丈夫よ」

 追加装備で腰のベルトにナイフを差し込み、まだ準備しているジカイラにティナが話し掛けた。

「ちょっと。ジカさん、大丈夫? 授業中、いつも寝てるからでしょ?」

「大丈夫だって! 準備は念入りにしないとな」

 ナナイが整備班と打ち合わせをして、ラインハルトたちの元へ戻ってきた。

「爆装完了よ。いつでも行けるわ」

 ナナイからの報告にラインハルトが号令を掛ける。

「よし! 出発だ!! ユニコーン小隊、全機出撃!!」

「了解!!」

 八人は小走りで飛行場へ出ると、それぞれの機体へ乗り込み飛空艇を発進させる。

 発進した四機の飛空艇は、飛行場の上空で綺麗な編隊を組むと一路、海上の敵艦隊を目指した。



 
 ナナイが高度を報告する。

「高度三五○○、偵察高度に到達」

 ナナイからの報告を受け、ラインハルトは考える。

(この高度なら、周囲二○○は見通せるな)

「視界良好。このまま海上で出よう」

 ナナイが疑問を口にする。

「敵艦隊を発見できるかしら?」

「喫水が浅いガレアスに遠距離外洋航行能力は無い。必ず陸地が見える沖合を進む。このまま陸地が見える沖合を行こう」

「了解」

 ナナイからの疑問に答えたものの、ラインハルトにも懸念はあった。

(あとは雲さえ出なければ、見つけられるはず)





 その答えはしばらくして水平線上にその姿を表した。

「見つけたぞ! 敵ガレアス艦隊!!」 

 ラインハルトの報にナナイが望遠鏡を覗き込んで感想を漏らす。 

「あれが旗艦! 大きい!!」

 全部で五隻のガレアスが楔形(くさびがた)の雁行陣で洋上を航行する敵艦隊が視認できた。

 敵艦隊は、通常のガレアスの四倍以上の大きさはある巨大な船体の旗艦を先頭として、両脇に二隻づつ付き従えていた。その後方には、ガレー船が多くの上陸用艦艇を牽引して後に続いていた。

 木製の船体の表面、船舷や甲板を()()ぎの鉄板で覆ったガレアスは、その巨体を海に浮かべ無数の櫂が水面を漕いで進んでいた。

 ラインハルトが機体の翼端を上下に動かして僚機に合図し、ナナイがハンドサインと手旗で敵艦隊の方向を僚機に伝える。





 ジカイラがティナに話し掛ける。

「まーったく。剣も船も『デカければ良い』ってモンじゃねぇだろ!? デカくて良いのはチン●だけだよなぁ?」

「私に同意を求めないで!!」

 ティナは赤くなってそう言うと口籠(くちごも)り、小声で答える。

「男の人のアレが大きいとか、小さいとか・・・。その、どっちが良いとか・・・私、まだ判らない」

「そうやって、真面目に答えるところが可愛いねぇ」






 クリシュナがハリッシュに質問する。

「あの大きな船がガレアス・・・。私達だけで勝てるかしら?」

「私の考案したあの戦術なら勝てますよ」

 


 ヒナがケニーに話し掛ける。

「あの敵艦隊、何というか・・・ボロボロ感が凄いわ」

「うん。ありあわせの鉄板を貼り付けただけというか。やっつけ仕事感が満載だね」





 ラインハルトは目視した敵艦隊の戦力を分析する。

(あの巨大な旗艦は一撃では仕留めきれない。まずは追従艦から叩く!)

 ラインハルトが攻撃を命令した。

「全機、攻撃開始! 目標、左翼敵二番艦! これより急降下爆撃態勢に入る!」

「了解!」

 ナナイは手旗で僚機に知らせた。

 ジカイラがティナに伝える。

「始まるぞ。ユニコーン02了解! 急降下爆撃態勢に入る! 投下タイミング、隊長機ユニコーン01に同調!」

「いよいよね。」

 ハリッシュのユニコーン03機、ケニーのユニコーン04機も続く。

 ラインハルトは、ハリッシュが設計してケニーが作った簡易照準器に目標のガレアスを捉える。

「投下!!」

 ラインハルトは投下レバーを倒した。

 僚機もラインハルトに続いて爆弾を投下する。

 機体から切り離された四発の爆弾は、風切り音を上げてガレアスの中央マストの根本に吸い込まれていく。

 ラインハルトは機首を引き起こし、再び高度を取る。

 爆音と共に爆発の振動が機体の下から伝わってくる。

 ナナイが戦果を報告する。

「全弾命中! 敵二番艦、轟沈!!」




--少し時間を戻した ゴブリン達のガレアス艦隊

 艦長室で略奪品を眺める提督は上機嫌であった。

 彼は先立って沿岸の小さな町を襲撃した時の事を思い浮かべ、思い出し笑いをしていた。

 突然、大きな爆音と共に振動に巨艦が揺れる。

「何事だ?」

 提督は艦長室を出て、後方の船尾楼に登る。

 船尾楼からは炎と黒煙を上げながら沈んでいくゴブリン・トゥース(二番艦)の姿が見えた。

「敵襲か!?」

 提督は周囲を見渡す。

 見えるのは、穏やかな水平線と遠くにある陸地。

 次の瞬間、ゴブリン・ハンド(三番艦)が大爆発を起こす。

 炎と黒煙を上げながら、船体が二つに折れて沈んでいく。

(敵の攻撃だ! しかし、一体、どこから??)

 マストの上の見張りが空を指差して叫んでいた。

「上!?」

 提督が空を見上げると、四機の飛空艇が綺麗にダイヤモンド編隊を組み、艦隊の上空を旋回しているのが見えた。

 しかし、彼は今まで飛空艇を見た事が無く、何なのか理解できなかった。

「なんだ? 何なんだ!? あれは?? 帝国の新兵器か?」

 相手の高度が高過ぎてガレアスの大砲では仰角が取れない。

 提督は艦隊に弓での反撃を命じた。

 提督の命令に対して艦長が報告する。

「速過ぎます! 応射、間に合いません!!」





 ラインハルトが爆弾懸架装置を確認する。

「残弾二。いけるか、あと二隻」

 ラインハルトの(つぶや)きにナナイが答える。

「良い感じね。これならいけるわ」

「目標、敵四番艦! これより急降下爆撃態勢に入る」

「了解!」

 ユニコーン小隊は三度目の急降下爆撃を行い、投下した爆弾は、ガレアス四番艦に命中。轟沈した。





 急降下爆撃のため、高度を下げていた編隊に、ゴブリン艦隊から無数の弓が射掛けられる。

 次々と飛来した弓は乾いた音を立て、飛空艇の外板に弾かれていく。

 頭を屈めながら、ジカイラが呟く。

「アイツら、弓で飛空艇が落とせると思っているのかよ?」

 ジカイラの呟きにティナが答える。

「飛空艇を大きな鳥だと思っているんじゃない?」






 突然、ユニコーン03にめがけて巨大な石の固まりがガレアスから飛来する。

 操縦していたクリシュナは慌てて機体を回避させた。

「ちょっと! 何なの!? あれ!!」

 クリシュナの疑問にハリッシュが答える。

「気を付けて下さい! 投石機(カタパルト)です! あんな物まで搭載しているとは!!」






 ケニーがヒナを気遣う。

「ヒナちゃん、もう大丈夫だよ。編隊の高度が上がったから、もう奴等の攻撃は届かないから」

「ありがとう。ケニーたん」

「残る爆弾は一発。ガレアスは二隻。ラインさん、どうするつもりだろう?」

「きっと、何か考えがあると思う」





 ユニコーン小隊は四度目の急降下爆撃を行い、ガレアス五番艦を撃沈した。

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