267章 妖精とシノブ
室内は急に暗くなった。数秒後、妖精は姿を現す。
「妖精さん、お久しぶりです」
「ミサキさん、お久しぶりです」
「人のいるときにやってきてもいいんですか?」
妖精はけろっとしていた。
「別に構わないですよ。他の人に正体を知られても問題ありません」
妖精は笑みを浮かべる。
「ミサキさん、旅行はどうでしたか?」
「とっても楽しかったです」
「ミサキさんは、いろいろな方から愛されていますね」
「そうですか?」
「自覚はないみたいですね」
「そうかもしれませんね」
シノブは異変を感じたのか、二つの瞳を開いた。そのあと、ゆったりとした歩調で、こちらにやってきた。
妖精は起きたばかりの女性に、簡単な挨拶をする。
「シノブさん、はじめまして」
シノブは不意打ちを受けたかのように、体をのけぞらせていた。
「あなたは誰ですか?」
「ミサキさんの生活を陰でサポートする妖精です」
生活=金銭面を意味する。食事、睡眠、お風呂などはサポートしておらず、効果は非常に限定的である。
「ミサキさんの生活費などを・・・・・・」
「そうですね。おもに生活費、家をサポートしています」
「1カ月で100万ペソも渡しているんですか?」
「はい。満足に食べられるように、100万ペソを渡します。写真集、サイン、握手会の売り上げなどに応じて、生活費をプラスしています。総額で4000万ペソくらいを仕送りしました」
「4000万ペソですか?」
「はい。ミサキさんの活躍からすれば、当然といえる金額です」
シノブは話の方向性を変えた。
「ミサキさんを特殊な体にしたのは、どうしてですか?」
「ミサキさんは何も食べられず、あの世に旅立ちました。こちらの世界では、たっぷりと食べて
ほしいという方針です」
シノブの瞳に濁りが生じる。
「ミサキさんの食べっぷりを見ていると、さすがにやりすぎに感じます。ちょっとくらいは、必要カロリーを減らしてもいいのではないでしょうか?」
「ミサキさんは大食いキャラクターで、大衆の心をつかんでいます。大食いを取ってしまったら、長所のない女性になってしまいます」
「それでも・・・・・・」
「シノブさんの焼きそば店は、ミサキさんの人気で成り立っています。ミサキさんの長所を取ってしまったら、店は立ち行かなくなりますよ」
シノブは急所を突かれたのか、口をつぐんでしまった。
「ミサキさんがしっかりと睡眠をとれるよう、9時から7時までは食事抜きにしました。私たちも考えるところは、きっちりと考えています」
9時から7時については、飲食をする必要はない。ミサキはその能力を生かして、ベッドの中で安眠している。