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第九話 飛空艇

 士官学校での授業は、一般教養から剣術、騎乗、魔法、歩兵戦闘など必修科目と選択科目で幅広く行われた。

 ラインハルトは全科目でトップの成績であり、次いでナナイだった。

 ジカイラとヒナは実技は得意だが座学が苦手なタイプで、ハリッシュは反対に実技は苦手だが座学は得意なタイプであった。

 ティナとクリシュナは「中の上」くらい。ケニーは平均的な成績であった。

 今日は飛空艇の操縦訓練であった。

練習用飛空艇「コンプテタ」
魔導発動機二機搭載
複座式ティルトローター機

 この世界の飛空艇は、重力を浮遊水晶(フローティングクリスタル)による魔法の浮力によって相殺し、プロペラの推力によって飛行する。

 操縦はパイロットとナビゲーターの二人一組で行い、状況によって交代することが一般的であった。

 教官が大声を張り上げる。

「今日は()()()()()の結晶である飛空艇の飛行訓練だ。」

 ジカイラが教官の説明を聞き、ラインハルトに耳打ちする。

()()()()()じゃなくて()()()()だろ? アイツら帝国が開発したものをパクって、とぼけているんだぜ。」

 ジカイラの批判は正しかった。

 軍事大国であったバレンシュテット帝国は、魔法科学を発展させアスカニア大陸において「頭一つ飛び抜けた存在」となり、中世レベルの文明しか持たない諸外国を圧倒していた。

 革命後、革命政府は共に革命を主導した知識階級の者たちを粛清、自分たちの権力基盤を強固にすることに執心。革命を嫌った帝国の優秀な技術者たちは野に下ってしまった。

 その結果、革命政府支配圏の文明レベルは、中世に逆戻りしつつあった。

 ラインハルトとナナイは飛空艇に乗り込んだ。

「座学どおりやれば大丈夫だよ。」

「ええ。」

 ラインハルトは緊張気味のナナイを気遣って声を掛けた。

発動機始動(モータリングスタート)!」

 ラインハルトは掛け声と共にエンジンの起動ボタンを押した。

 エンジンの音が響く。

 ナナイが続く。

飛行前点検(プリフライトチェック)、開始(スタート)!」

 ナナイは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。

発動機(エンジン)航法計器(エアーデータ)浮遊水晶(クリスタル)降着装置(ギア)昇降舵(フラップ)全て異常無し(オールグリーン)!」

 ナナイからの報告を受け、ラインハルトは浮遊(フローティング)水晶(クリスタル)に魔力を加えるバルブを開く。

「ユニコーン01(ゼロワン)離陸(テイクオフ)!」

 ラインハルトの声の後、大きな団扇(うちわ)を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。

発進(ゴー)!」

 ラインハルトは掛け声の後、クラッチをゆっくりと繋ぎスロットルを徐々に開ける。

 プロペラの回転数が上がり風切り音が大きくなると、機体は徐々に上昇し始めた。 







 ナナイは地上を見た。

思わず感嘆の声が漏れる。

「綺麗。」

 眼下には士官学校と、その周囲の田園風景。

 遠くに港があり、海が広がっていた。

「視界、良好。西北西、微風。異常無し。」

ラインハルトの声が伝声管を伝って聞こえてくる。

僅かな風がナナイの顔を撫でる。

 ナナイは空を見上げた。

 太陽。

 そして、はるか上空を小さな雲が流れていく。

(空がこんなに広いなんて。)

 空にナナイを縛りつけるものは何も無い。

 ラインハルトと一緒に何処までも飛べる気がした。

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