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第七話 ユニコーン、突然の来訪者

 午前中で入学式が終わり、寮で昼食を取ることとなった。

 寮の食堂に全員が集まる。

 ラインハルト、ジカイラ、ハリッシュの三人はテーブルを囲んで椅子に腰かけた。

「小隊旗ねぇ~。ラインハルト、任せた」

 ジカイラが面倒臭そうに言う。

「実はもう、考えてあるんだ」

 ラインハルトは羊皮紙を広げて小隊旗の図柄を見せる。

「お前、女を口説くのも速いが、仕事も速いのな」

 ジカイラはそう言うと、脚を組み、頭の後ろで両手を組んで、椅子の背に持たれ掛かった。

 ハリッシュは、中指で眼鏡を上げる仕草をした後、呟いた。

「ほう。これは・・・。私に異論はありませんよ。ラインハルト」

 頭の回転が速い彼は、ラインハルトの意図を察したようだった。

 ティナがキッチンから昼食のパンが入った籠を持ってくる。

「ちょっとは手伝ってよね~。って、どうしたの? これ??」

 キッチンからソーセージを持ってきたヒナとケニーも、ティナと一緒に羊皮紙に書かれた小隊旗の図柄を覗き込む。
 
 配膳をしていたクリシュナが人だかりの外から割り込む。

「あらっ? これ『ユニコーン』でしょ? 素敵ね~。小隊旗の原案?」

 クリシュナからの質問にケニーが答える。

「そう。ラインさんが作ったんだ」

 自慢気にクリシュナが腕を組んで人差し指を立て、皆に講釈を始める。

「『ユニコーン』はねぇ~。 『純潔』、『高貴』、『乙女』の象徴なのよ。そして『その守り手』とされる幻獣ね」

 ジカイラが天井を見ながら呟いた。

「純潔、高貴、乙女・・・」

 ジカイラの呟きに合わせて、その場に居る全員の視線がナナイに集まる。ちょうど、ナナイはスープの入った鍋をキッチンから食堂へ持ってきたところだった。

(ジー)

「えっ!? えっ!?」

 ナナイは、そのエメラルドの瞳で食堂にいる面々を見回したが、全員が自分を見つめていた。

 ナナイには、なぜ皆の視線が自分に集まっているのか、判らなかった。

 ジカイラは更に呟く。

「その守り手・・・」
 
 ジカイラの呟きに合わせて、今度は全員の視線がラインハルトに集まる。

(ジー)

 皆の視線にラインハルトは少し照れ臭そうに微笑んでいた。

「そういうことか!」

 そう言うと、ジカイラは「やっと理解した!」と言わんばかりに右手で自分の膝をポンと打った。

 ジカイラの行動を見て、食堂に居た全員が笑い出した。

 ナナイは、なぜ皆が笑い出したのか判らず、スープの入った鍋をテーブルに置くと小首を傾げた。

 ヒナがナナイを人差し指で突っ突きながら冷やかす。

「もぅ・・・お二人さんったら・・・。昼間っから、アツアツですなぁ~」

 ヒナからの冷やかしも、ナナイは意味が判らず、キョトンとしていた。

 その様子を見たハリッシュが、ナナイに小隊旗の図柄を見せ『ユニコーン』が描かれている意味を教えると、ナナイは照れて顔がほんのり赤くなった。



--小隊旗に描かれたユニコーン

『純潔』『高貴』『乙女』の象徴。そして『その守り手』とされる幻獣。

それは「ナナイの守り手になる」というラインハルトの決意表明であった。

こうして 小隊旗、通称(コールサイン)ユニコーンが決まった。


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 昼食が終わり、全員でくつろいでいると突然、寮の入口のドアをノックする音が聞こえた。

 玄関に向かおうとしたケニーをジカイラが制止する。

「あー。いい。いい。オレが出るわ」

 そう言うとジカイラは玄関へ向かった。

 ジカイラはドアを開けた。

「はい、はい。どちらさん? ・・・って、うおっ!?」

 ドアが開くと、外に立っていた老執事が屋内に踏み込んできた。その鋭い眼光にジカイラが気圧され、後退(あとずさ)りする。

「何者だ? 爺さん??」

 ジカイラの問い掛けに老執事は答える。

「当家のお嬢様がこちらにお邪魔していると伺いまして」

「お嬢様?」

 ジカイラは少し考えた。

(「お嬢様」って、この小隊でナナイしかいないよな) 

 食堂の入り口へ行き、中を覗き込んでナナイを呼んだ。

「ナナイ。お客さんだぞ」

 ジカイラに呼ばれたナナイは玄関へ向かった。

「ナナイのお客さん」と聞き、ラインハルトもナナイの後に続く。

 制服の上にエプロンをした姿のナナイが老執事に話しかける。

「あら? (じい)。どうしたの?」

「お嬢様、お迎えに上がりました」

 老執事はそう言うと、(うやうや)しくナナイに一礼した。

「折角だけど、先に帰っていて。門限までには帰るから」

「先日の暴漢がまた襲ってくるかもしれませぬ」

「その時は、またラインハルトに守ってもらうから」

 そう言うとナナイは、笑顔でラインハルトと腕を組み、老執事の前に連れてきた。

「ほぅ? お嬢様を暴漢から救ったラインハルトとは、お主のことか?」

 老執事は、そう言いつつラインハルトに詰め寄った。

「ええ、まぁ」

 ラインハルトが返事をすると、老執事は「ふぅむ」と値踏みするようにラインハルトを観察しながら、その周囲を一周する。

 そして、正面で「カツン」と音を鳴らして(かかと)を揃えて立ち止まると、正面からラインハルトの顔を見据える。

 老執事は、いきなり両手でラインハルトの手を握ると、お礼を言う。

「かたじけない!! お嬢様を暴漢から救って頂き、感謝の言葉もない! お嬢様を一人で買い物に行かせるなど、この不肖(ふしょう)パーシヴァル、一生の不覚であった!!」

 そう言うと、ラインハルトに深々と頭を下げた。

 老執事の豹変ぶりにラインハルトは少し困惑する。

「頭を上げて下さい」

(じい)は心配性ね。大丈夫。ラインハルトは上級騎士(パラディン)だし」

 ナナイの言葉に老執事は驚く。

「なんと!! お主、その年齢で上級騎士(パラディン)なのか!?」

「はい。」

 ラインハルトの返事を聞き、再び老執事は「ふぅむ。」と考え込む。

「判りました。お嬢様。この界隈(かいわい)上級騎士(パラディン)に勝てる者など、まず、いないでしょう。私は先に屋敷に戻っております」

「ご苦労さま」

老執事は、再びナナイに(うやうや)しく一礼すると、寮を後にした。

パーシヴァルは、歩きながら考えを巡らせる。

 ラインハルトの事が気になった。

(お嬢様の楽しそうな笑顔は久しぶりだ。しかし、あのラインハルトという者・・・。上級騎士(パラディン)。金髪。あのアイスブルーの瞳。・・・何かを忘れているような気がする)

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