235章 部屋に招かれる
タウダルヒカの部屋にやってきた。同行者はおらず、一人だけである。シノブ、マイ、ユタカ、シラセの中で付き添いが欲しかった。
フユコを抜いたのは、付き添いには不適当だから。タウダルヒカに失礼な態度を取ったら、社会から制裁を受ける。地上を二度と歩けなくなる、可能性すら残されている。
ルヒカの部屋には、物はほとんどなかった。小さなカバンが一つだけ、部屋の片隅にぽつんと置かれていた。
超大物と一緒にいるからか、喉はカラカラ。しっかりと水分を取ったのに、効果はまったく感
じられなかった。
「ミサキさんと二人で過ごせるなんて、夢を見ているみたいです。一緒にいられるだけで、1億ペソくらいの価値があります」
「私はそんな価値はないですよ」
「あたしにとっては、それくらいの価値があります」
タウダルヒカは雲の上の存在。二人きりで言葉を交わせるとは、夢にも思っていなかった。
「ミサキさん、緊張しているんですか?」
ミサキは小さく頷いた。
「ルヒカさんのオーラに圧倒されているみたいです」
「それはよくいわれます。あたしは出しているつもりはないけど、周囲の人にはそう思われているみたいです」
容姿、風格、威圧感のどれをとっても、クドウアヤメの数段上にいる。タウダルヒカと比べると、クドウアヤメはひよこさながらである。
ルヒカは髪の毛を触ったあと、思いもよらぬことをいった。
「ミサキさん、膝枕をしてください」
「膝枕ですか?」
「はい、そうです」
「わかりました」
ミサキが膝を差し出すと、ルヒカは頭を預けてきた。
「ミサキさん、ありがとうございます」
横になった女性からは、オーラ、風格、威圧感はなかった。睡眠をとるときは、一般的な女の子になるようだ。
「ミサキさんの膝枕は、とっても癒されますね」
ルヒカは左手で、ミサキの太腿をさする。
「ミサキさんの太腿はとっても細いですね」
「そうですか」
「私も細いといわれますけど、ミサキさんよりは太いと思います」
自分では意識することは少ないけど、細いことはれっきとした事実である。
「ミサキさんは、アイスクリームガール、アイドルをされているんですか?」
「アイスクリームガール、アイドル活動はしていません」
「アイスクリーム出演、写真集で見かけましたけど・・・・・・」
「臨時の助っ人として参加しただけです。普段は焼きそば店で、お仕事をしています」
「ミサキさんは何かに専念すれば、とんでもない逸材になりそうです」
「特殊な体をしているので、本格的な活動はできません。外で仕事をできたとしても、1カ月に1~2回が限度ですね」
一度きりの活動で、体重は4キロ以上も減る。本格的に動き出したら、一週間もしないうちに、命を落とすことになる。
ルヒカの掌は、ミサキのおなかにあてられた。くすぐったさによって、バランスはかすかに崩れた。
「写真で見ているときよりも、ずっと細いですね」
160センチ、41キロは完全に痩せすぎ。もうちょっとだけ、体重を増やしたい。
「あんなに食べているのに、太らないのはすごいですね」
「体重は増えにくく、減りやすいです。体重を増やすのに、とっても苦労しています」
「同じ女性として、とってもうらやましいですね」
ルヒカの部屋がノックされた。膝枕で横になっていた女性は、すぐさま体を起こす。