207章 仕事の依頼
アイドル会社の社長は逮捕された。罪は横領、強姦、殺人未遂となっている。
社長は罪を認めず、容疑を完全否定。俺は知らなかった、何もやっていないという主張を通し続けている。こういう人間は裁判で有罪になっても、俺は悪いことをしていないと思うタイプなんだろうな。
テレビ放送によると、懲役50年以上といわれている。54歳なので、地上に出てくることは二度とないと思われる。
社長の第一秘書も逮捕された。社長のやり方を知りながら、黙認していたことが逮捕の決め手となった。
社長の妻、子供の同時に逮捕された。アイドル収入を横領していたらしく、横領罪で刑務所に閉じ込められることとなった。
第一秘書、妻、子供は罪を認めた。社長のように、図太い性格を貫き通すことはできなかったようだ。罪を認めるような性格なら、最初から犯罪に向いていなかったということ。神経を麻痺させることは、犯罪者の必須スキルだ。
社長などの逮捕によって、アイドル業界は完全消滅。サクラココロなどは、仕事を完全に失うこととなった。社長の傲慢さによって、多数のアイドルは失職した。
ミサキのところに、ミナギという依頼者がやってきた。眼鏡をかけた、20歳くらいのきれいな女性である。
ミナギはメガネのふちに手を当てた。
「ミサキさんに、うどんの良さを伝えてほしいです」
「場所はどこですか?」
「ここですね」
うどん屋までの距離は片道1時間。長距離移動でないことに、胸をなでおろす。
「わかりました。私でよければ、喜んで協力させていただきます」
ミナギはお風呂あがりの、アヤメに声をかける。
「アヤメさんも出演しませんか?」
アヤメは自分を指さす。
「私も出演していいんですか?」
「仕事依頼の障壁はなくなったので、私たちの番組に出演してほしいです」
「仕事依頼の障壁?」
「アイドル事業所の社長は恐ろしく傲慢な男で、賄賂などを要求してきます。賄賂を断った場合、出禁にしていたようです」
自分の思い通りになる会社だけと取引する。ワンマン体制にありがちなやり方といえる。
「アヤメさんは、フリーでやっていただいたほうがいいです。スケジュールも調整しやすいです
し、面倒な事務所を通す必要もありません」
アヤメは俯いた。
「バンジージャンプをやらせようとしていなければ・・・・・・」
「確かによくないことですけど、気持ちはわかります。私も同じようにしたと思います。ミサキさんの人気なくしては、人を集めることはできません」
ミサキは咄嗟に否定する。
「私はごくごく普通の一般人です。人を動かすような、カリスマ性は皆無です」
ミナギはこちらに視線を向けた。
「カリスマ性のある人間よりも、身近に感じられるほうが、人気を集められるみたいです。遠い存在であったなら、大人気になることはなかったでしょう」
もっともらしいことをいっているけど、納得できる要素はどこにもなかった。頭の中には、大量の?マークが浮かんでいた。