206章 通報
ミサキの家に、新たな来客がやってきた。アヤメの元マネージャーの、シズカだった。
「アヤメさんを探しています。居場所を知っているのであれば、教えていただけませんか?」
ミサキはしらずしらずのうちに、冷たい声を発していた。
「アヤメさんは、どこにいるんでしょうね」
シズカは声を震わせる。アヤメの身の危険を、はっきりと理解しているようだ。
「アヤメさんを早く助けなければ・・・・・・」
「アイドルを解雇された以上、何の関係もない赤の他人ですよね。シズカさんと、完全に縁は切れている状態です」
シズカは解雇を知っていることに、明らかな動揺を見せる。ミサキが情報を知っているとは、考えていなかったようだ。
「それは・・・・・・」
シズカは唾をのんだ。
「元マネージャーとして、アヤメさんを放置するわけにはいきません。居場所を絶対に突き止めて、救出したいです」
「アヤメさんは、シズカさんに会いたいと思っているのでしょうか?」
シズカは不意を突かれたように、
「え?」
といった。
「アヤメちゃんは満足に食事も与えられず、服をボロボロの状態でした。当事者でなくても、ひどい仕打ちにあったのは伝わりました。利用するだけ利用して、用済みになったらポイ捨てするのは、どうかと思います。アイドル関係者に、人間の心はないようですね」
「私は何も知らされず・・・・・・」
「シズカさんが知っている、知っていないはどうでもいいです。アヤメちゃんはぞんざいに扱われた挙句、命を落としかけたんです。彼女は計り知れないほどの、深い傷を負っています。アイドル関係者と顔を合わせたいとは思っていないでしょう」
ミサキは情報をプラスする。
「あまりの悪質性の高さから、殺人未遂事件として、警察に通報しました。関係者の逮捕は避けられないでしょう」
「警察・・・・・・」
「そうです。警察です」
アヤメは事情を細かく、警察に説明する。話を聞いているだけで、身震いするような仕打ちを受けていたことがわかった。
アヤメの話を受けて、警察はすぐに動き始める。今頃はアイドル事務所に向かっていると思われる。
ミサキは白目をむきながら、
「何の用事もないのであれば、帰っていただけませんか。10秒以内に退出しない場合、不法侵入として通報します」
と言い放った。シズカはあきらめたのか、すぐに家からいなくなった。