205章 使い捨て
アヤメはラーメンを食べると、元気を取り戻す。
「ミサキちゃんのおかげで、体はおおいに生き返った。本当にありがとう」
トップアイドルの命を救うことができた。そのことに対して、おおいに安堵することとなった。
「アヤメちゃん、食事代を持ってないの?」
トップアイドルとして、たくさんのお金を稼いできた。たんまりとお金を持っていても、何ら不思議はなかった。
「お金のほとんどを巻き上げられて、手元には100ペソを残すのみ。移動するだけで、底をついてしまった」
邪魔者になったから、容赦なく殺してしまえ。アイドル業界の、冷徹すぎる意思を感じた。
「アヤメちゃん、ぞんざいな扱いを受けていたんだね」
シノブ、マイ、ホノカ、ナナなども同じことをされていたのだろうか。仮にそうだとすれば、心に大きな傷を負っていることになる。
アヤメのやり方は、餓死したときと重なっている。ミサキはおおいに親近感を覚えることとなった。
「アヤメちゃん、おなかは満たされた?」
アヤメは首を横に振った。
「まだまだ足りないよ」
1日1000キロカロリー少女は、頬が痩せこけていた。三日三晩は何も食べていないのを感じさせた。
「アヤメちゃん、次は何を食べる?」
「ご飯を食べる前に、水をちょうだい」
「わかった。水を持ってくるね」
ミサキはコップに水を入れたあと、トップアイドルに手渡しする。アヤメは喉がカラカラなのか、一気飲みしていた。
「ミサキちゃん、ありがとう。次はステーキ丼を食べたい」
味噌ラーメン、ステーキ丼はカロリーが多く、不健康な食事である。美肌を保つためには、不向きといえる。
「食事制限はしなくてもいいの?」
アヤメは髪の毛をかきあげた。
「アイドルを解雇されたから、好きなものを食べたいと思っている」
長期謹慎ではなく、アイドルを解雇されていた。一つに失敗をしたことで、契約解除に至るのは残酷だ。
「アヤメちゃん、ステーキ丼だよ」
アヤメはステーキ丼にがっついていた。腹ペコ少女と、食べるスピードは変わっていなかった。
「ミサキちゃん、ありがとう。おなかは十分に満たされたよ」
味噌ラーメン、ステーキ丼だけで満足できる女性。腹ペコ少女とは、おなかの根本は異なるようだ。
「ミサキちゃん、膝枕をお願いします」
「うん、いいよ」
ミサキが膝枕の態勢を整えると、アヤメはすぐさま横になった。
「ミサキちゃんの膝枕はとっても気持ちいいニャー。とっても癒されるニャー。ストレス解消にもってこいだニャー」
アヤメの猫言葉を聞いて、とっても懐かしい気分になった。
「ミサキちゃんは命の恩人だね」
「そんなこと・・・・・・」
「ミサキちゃんなくしては、私の命はなかった」
アヤメは睡眠不足なのか、目はうとうととしていた。
「アヤメちゃん、睡眠をとるときは布団で眠ってね」
「わかった。布団に移動する」
アヤメは体を起こすと、布団に向かっていった。