204章 トップアイドルからの転落
アヤメの服から、強烈な異臭を感じた。臭いの強さから、10日以上は着替えていないと思われる。
臭いの強さもさることながら、ボロボロであることも気になる。衣装にお金をかけないという、鋼鉄の意志を感じさせた。
「アヤメちゃん、服を洗濯したほうがいいよ」
「うん、そうする」
「お風呂にも入ったほうがいいね」
「そうだね・・・・・・」
家に入った直後、アヤメの体は大きく左右に揺れる。
「アヤメちゃん、体調悪いの?」
アヤメは小刻みに頷く。
「契約違反をしてから、誰も大切にしてくれなくなった。食事は満足に与えられず、おなかペコペコの状態が続いている」
利用価値を失えば、路頭に放り出される。人間社会はつくづく残酷だ。
「お風呂に入れていないし、服の着替えもさせてもらっていない。人間としての生活を送れなくなってしまった」
トップアイドルの転落ぶりに、ドラマを見ているかのようだった。フィクションでなければ、説明のつかないレベルだ。
「アヤメちゃん、水を持ってくるね」
「ミサキちゃん・・・・・・」
「体調を整えてから、ゆっくりと話をしようね」
「ありがとう・・・・・・」
ミサキは水をコップに入れたあと、アヤメに手渡しする。
「アヤメちゃん、水だよ」
アヤメは喉カラカラらしく、水を一気飲みする。
水を飲み終えたばかりの女性は、食事のリクエストをする。
「ミサキちゃん、食事をちょうだい・・・・・・」
「アヤメちゃん、何を食べたいの?」
「味噌ラーメン」
「わかった。すぐに準備するね」
ミサキは自販機で、味噌ラーメンを注文した。アヤメはその様子を、静かに見守っていた。