181章 空気
パン10個、おにぎり10個、から揚げ10人分を完食。おなかは持ち直すこととなった。
「ミサキちゃん、おなかは回復した?」
「うん。ばっちりだよ」
おなかは持ち直したけど、メンタルは完全ではなかった。ジェットコースターの恐怖は、頭に深く刻み込まれている。
「アヤメさん、バンジージャンプをお願いします」
アヤメは自分だけが呼ばれたことに、クエッションマークを浮かべていた。
「ミサキちゃんは、バンジージャンプをやらないの?」
「バンジージャンプは怖いからパスする」
シノブは服の裾を強く引っ張る。
「一度でいいから、体験してみよう」
ミサキは首をぶるぶると横に振った。
「バンジージャンプは絶対に無理!」
ジェットコースターで気絶した女性に、バンジージャンプ挑戦はハードルが高い。宙に放り出された瞬間に魂を抜かれる。
「ミサキちゃんが挑戦しないと、遊園地のPRにならないよ」
「アヤメちゃん一人で、十分にPRできるよ。私はいてもいなくても同じだよ」
アヤメはいつにもなく、険しい声を発する。
「ミサキちゃん、引き受けた仕事を逃げるのはNGだよ」
「ジェットコースターは引き受けたけど、バンジージャンプはNGと伝えたよ」
「遊園地にやってきたら、そんなことはいってられないよ。バンジージャンプのところに行こう」
アヤメ、それ以外の人間に、はっきりとした距離感が生じていた。
「私はまだ死にたくない。私はまだ生き続けたい」
食べ物を満足に与えられず、悲惨な最期を遂げた。あんな絶望的な死に方は、二度と繰り返したくなかった。
「ミサキちゃん、一度でいいからやろうよ」
アヤメを納得させるためには、バンジージャンプに挑戦するしかない。ミサキは覚悟を決めることにした。
「わかった。一度だけ挑戦する」
ミサキが挑戦するといったことで、遊園地の関係者はおおいに慌てていた。
「ミサキさん、問題ないですか?」
「わからないけど、とりあえずはやってみます」
「万が一のために、パラシュートをお渡しします。事故のあったときは、そちらを使用してください」
パラシュートは一度も使ったことはない。手に持っていたとしても、宝の持ち腐れで終わりそうだ。
「ミサキさん、無理だけはしないでくださいね」
「わかりました」
「無事を願っています」
ミサキはバンジージャンプのある方向に向かった。アヤメを除くすべての人間は、ミサキの身を案じていた。